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03

 あー、ついに会うのか。うまくご挨拶をできるといいが。さすがにちょっと緊張してきた。 


「比呂君。悪魔でも死神でもいいのね?」


 ミコちゃんがその人物を呼ぶ前に念を押すようにきいてくる。


 むむ、ミコちゃんのお父さんってもしかしてメチャクチャ怖い人なんだろうか?こう、反社会的勢力みたいな。でも、こんなオタク趣味を持っているくらいだ。たぶん、そんな恐ろしい人ではないだろう。それに男なら後に引けない時がある。そして赤井比呂14歳にとって引けない瞬間とは今なのだ。


 「大丈夫!男に二言はないよ!」


 俺の意志のこもったイケメンな言葉を聞いてもミコちゃんは少し戸惑っていたが、やがて決心して部屋の奥の扉に向かって催促する。

 

 「では、ご登場願います」


 ミコちゃんの言葉を合図にしたように、荘厳な音楽が流れ出し、そして部屋の黒い霧も一層濃くなっていく。


 な、なんだ?いったい何が始まるんだ?戸惑っている俺を無視してクラッシックらしい音楽は流れ続ける。どこかで聞いたことのあるような曲の気もするがあいにくクラシックには詳しくないのでよくわからない。


 音楽が始まってから5分くらいはたっただろうか。まだ誰も登場しない。


 ・・・長くね?


 俺がそう思い始めころに雰囲気を盛り上げるように音楽が急に大きくなると同時に扉が開いた。


 「はーはっはっは!よく来たな!我こそは暗黒闇極悪軍団の暗黒大総統だ!」


 高笑いと共に現れたのは筋肉質の体にぴっちりとした黒のボディスーツ、これまた黒のデカいマント(長すぎて床に引きづっている)をしている大男だ。顔は髑髏のフルフェイスマスクをマスクをしているのでわからないが声からしておっさんだろう。


 「ふっ、驚き過ぎて声も出ないようだな!」


 大総統はあっけにとられている俺のリアクションをいたく気に入ったのかその声には満足そうな響きがある。


 驚いたと言えば驚いたが、ある意味予想通りといえば予想通りの展開過ぎて驚いた所ではあったが、それは言わない方がいいだろう。それよりも気になるのは、


 「暗黒闇極悪軍団?」


 なんかごちゃごちゃしてるな。なんか悪い言葉をとりあえず並べた感じがまるで『僕の考えた最強の必殺技!』みたいな感じがする。もちろんこの場合の『僕』は小学生だが。

 

 「暗黒闇極悪軍団とはこの世界をいずれ征服して統治する組織だ。お前のような小僧は知らんだろうがな」


 「・・・はあ」


 俺は思わず気のない返事をしてしまう。ミコちゃんのご両親の登場かと思ったらただの悪の組織の大総統か。悪の組織ときいた瞬間に俺の緊張感は霧散していた。


 「小僧!わかっているのか?我は世界征服を企む悪の組織の大総統だぞ!」


 「まあ・・・今きいたので・・・」


 俺の反応が気にくわなかったのか大総統はもう一度名乗るが、俺のリアクションは薄い。


 「えーい!嘆かわしい!悪の組織の暗黒大総統を前にしてこの程度の反応しかできないとは!これが現代社会の歪ということか」


 大総統がご機嫌な斜めのようなので、反応できない理由を答えてあげよう。もちろんそれは現代社会の歪とかではない。


 「正直、悪の組織の大総統だからって怯えるのはなかなか難しいです。現実感がありませんし、そこら辺のまだヤンキーの方が怖いです」


 とりあえずミコちゃんの紹介だし、敬語で話しているが怯えるかどうかは別問題だ。なぜかあんまり怖くないんだよな。心の奥底から『恐れる必要がない』と言われている気がする。いつもよりも落ち着いているくらいだ。


 俺の冷静沈着な態度に、

 

 「なあ、どうやったら驚いてもらえるのだ?」


 ついに大総統は俺自身にききだす始末だ。


 「そうですね。悪の大総統であるというのならやはり普通ではない所を見せて頂かないと」


 「それならば先ほどから見せているだろう!この素晴らしい暗黒大総統スーツを見ても普通だと言うのか?」


 「ただのコスプレにしか見えませんが」


 俺の言葉に大総統は明らかにショックを受けている。


 「コ、コスプレではない。わしは本当に暗黒大総統だ」


 「では、証拠をお願いします」


 「ぐっ・・・証拠と言われても・・・最近の若い者はすぐにそういう事を言う・・・」


 大総統は俺の冷静なツッコミに怯むが、それでもくじけなかったのか「それならば、あれを・・・。いや、あれではインパクトが弱いか。ではあれ・・・」といろいろ考えていたようだったが、やがていい事を思いついたのか満面の笑みを浮かべる。

 

 「ふっふっふ、小僧!聞いて驚くなよ?そこにいるのミコの正体を知っているか?そう、ミコこそわしが作った最高傑作なのじゃ!」


 なっ、なにー!ミコちゃんを作ったって!?すごい!欲しい!俺にも1つ作って!・・・じゃない!


 どう見ても人間の超美少女にしか見えないミコちゃんを作ったなんて・・・。俺は信じられないと言った顔でミコちゃんをまじまじと見てしまう。だが、言われてみれば少し納得できる気がする。確かにミコちゃんのかわいさは人間を超えている。この美しさはとても自然発生したとは思えない、この完璧な造形美は人工的な物の様な気がしてきた。これが暗黒闇極悪軍団の技術力・・・。すごい、すごすぎる・・・。


 思わず俺は息をのむが、


 「・・・誤解。大総統が作ったって言ってるのはものすごい普通の作り方」


なぜか恥ずかしそうに顔を赤らめるミコちゃん。


 「普通の作り方?」


 「・・・大総統は私の父」


 「お父さん?ああ、創造主的な?」


 「違うの!そういうんじゃなくて、比呂君のお父さんと同じ意味のお父さんなの!」


 いつのは冷静なミコちゃんが顔を真っ赤にして早口になっている。


 うちの父さんと同じ作り方?まあ、母さんと父さんがあれして俺は出来たんだろうから・・・。


 「ああ!そういう作り方ね!うちと一緒の作り方だね!」


 あー、よかった。ミコちゃんも普通の女の子だと言うことか。いくら超絶美少女に見えるとは言ってもさすがに十四歳にして人工生命体と付き合う覚悟はまだできてなかったからな。


 俺のホッとした顔とは対照的にミコちゃん恥ずかしそうだ。


 「そういう事あんまり大きい声で言わないでよ」


 うん、恥ずかしがる姿もかわいー。あんまり言わないようにします。


 そうかあ、うちと同じ作り方か。そう聞いたら暗黒大総統の髑髏のフルフェイスマスクも気品があるように見えてくるなあ。なんせミコちゃんと血がつながっているんだもんな。

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