019
いろいろ検討した結果、今回の幼稚園バスジャック作戦では俺たちの校区から少し離れた幼稚園のバスを襲うことになった。
変身すればスーツの効果もあって正体がバレる心配はまずないのだが念のため別の校区にしたとの事だ。というかやはり地元の幼稚園などは心理的に襲いにくいものらしい。
別に悪事じゃない(もはや安全面に配慮しすぎてそう思える)からいい気もするが。
「では、大総統様。作戦を開始します」
「うむ、闇巫女よ。成果を期待しているぞ」
秘密基地から俺とミコちゃんは極悪神官と闇巫女のエナジースーツに変身した状態で出発する。
普段は学校帰りに町のあちこちに隠して設置してある(いつの間にか設置されていたのだ。暗黒闇極悪軍団入るまで全く気付かなかったが)変身ボックスを使用して人目に付かないように変身することもあるが今回は秘密基地から変身していく。
正式な作戦なので変身状態で基地から出動する方が望ましいとの理由からだ。
この大総統はカタチから入る事が割と好きなのだ。長い付き合いではないがその性格はわかりやすいので行動パターンや好みはだいたい把握できていた。
何が悲しくておっさんの好みに詳しくならないといけないのだろうか。こんなおっさんの好みよりミコちゃんの好みを知りたいものだが、こっちはまだまだわからない。
今回の作戦を頑張って少しでも仲良くなれたらいいけどな。
俺がそんな事を考えている間に目標の幼稚園バスが走っている地点に到着していた。幹部用のエナジースーツで走れば地球上に存在するどんな乗り物よりも早いのだ。
「あれが今回のターゲット」
走りながらミコちゃんが指さした先には可愛らしいクマの絵が描かれた黄色い幼稚園バスが走っている。事前に幼稚園バスの送迎コースを調べていたらしい。
俺たちはとりあえず速度を加減して幼稚園バスと並走しているのだがこれからどうするのだろう。バスが止まらないとドアも開かないだろうし入る事はできそうにない。
そもそも幼稚園バスジャックを本当にするんだろうか。今更ながら不安になってきたぞ。
「ミコちゃん、これからどうする?」
「・・・停車するまで追跡する」
うーん、できればその後の事がききたかったんだがミコちゃんは口数の少ない闇巫女モードになっているからそれ以上はききにくい感じだ。
ただ、怪しげなスーツを着た二人組が車並みのスピードで走って幼稚園バスと並んでいるという普通じゃない状態になっているので目立つ事この上ないはずだ。
「早くしないと目立ちすぎるんじゃないの?」
「・・・ない。ステルスモードが発動している」
ああ、そう言えば幹部用のエナジースーツにはそんな機能もあるって言ってたな。このエナジースーツは目立ちたくない時には自動的に認識阻害電波が出るようになっている。例の『創立記念日だと思わせて休みつくり機』の技術を応用したものらしいが、ホントなんでもありだな、エナジースーツ。
「それにしてもずっと追いかけていても仕方ないよ。さっさと作戦をすまそう」
「・・・同意。この先の停車場で実行する」
なるほど。この先にこの幼稚園バスの停車場があるのをちゃんと調べているって事か。それならこのおかしな状態は後少しで終わるわけだ。
確かに少し先に幼稚園児がお母さんらしき人と待っている場所がある。幼稚園バスはあそこで止まるわけだな。
だが、俺たちが追っていた幼稚園バスは待っていた人たちを無視して過ぎ去っていく。
あれ、今の場所は違ったのかな。待っていたのは他の幼稚園か?俺がそう思って、ミコちゃんの方を見ると、明らかに動揺している。
「・・・不可解」
うん。どうやらあそこは本来この幼稚園バスが止まる場所だったらしい。だが、何らかの理由でスルーしたようだ。
まさかかと思うが俺たちが並走していることに気付かれたのか?
バスと並走している怪しい黒ずくめの二人組がいたら止まらずに逃げたくなるバスの運転手の心理もわからないでもない。
だが、大総統はバカだが超天才だ。その大総統が作ったエナジースーツの認識阻害が破られているなんて考えにくい。
だったらどうしてバスは停車場を無視して走っているんだろう。
「なにか異常があったのかな。運転手が居眠りとか」
俺の何気ない言葉にミコちゃんは深刻な表情になる。
「・・・強行」
そう言うとミコちゃんは超スピードでバスに取りつくと力任せにバスのドアを引きちぎってバスの中に入っていく。
なんだかんだ言って過激なんだよなあ、さすがは悪の組織の一人娘だ。そう思いながらも俺も後に続いたのだった。




