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Ep9.罠の回収



 東の草原はいつもの様に広く草原が続いていて、のどかに風が吹いている。

 そして、そんな草原を太陽がさんさんと照らし、草はそれに答える様に葉を天に向かって伸ばして行く。

 そう辺りを見渡すと大地にも夏が来たのだということを改めて感じるのだ。


 大地の夏は、春に芽吹いた植物がぐんぐんと伸び、大地を草が覆い尽くす季節だ。

 そして、その伸びた草を食べに野鹿やその他多くの動物がこの大地に渡ってくる季節でもある。

 もっとも、我々の集落がある場所など、大地の大部分は乾燥している荒れ地なので草が生えてもすぐに枯れてしまう。

 当然、野鹿などの動物もやって来ないのだ。

 一方でこの東の草原の近くには小さな川が流れており、その川の水を吸収することで植物は大きく育つ事ができ、それを食べに野鹿が来るのだ。

 ちなみに東の草原は正確な名前が特に無いのでみんな東の草原と呼んでいる。

 今日はそんな東の草原と、そこから南の草原へ向かって罠を確認し、獲物が掛かっていたらそれを捕獲する作業を行う。


 「相変わらずここは草ばかりだな、野鹿が100匹居ても食い尽くせないぐらいある」

 「そうだな、野鹿が100匹いたらどれぐらいの服が作れるだろうか」


 思えば今着ている服は数年前に知り合いから譲って貰った服だ、もうずっとこの服ばかり着ているので新しい服が着たい。

 次の野鹿の皮で服でも作ってもらおう。


 罠を仕掛けた場所近くに着いた。

 周りにはかじられたと思われる草や野鹿の物らしきフンが落ちている。

 この様子だと罠にかかっているのではと思い、罠を確認しに草を分け進む。


 「おお!掛かってるぞケイ!」

 「…………………………………………キィィィ」


 そこには少し小ぶりなサイズの野鹿が掛かっていた、角がないのでおそらくメスだろう。

 私達を見た瞬間逃げようともがき始めたので投げ縄を飛ばし動きを封じて布で顔を覆った、こうすると大人しくなる。


 「キィィィ!!!キィィィィィ!!!」

 「ほら、暴れるな暴れるな、ジェス!足を抑えてくれ」

 「はいよ!」

 「蹴られないよう気をつけろ」


 私が頭を、リードが胴体を、そしてジェスが足を抑え、三人がかりで縛り付けて馬まで運んだ。

 解体は村で行うことにし、罠を2つ埋めている南の草原へ移動する。

 再び馬に乗って移動する。

 と言ってもそこまで遠い距離では無いのですぐにたどり着いた。


 まず、南に設置した罠の内、一番目の罠を確認した。

 この罠は川辺に埋めたのだが上手くかかっているだろうか?

 川のせせらぎを小耳に挟みつつ罠を見ると何も掛かっていなかった。




 「残念、何も掛かっていないな」



 ここはハズレだった。

 罠だけ回収して次の罠に向かう。

 残念だが次の罠に期待することにしよう。

 というわけで2つ目の罠に移動する。

 これが最後の罠だ…ちゃんと掛かっていると良いのだが。

 草原を歩き、罠へ向かう。

 この辺りは背の高い草の間に低木が点在していて服の裾が枝によく引っかかるので気をつける。



 そして最後の罠にやってきた。

 そこには立派な角を携えた一頭の雄鹿が掛かっていた。



 「フォォォォォン!!!フォォォン!!!」

 「リード!ジェス!縄で動きを封じてくれ!」

 「「おう!」」


 三人がかりで縄を投げ、角や足に引っ掛けることで身動きを封じようとする。

 が、雄鹿の力はそれ以上に強くなかなか捕らえることが出来ない。


 「フォォォ!!!フォォォォォォン!!!」

 「ダメだ!魔物みたいに力強い奴だぜ」

 「こうなったら奥の手を使わざるをえない、弓を準備してくる」


 弓を袋から取り出して野鹿を直接仕留めるのだ。

 後々血の掃除が面倒なので使いたくなかった。


 「二人ともできる限り抑えていてくれ!」


 弓を引く……


 「フォォォォォォォン!!!」


 一瞬野鹿の動きが鈍くなった。

 その隙をついて首筋の急所に矢を放つ。


 『パッ!』

 「フォォォォォォォ!!!……」

 「やったぞ!仕留めた!」


 野鹿の体は次第に動かなくなり、息絶えた。

 この野鹿は早めに処理しなければならない。

 すぐに川辺の木に吊るし、血抜きをする。


 「雌鹿と雄鹿の2頭だな、当分食料には困らないだろう。血抜きが終わり次第馬に積んで集落まで運ぶ」

 「すごい血なまぐさいな、しかし美味そうだ」


 血で真っ赤に染まった川を見ながらそういった雑談をしていた。

 血抜きはもうすぐ終わる。


 「ケイ、そういや去年のアレ覚えてるか?」

 「アレとはなんだったか」

 「アレだよ、ほらその弓くれた冒険者の言ってた野鹿の料理!」

 

 思い出した、それは去年の秋の事。

 ジェスのように大地で遭難していた冒険者が、なんでも料理が出来るとの事だったので野鹿の調理を手伝って貰ったのだ。

 その時に冒険者が故郷に有ると言う野鹿の料理を語っていたのだ。

 

 「あぁ、確かドラゴンのブレスで石を熱してその石に野鹿の肉を乗せて焼くんだったか」

 「そうそう!それだよ、アレ一度食べてみたいんだよ」

 「つまりこの野鹿でやれと?」

 「な?良いだろ?」


 どうやらリードはその冒険者の言っていた料理をこの野鹿で作って欲しいようだった。

 と言っても…


 「流石にこの辺りにドラゴンは居ない」

 「そうだよなぁ、何とか変わりの調理法とか無いのかね?」

 「お前ら何の話をしてんだ?」


 会話にジェスが入って来た。

 とりあえず成り行きを説明する。


 「つまり、ドラゴンのブレスが必要な訳だな」

 「そう、何とか代用出来ないものか」

 「それだったら良い道具があるぜ」

 「本当か!どんな道具なんだ?」


 そう言ってジェスが例の袋から取り出したのは古いキセルの様な物だった。


 「これは龍の喉笛って言ってな、これにある呪文をかけるとドラゴンのブレスが出るんだ」

 「よくそんな都合が良い物持ってたな」

 「だろ?しかし問題があってな…」


 問題とは?


 「これ実は偽物なんだ、いくら呪文をかけても煙一つ出なかった」

 「ダメじゃねーか!!!」


 結局、そんなに美味い話は無いようだ。

 血抜きした野鹿の死体を馬に乗せて集落に戻ろう。


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