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011

 「ただいまー」


 「比呂、ちょっとこっちに来なさい」


 俺は自宅に帰るとなぜか父さんと母さんにリビングに呼び出されていた。 


 二人ともかなり深刻な顔をしている。うちの両親はどちらかと言えば子供に甘い方であまりこういった厳しい顔を見せる事はないのだが。


 なんだろう。最近別に悪い事をした覚えがないんだがな。成績もいつも通り普通だし、それで特になにか言われたことはなかった。うちの家は教育に関してうるさい方ではないのだ。


 困惑している俺の前に父さんが一枚の紙を出してくる。


 「これを見てみろ」


 ん?これは・・・げっ、暗黒闇極悪軍団のチラシじゃないか。まさか、これを配っているところを見られていたのか!?


 いやいや、これを配っていた時は極悪神官に変身していたしさすがに俺だとはわかっていないだろ。


 「へえ、これがどうかしたの?変なチラシだね。本気でこんな事するやつらなんているわけないし、なにかの冗談かな」


 とりあえずへらへらしてしらばっくれる俺に対して、父さんはわりと本気のテンションで怒ってくる。


 「比呂、笑い事じゃないぞ。これは本当の事だぞ。このチラシのこの部分は普通の者には白紙に見えるがここには本物の悪の組織の連絡先が書いてあるのだ!」

 

 げっ?マジで?これが読めるって事はうちの親父はまさかのエナジー力持ちなのか?


 ていうかなんでこのチラシが本物だと確信しているんだ?いくら連絡先が読めても普通の感覚の持ち主だったらこんな物は本気にしないだろう。

 

 ふってわいたような訳の分からない状況に俺が混乱していると、今度は母さんが話しかけてくる。


 「比呂君。あなたにも見えるはずよ。そうでしょ?見えるわよね?」


 母さんの顔はいつになく真剣だ。


 ここで嘘を言うのは簡単だが、後で実は見えていた事がバレたらその方が問題になりそうだ。「なんであの時嘘をついたの?」と追及されると返答のしようがない。それになにより俺の野生のカンが『ここは嘘をつくな』といっている。


 「まあ、見えるけど・・・」


 「よかった・・・。ちゃんとあなたにも資格があるようですね。これは私たちの様な特殊な力持っている人にしか見えないインクでかかれているのです」


 知ってる。これを見るにはエナジー力ってやつが必要なんだよ。


 むしろ父さんたちにエナジー力がある方が驚きだよ。確か戦闘員レベルでも100人に1人って言ってなかったか。それが一家全員ってかなりレアだろ。


 俺がそんな事を考えていると、父さんが衝撃の告白をし始める。


 「実はお前には黙っていたが父さんたちは『地球平和平等自由防衛隊』として悪の組織と戦う使命を持っているのだ!」


 ち、地球平和平等自由防衛隊!?なんで悪の組織といい、こうごちゃごちゃした名前を好むかね!・・・じゃない、何それ!?


 クエスチョンマークを顔いっぱいに浮かべる俺に父さんはさらに説明を続けていく。


 「この世界には世界征服を企てる悪の組織が時折現れるのだが、それに対抗する正義の組織もまた脈々と受け継がれてきたのだ。そしてその対抗組織こそが父さんたちの『地球平和平等自由防衛隊』なのだ!」


 父さんに続いて母さんも真剣な顔をして言う。


 「いきなりの事でなかなか信じられないでしょうがこれは事実なのです。そしてあなたこそ、正義の組織の赤のヒーローの血を受けついだ生まれながらの正義の戦士なのです!」


 マ、マジかよ・・・。悪の組織の幹部になったその日に自分が正義の組織の家系だって知らされるってどんなタイミングだよ・・・。


 あまりの事実に俺の思考が停止していると、


 「とにかく悪の組織が現れた以上、お前は正義の味方の一員として責任を果たさなければいけないのだ!」

 

 ええ~、俺の意思はガン無視かよ。悪の組織だって一応参加するかどうかの意思確認はあったぞ。


 俺が不満そうな表情をしていると、母さんが父さんに意見する。


 「あなた!今の子にそんな事を強制をするのは間違っているわ。私たちの時代とは違うのよ」


 「お前は黙っていろ!この子は絶対に地球平和平等自由平和隊に入れるからな!それが赤井家に生まれた比呂の宿命なのだ!」


 「いいえ、黙りません!この子にも自分の進む道を選ぶ権利があるはずです!」


 おっ、なんか風向きが変わってきたぞ。いいぞ、母さん。頭の固いクソ親父にもっと言え。


 俺が心の中で母さんを応援していると、母さんは優しい笑顔で俺に向きなおって、


 「比呂。あなたももう十四歳です。自分の進む道は自分で選べるはずです。私はあなたがどんな道を選んでも応援しますよ。地球平和隊に入るか、もしくは腹を切るか、どちらでも好きな方を選びなさい」


 ・・・え?母さんはなんかサラッと言ってたけど変な2択になってないか?いやー、俺の聞き間違いかな。さすがに実の息子に腹を切れとは言わないよね。


 「比呂、必要ならこれを使いなさい」


 そう言って母さんは懐から短刀を取り出して鞘から抜き放つ。


 わー、良く斬れそう。初めて実物をみたよ、武士が切腹するときに使うやつ。


 「この脇差は赤井家に代々伝わる名刀です」


 へー、脇差っていうんだ。武士が切腹するときに使うやつ。


 「見苦しい事にならないようにお父さんにしっかり作法を教わるのよ」


 ほー、作法をねえ・・・。武士が切腹するときの作法だろうねえ。


 ・・・・。


 「いやいやいや、俺は腹を切りませんよ?」


 さすがに声に出して抗議するが、 


 「そうですか。あなたにもやはり正義の心があったのですね!やはり私の見込んだ通りでした」


 「いや、そうじゃなくて・・・」


 「では、腹をきるのですか?」


 母さんは無邪気な顔で聞き返してくる。


 俺がとっさに返事ができないでいると、母さんは今度は父さんに向き直って


 「あなたもしっかり介錯してあげくださいね。父としての役目ですよ」


 母さんはどんどん俺の頭と身体が離れる方向に話をすすめていくが、


 「えーい、比呂、見苦しいぞ!お前は絶対に地球平和平等自由隊に入るのだ!わしはそれ以外の道は許さんぞ!」


 話をきるように父さんが口を挟んでくる。


 はたから見たら父さんが頑固一徹に俺の進路を強制しているように見えるが、その父さんの顔は(わしが言いたい事がわかるだろ?!なあ、比呂。なにが正解かわかるだろ!お前はちゃんとわかる子だろ!)と俺に訴えかけている。


 父さんの必死の形相を見て俺は理解した。


 本当にヤバいのは母さんなのだと。


 わかったよ、父さん。こうなったら俺がとる方法は一つ。


 「俺、わかったよ!地球平和平等自由隊の一員として頑張る!赤井家の長男として世界の平和のためのこの身を捧げるよ!」


 少々棒読みだったかもしれないが俺の決意の言葉に母さんは「さすがは比呂君、あなたが息子であることを誇りに思いますよ」と感涙している。


 (これでいいんだよね、父さん?)


 俺のアイコンタクトに父さんも(そう、それだけがお前の生きる道だ)と目で答えてくれたのだった。




あと少しで一章が終わります。

ブックマーク0のままだとさすがに心が折れそうなのでここまで読んでくださっていた方がいたらできたらお願いします・・・。いや、マジで。

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