010
エナジースーツに変身した俺たちはあっという間に目的地にたどり着く。
「ここで作戦を実行する」
目的地、駅前に着いた俺たちは早速作戦を開始する。
「暗黒闇極悪軍団でーす!よろしくお願いしまーす!」
俺は愛想のいい声で道行く人に声をかけていく。ほとんどの人は立ち止まることもないが、何人かは俺からチラシを受け取ってくれる。
そう、俺たちが今しているのは団員募集のチラシ配りだ。大総統が言っていた戦力増強とはなんのことはない、ただの採用活動だ。
俺は極悪神官スーツを装着して、ミコちゃんは闇巫女スーツを装着して配っている。
ミコちゃんの闇巫女スーツは黒を基調とした巫女服タイプのスーツだが下は袴ではなくミニスカで黒のパンストを着用している。顔は俺の極悪神官スーツや暗黒大総統と違って額当てが付いているだけだが、大総統の超科学で普段のミコちゃんを知っている者が見ても絶対にミコちゃんだと認識できないし、仮に撮影されてもその映像越しに認識阻害が働くというチートな代物だ。
わざわざそんな機能を付けなくても俺たちと同じようにフルフェイスマスクにすればいいようなものだが、悪の女幹部は顔出しをするという様式美のためのそうしたらしい。もっと他の事にその科学力を使えばいいと思うが。
ただ、そのおかげでミコちゃんが美少女なのは丸わかりだ。
大声を出して配っている俺とは対照的にミコちゃんは恥ずかしそうに「どうぞ」とだけ言って配っているが、スケベそうなおっさんが結構もらっている。
こんなチラシを配る事が採用活動に効果があるのか疑問に思うだろうが、これが意外と効果が期待できる代物なのだ。
それというのもこのチラシにはとある仕掛けが施されている。
俺は大総統にこのチラシを渡された時の事を思い出す。
*
「このチラシ連絡先までしっかり書いてありますけど大丈夫ですかね?冷やかしとか来るんじゃないですか?」
ていうかこんなの冷やかしのいたずら電話以外来ない気がする。
「極悪神官よ、その点なら大丈夫だ。このチラシの連絡先はある程度エナジー力がある者にしか見えないようになっているのだ」
なるほど。俺はエナジー力があるから普通に見えるが、エナジー力がない者にはこの連絡先は見えないようになっているらしい。
「でも、エナジー力がある者には見えるんですよね?だったらやっぱりエナジー力を持った冷やかしが来るんじゃないですか?」
俺の言葉に大総統は我が意を得たりとばかりにニヤリと笑う。
「冷やかしでも構わん。少なくともエナジー力を持っている者だとわかる事が大事なのだ。お前は少し勘違いしているようだがこのチラシが読める最低レベルのエナジー力の持ち主である戦闘員レベルでも100人に一人くらいだぞ。つまりこの連絡先が読める時点でレアなのだ。もし、連絡してきたらしめたものだ。逆探知で所在を突き止めてやるわ」
確かに暗黒闇極悪軍団の科学力なら逆探知などお手の物だろう。
「このチラシでエナジー力あるのがわかるなら、あの装置で測らなくてもよかったんじゃないですかね」
俺は血をエナジー力測定装置で採られた痛みを思い出して、少し嫌味を言うが
「いや、このチラシはあくまでも最低限のエナジー力があるかどうかしかわからん。その者がどのくらいのエナジー力を有しているかを正確に測るには装置を使わなくてはダメなのだ」
なるほど。なんでも簡単にいくわけじゃないんだな。
「では、極悪神官よ!この世に悪の種をバラまきに行くとよいぞ!」
ただのチラシ配りを大総統はカッコよくいうのだった。
*
チラシを配りながら俺はふと思う。
「ねえ、ミコちゃん。俺たち変身する必要あったのかな?」
ただチラシを配るだけなのに超科学の粋を集めたエナジースーツを装着した意味が分からない。
「・・・必要。正体がバレない」
ああ、なるほどね。確かに素の姿でこんなチラシを配っているところを見られたら間違いなくヤバい奴扱いされるもんな。俺が逆の立場だったら絶対そう思うわ。『あいつ、学校では普通だけど結構ヤバい奴だったんだな』と。
「それに・・・」
ミコちゃんは続けて何かを言おうとしたその時、
「君たち、ちょっといいかな?」
見慣れた制服を着た日本の安全を守っている人たちに声をかけられる。そう、OMAWARISANだ。
「・・・逃走」
ミコちゃんはスーツの力を使って文字通り目にも止まらない速さで消える。
「ちょ、待って・・・」
俺も同じくスーツの超スピードを使って逃走したのだった。お巡りさんが何やらわめいていたようだが、あっという間にその声が聞こえないほどの遠くに来ていたのだった。
*
「・・・スーツが必要なわけ、わかった?」
「うん、わかった」
超スピードで逃げた先の路地裏でミコちゃんから説明を受ける。以前から路上でチラシを配っていたが時々警察に声をかけられていたらしい。
別に警察は暗黒闇極悪軍団の事を本当に危険な組織と認識しているわけではないらしいが、路上でチラシを配る行為自体に何かと問題があるのだ。
「でも、警察と戦ったりしないんだね。エナジースーツの力があれば勝てそうなものだけど」
日本の警察どころか自衛隊の装備でも幹部クラスのエナジースーツを止める事は出来ないだろう。
「比呂君はそうしたいの?」
うーん、ぶっちゃけ無双するのは気分がよさそうだけど、相手が警官だとなあ。しかも、こっちが悪いし。
「逃げる方がいいね」
「そう。それが正解」
極力既存の権力と敵対しないのが悪の組織という趣味活動を続ける上で必要な事だと俺は改めて認識するのだった。




