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俺用の『アリバイそっくり君』を大総統にお願いしてから3日後。
「これが俺の『アリバイそっくり君』かあ・・・」
俺は暗黒闇極悪軍団の自室で大総統に用意してもらった『アリバイそっくり君』をしみじみと眺める。
暗黒闇極悪軍団の大幹部である俺には基地内に専用の一室を与えられている。もっとも、部屋を与えられていても特に置く物もないからガランとしてものだ。今のところのこの部屋の唯一の物がこの『アリバイそっくり君』だと言っていいい。
「なんか鏡見てるみたいだな~」
大総統が腕によりをかけて調整しただけあって『アリバイそっくり君』の容姿は気持ち悪いくらいに俺に似ている。今のままでは等身大フィギュアに過ぎないが、これが動き出したら確かに俺と見分けはつかないだろう。
「それじゃあ起動してみるか・・・」
俺は恐る恐る起動スイッチ(別パーツでリモコン型)を押す。
『アリバイそっくり君』はゆっくりと瞼を開けて・・・
「ちーすっ。赤井の旦那のアリバイ君やらせてもらってるっす」
あまり聞きなれない声でやたら軽いテンションで絡んでくる。自分の声は録音して聞くと別人のように聞こえるというがまさにそんな感じだ。
「おっ、旦那どうしたんすか?そんな驚いたような顔しちゃって?あまりのそっくりぶりに驚いたんですかい?安心してください!バッチリ旦那の代役を勤めていきますんで!」
「・・・お前、俺に似るはずだよな。俺、そんな話し方してるか?」
これが俺の代役だといくら姿かたちがそっくりでもすぐに偽物だとバレるんじゃないか。そんな疑問を持つのだが、『アリバイそっくり君』はさらにハイテンションで続ける。
「いやー、これは旦那と話すとき用の性格っすよ。ほら、同族嫌悪ってあるでやんしょ?あんまり旦那に似すぎていたらモノマネされているみたいで不愉快になるのを防ぐために旦那と話すときはあえて旦那とかけ離れた性格になるってわけっすよ。旦那以外の人とはちゃんと旦那っぽく話すので心配要らないっすっよ」
同族じゃなくても嫌悪する場合もあるんだがな。
「なんかわかったような、わからんような。ちなみにもっと丁寧なのないのか。こう執事っぽいやつとか」
同族嫌悪を避けるならこんな軽い感じじゃなくてももっと他にあるだろう。だが、『アリバイ君そっくり君』は口と目を歪めて、
「あー、そういうの無理っすね。なんすか?チェンジってやつですか?無理っすよ!うちは一回決まったらそのままでっていうスタイルでやらせてもらってるんで!」
『アリバイ君そっくり君』はちょっと切れ気味に言ってくる。別に俺に絶対服従しろとは言わないが、こいつはちょっと自由過ぎないか。大総統いわく「大ヒット商品」らしいが、もう少し改良の余地がある気がする。
「そう言えばお前の事はなんて呼べばいいんだ?アリバイ君でいいのか?」
「それでもイイっすが、それだと犬にイヌって名前を付けるみたいでちょっとややこしい感じになるっすよ。なんかいい感じの名前を付けてくださいよ」
「そうだな・・・。でっち1号とかどうだろう」
「・・・いいっすよ。それで」
あからさまに視線を下げてそっぽを向くでっち1号。ホント、こいつ態度悪いね。
「なんか不満そうだな。他に何か付けたい名前があるのか?」
仕方ないから俺がきいてやると、でっち1号は嬉々として答える。
「そうっすね!別にでっち1号でもいいっすけど、『超有能マン』とか『一流の仕事人』とか『意識高い系イケメン』とかだと嬉しいっすね!」
それ、嬉しいか?本当に?もはや名前じゃなくてただの二つ名みたいになってるぞ。最後のに至ってはどちらかと言えば悪口だし。
「言いにくいから却下だ。でっち1号でいく」
「そんな~!もうちょっと考えて欲しいっす!せめて旦那からもう一つ候補を上げてくださいっす!それで納得するっすから!」
めんどくさいなあ。
「・・・じゃあ、『ウザイマン』で」
「・・・でっち1号でいいです」
でっち1号は観念したようだった。
こういうことは最初が肝心なのだ。こうして俺は『アリバイそっくり君』、でっち1号を手に入れたのだった。




