07
「これで最後か。さすがにレベル10は時間がかかったな」
全くやられる気はしなかったが、とにかく物量が多かったので今までのレベルとは違って倒しきるのに時間がかかってしまった。
なんだろう、最初のギャングといい、最後の悪の帝国の全軍(陸・海・空)といい、敵が全部悪人設定なんだが。悪の組織の敵なら普通、正義の味方や警察組織が想定されるんじゃなかろうか。
それにしても俺って才能あるのかな。大総統のおっさんは「エナジースーツを使いこなすのは容易ではない」と言っていたがレベル1から簡単にエナジースーツを使えたんだよな。
以前から知っていたかのように不思議とエナジースーツの動かし方がわかった。
よく武道の達人が「長年修行をしてきたおかげで自然と身体が動いた」と漫画とかで言っているが、まさにそんな感覚だった。俺は長年の修行なんてした覚えはないがまさにそんな表現がぴったりくる。
それにしてもこのエナジースーツの性能は本当にすごい。戦闘時の身体能力と感覚の強化はもちろんだが、通常時でも破格の防御力を誇る。バーチャル空間だから死ぬことはないだろうとあえて戦闘機の対艦ミサイルの直撃を受けてみたが全くの無傷だった。
そう。最後の相手である悪の帝国軍には戦闘機満載の空母を含む大艦隊が出てきていたからな。まあ、幹部スーツには飛行性能もついてるから戦闘機相手でも空中戦ができたから全然問題なかったけど。
極悪神官スーツの飛行スピードは音速を余裕で超えているので戦闘機もノロマに感じたくらいだ。
しかし、このバーチャルシステムが現実のエナジースーツの性能を忠実に再現しているとしたら本当に世界征服の一つや二つできてしまいそうだ。
『本当に世界征服ができてしまう』
そう思ったときの俺の気持ちは、『すごい!』でも『やったー!』でもなく『これはマズイ』だ。
こんな危ないものを使う組織を野放しにするわけにはいかないだろうなあ。そう思いながら俺はトレーニングシステムを終了してのだった。
*
俺がヘルメットを外すとミコちゃんが感想を聞いてくる。
「どう?」
「上手くできたと思うけど、どうかな?」
俺が逆に質問して返すと、ミコちゃんは少し考えるしぐさをして答える。
「思ったよりも早かった。まあ、武器なしで初めてならこれくらいできれば上出来」
俺としてはかなりスムーズに全面クリアしたつもりだったが、初めてにしては上出来くらいの早さなんだな。
「そういえば外からはバーチャル訓練の様子をモニターできないの?」
かかった時間の感想しか言わないミコちゃんに違和感を覚えてそうきくと、
「ない。組織には私と大総統様しかいないからその機能は必要ない」
ミコちゃんはそっけなく答える。
確かに構成員が親子二人ではわざわざ訓練を外部から見れるようにする必要もないか。
「もう一度する?」
ミコちゃんから提案されるが、俺は首を振る。たぶん今からもう一度しても結果は変わらないだろう。
「そう。そのほうがいいかも」
ミコちゃんはあっさりと引き下がって俺を再び大総統の元へ案内していく。
*
「終わりましたよ」
俺の報告に大総統は不機嫌そうな声をあげる。
「なに?もう終わった?あきらめるにもしても早過ぎるぞ!全く最近の若い者はこれだから困る。ちょっとつらい事があるとこうやって投げ出すのだ。失敗してもいいから続けてみる。それが大事なのだぞ!わしは失敗しても怒らんからな!部下の失敗はわしが全て責任を取る!ちゃんと残業もつけてやるぞ!」
なんか理想の上司みたいな事を言い出したが、何か誤解があるようだ。
「いえ、全面クリアしたんですよ。あきらめたんじゃなくて終わったんです。レベル10が最終ステージですよね?」
「全面クリアしたの?!」
ミコちゃんは驚くと素の口調になるのが何ともかわいい。いつもはクールな闇巫女を必死に演じているんだろうなあ。
しかし、この発言から考えるとどうやらミコちゃんも俺が早く終わったのは早々にあきらめたからと思っていたらしい。まあ、同じ早くあきらめたと思っていても説教してきた大総統と違ってねぎらってくれていたけど。
そして大総統は信用していないのか疑いの口調だ。
「ほおー、大口を叩くなあ、極悪神官よ。初めての者がこの短時間で全面クリアなどそんな事があろうはずもないが、お前がどの程度まで行ったのか、そしてお前がどの程度スーツを使いこなせたかはスコアが出るから一目瞭然なんだぞ?どれどれ・・・」
そんな得点機能もあるのかよ。マジでバーチャル戦闘ゲームみたいだな。
「こ、これは・・・、3億点!し、信じられん!これでは全面クリアした上にほとんどノーミスではないと出ない点数ではないか!」
「・・・3億・・・。しかも、武器なしでなんて・・・」
得点を確認した大総統とミコちゃんはわかりやすく驚いている。
なんか見た事ある光景だな。ああ、チート系主人公でよく見るやつだな。
えーと、こういう時はだいたいこんな感じに答えるんだっけ。
「3億点しか取れなかったんですね・・・。これでも頑張ったんですが」
俺はわざと残念そうつぶやく。
こうやって自分がすごい事をやったと自覚してないフリをして、逆に普通より能力が低いと思い込んでいる言動をするのが正解だったよな。最近はみんなやってるし。
しかし、
「極悪神官、その反応は無理があるぞ」
「そう、無理」
大総統とミコちゃん、二人同時に冷たい言葉を浴びせられる。
・・・ですよねー。自分でもそう思ってました。
「そんなお寒い発言を堂々と言うとはな。極悪神官、お前は結構イタイ奴だったじゃな」
・・・すみません、許して下さい。もうしませんから。
俺は凡人である自分が流行に乗ろうとしたことを後悔したのだった。