01
俺、赤井比呂はめちゃくちゃ緊張していた。
だけど、そんなそぶりは見せずに平気な顔をして付いていく。まあ、多少は顔がにやけているかもしれないけどな。それも無理もないってもんだ。
何しろ転校生の超絶美少女、闇野ミコちゃんと一緒にその自宅に行こうっていうんだから緊張しない方が無理ってもんだぜ!
ミコちゃんは一週間前に俺の通っている第六出梨中学に転校してきたのだが、それまでうちの中学での指おりの美少女達で出梨四色と呼ばれる『清楚・青原』や『キュート・黄田』、『正統派・緑川』、『パワフル・桃里』などそうそうたるメンバーをごぼう抜きにするくらいぶっちぎりの美少女だ。
出梨四色も有名アイドル並みのかわいさはあるが、ミコちゃんのかわいさは芸能人でも今まで見たことのないレベルの完璧なかわいさなのだ。
ショートカットが似合うのは本当の美人という話を聞いたことがあるが、まさにミコちゃんは無造作なショートカットでありながらメチャクチャ髪型にこだわって可愛さアピールしているあざとい美少女が素直に白旗を上げるくらい圧倒的な美を見せつけている。
こんなにかわいいミコちゃんならさぞかし周りの男どもが放っておくわけがないと思うだろうが、ミコちゃんが転校してきてから一週間たった今現在そうなってはいない。
普通レベルのかわいい子くらいだったら、陽キャや不良な奴が図々しく声をかけてすぐにそいつらの仲間に引き込んでしまうんだろうが、ミコちゃんの場合は神秘的ともいえる突き抜けた美しさゆえにそんな厚かましい連中でさえも近づきがたいようなのだ。
実際、俺も席が隣という幸運にも関わらず自分から話しかける事ができかったからな。挨拶すらできなかった。なんていうか軽々しく声をかけれない美しさがあるんだよなあ。
今だってミコちゃんの家に一緒に向かっているのだが、事情を知らない人が見たら同じ目的地に一緒に向かっているとは思えないくらいの距離を保っている。ミコちゃんのあまりの神々しさによって、話をしながら隣に並んで歩くなんている大それたことはできないのだ。
・・・まあ、元々俺は女子とあまり気がるに話せないタイプだが。
でも、ミコちゃんはチャラい奴でも気軽に話しかけれないくらいの美少女だからな。普通の俺が話しかけられなくても当然だ。
・・・俺は普通だ。中二の男子なんて女子に気がるに話しかけられないくらいが普通なのだ。気軽に話しかけられないのが普通の奴で、女子に気軽に話しかけれるのはチャラい陽キャか、不良か、特殊訓練を受けた普通の奴だ。
つまり容姿モブ、成績平凡、運動神経は人並みという絵にかいたような普通の俺が転校生の美少女の家に行く機会を得るなんてもはや奇跡だといっていい。
ミコちゃんに「家に来て欲しい」と誘われたた時は他の誰も教室にいなかったに関わらず、自分に言っているとは思えなくて辺りを見回したものだ。
これが他の男どもに知られたら大変な事になるだろう。
俺だって逆の立場なら全力で邪魔してやろうと思うからな。まあ、俺のようなモブキャラの場合は全力で邪魔すると言っても『呪われろ!腹痛になってトイレから3時間以上出れなくなれ、そしてこの幸運を逃せ!』と目も合わせないで念じるくらいしかできないが。
もちろこの呪いに効果があったためしはない。
でも、呪いたくなるよね。なんの取り柄のない奴が優しいとかふざけた理由でハーレム展開になってると。誰だって美少女には優しいわ!優しいで美少女が寄ってきたら誰も苦労せんわ!
俺が余計な事を考えていたらいつの間にかミコちゃんの家についていたらしい。
「・・・到着」
ミコちゃんがつぶやく。俺の方を見ないで言っているから独り言のようにも感じるが多分俺に言っているんだろう。他に誰もいないし。
ちなみにミコちゃんがそっけないのはいつもの事だ。そんなところも神秘的で魅力の一つに見えるのはそのかわいさのおかげだろう。。
「闇野さんち、ここなんだ?」
ミコちゃんが少し頬を赤らめて紹介するその建物に俺は少し身構える。本来なら美少女が顔を赤らめて紹介するともなれば青春真っ盛りの中二男子としては鼻血もののシチュエーションだがそうならなかった。
ミコちゃんの自宅は中二男子特有のピンク思考になっていた俺から見ても明らかにヤバい建物だった。
なんだろう。例えるなら子供向けの戦隊モノに出てくる悪の秘密基地の様な外観をしている。しかも最近のおしゃれ戦隊ではなく一昔前のやつだ。平成初期、下手すれば昭和だろうか。昭和の事など俺が知っているはずはないのだがなぜかそれが古いセンスだと言う事は伝わってくる。
それにしてもこんなところにこんな建物あったかなあ?そう言えば緊張しすぎてあまり気にならなかったが、ここまで来るまでにマンホールの中とか、隠し階段とか、隠し扉とかいろいろ通ってきたような気がするな。なんか民家の庭もつっきってきたような・・・。
あれ?なんかヤバくない?
「・・・えーと、個性的な家だね?」
俺は動揺を隠してミコちゃんに話しかけるが、こめかみに一筋の汗が流れていくのがわかる。
「そう?人が来るのは初めて。だからよくわからない」
「え?じゃあ、ここに来る男は俺が初めてって事?」
ミコちゃんはポーカーフェイスだが心なしか顔が赤い。
そっかー。俺が初めてかー。それは恥ずかしいよねー。なっとくだなあ。それで顔を赤くして恥ずかしそうにしてたのかあ。恥ずかしそうにするミコちゃん、かわいいなあ・・・。
多分ミコちゃんの親の趣味なんだろうがこの外装は確かに恥ずかしいよね。そりゃー、なかなか友達を連れてこようって気にもなれないだろう。
そのおかげで俺は初めてここを訪れる男に事になるからある意味感謝だけどな。ミコちゃんの親の悪趣味の感謝だな!
俺は無理やりポジティブ思考に持っていく。
美少女の家に招待されたのだ。ちょっと外見が悪の組織の秘密基地風に見えるからといって帰る理由になるはずがない。
「・・・入って」
「うん、はいる、はいるー!」
喜び勇んでその家に一歩足を踏み入れた瞬間、俺は意識を失ったのだった。
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