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「ついにやつらが動き出したな」
リビングのテレビでニュースを見ながら苦々しく父さんがつぶやく。
そのニュースは今日の幼稚園バスジャックを報じたものだ。
『幼稚園バスが強盗にバスジャックされたものの、突如として現れた謎の二人組によって犯人が捕えられて、けが人もなく逮捕された』と、ちょっと不思議なニュースとして取り上げている。
ただ、謎の二人組の正体はあくまで謎としているし、バスジャック犯に関しても悪の組織との関りがあるような言い方はしていない。
しかし、なぜか父さんは暗黒闇極悪軍団が今回の件に関わっていると確信しているようだ。これが正義の味方の直感というやつなのだろうか。
「でも、バスジャックの犯人は普通の強盗二人組だったんだろ?悪の組織にしてはあっさり捕まってるし、悪の組織は関係ないんじゃないの」
俺の白々しい言葉に、父さんは首を振る。
「これを見ろ!子供たちが助けてくれた『ヒ―ロー』にもらったというステッカーだ!」
そう言って父さんが机の上に出した物に俺は内心ドキリとする。そう、それは俺たちが園児たちに配った暗黒闇極悪軍団の特製オリジナルステッカーだ。
あちゃー、そう言えばあの時はあんまり考えないで配ったけど、思いっきり物証を残してたわ。
「これこそが今回の事件に悪の組織が関わったという動かぬ証拠なのだ!」
暗黒闇極悪軍団とでかでかと書いてあるそれは確かに
「でも、これってただのオモチャにみえるけど。なんか安っぽいし」
俺の指摘に父さんはステッカーを手渡してくる。
「そう思うなら比呂がこれを持ってみろ」
父さんはよくわからない確信を持っているようなので、俺は仕方なくそれを受けとってみる。
が、何も起こらない。それはそうだろう。俺はこのステッカーを配っていたのだ。何か不審な点があればその時にわかったはずだ。
「何にも起こらないみたいだけど?」
「黙ってしばらく待っていろ」
仕方なく俺がステッカーを持っていると、3分ほど立った時に変化が起こった。
『わーはっはっはっは!我こそは暗黒闇極悪軍団の暗黒大総統なり!このステッカーを3分も見ているとは貴様は暗黒闇極悪軍団に相当興味があるようだな!しかも、この映像が見えているなら貴様には才能があるぞ!我らが暗黒闇極悪軍団に入りたければ早速連絡するといいぞ!』
と連絡先のメールアドレスを書いたプラカードを持ったちっさい暗黒大総統のホログラムが浮かび上がってくる。・・・なにやってんだよ。あのおっさんは。
俺は思わず呆れるが、それに気付かないのか父さんはドヤ顔で言ってくる。
「どうだ。これを見てどう思う?」
「カップ麺を作るのに便利だね。3分だし」
こんどカップ麺を作るときに使ってみよう。手で持つと他のことができないから足で踏んでいたらいいだろう。
「そういうことではない!見てわかるようにこれはエナジー力を持った者が3分触れているとこのように反応するようになっている。やつらはこうやってエナジー力の才能のある者を集めようとしているのだ」
「でも、子供なんだろう?これを持ってたの。こんなメールアドレスを見ても連絡のしようがないだろ」
「いや、エナジー力は才能のある者でも子供のうちは弱い。このステッカーが反応するようになるまで成長していれば十分連絡がとれるだろう。しかも、その年までこのステッカーを大事にしていれば暗黒闇極悪軍団に好ましい感情を抱いているに違いない。敵ながら人間の心理をついたなかなかの策だ」
そうか?さすがに気が長すぎると思うが。
「でも、そうだとしたらバスジャックから子供たちを助けたんだろ。いい奴らじゃないか」
俺のもっともな言い分に今度は母さんが真っ向から反論してくる。
「ふん、いい奴らなわけないでしょう!きっと何かひどい悪事を企んでいるに違いないわ!何しろ自分たちで極悪とまで名乗っているのよ!絶対に悪です!悪以外のものであってたまるものですか!私は認めないわ!」
母さんはかなり興奮しているが、その言葉にあまり説得力はない。とにかく悪の組織が嫌いなあまりに絶対に善い行いをしたと認めたくないらしい。
「まあ、なにか裏があるのは間違いないだろう。これは私の考えだがおそらくバスジャック犯人は悪の組織に洗脳されて犯行に及んだのだろう。それを自分たちで解決することでイメージアップを図ったとすればつじつまが合う。奴らにはその程度の洗脳技術はあるはずだからな」
父さんが自分の推理を落ち着いた様子で披露すると「さすがです、あなた。そうに違いありませんわ!」と母さんにも同意している。
うーん、洗脳技術があるのは間違いないが今のところ使ったのは『創立記念日だと思わせ機』だけだぞ。




