Ep6.新しい風
冒険者です
テントからなる住宅郡……もとい集落に私達は戻ってきた。相変わらず周りは殺風景が広がっている。
罠を仕掛けるのに労力も気力も使ったので今日はもう疲れてヘトヘトだ。速く晩メシを食べたい。
馬を厩舎に停め、ふと周りの様子が変なことに気がついた。やけにざわざわしている。
「こんなにざわついて何があったんだ?」
通りすがりの女性に話しかける。
「さっきそこの荒地で倒れてる人がいたのよ、服装からして冒険者ね。」
なるほど、はるばる遠い地からこの大地にまで旅をして力尽きた冒険者が運良く見つかり運び込まれて来たようだ。冒険者は時折毛皮や食料と交換で役立つ物をくれることがあるので私達は手厚く彼らを助けることにしている。
今回は一体どこから来たのだろう?
晩飯が出来るまで、特にすることも無いし、暇つぶしがてら冒険者の見物にでも行くことにするか。
冒険者が居るのは村外れのテントで、数は一人、男らしい。テントの周りには4〜5人程の人だかりができている。
テントの中は、村の住民が一人付き添っている。その横で、じっと布団からこちらを眺める一人の男が居る。髪はボサボサでいかにも冒険者らしい格好だ。
「はじめまして、大地の人のケイと言う者です。言葉は通じますか?」
「あぁ、通じるぞ、俺はジェスって名前だ。ここから南にあるミカゴって街の冒険者なんだ。野宿をしてる時地獄ラクダの襲撃に会ってな?持ってた物資をぜーんぶ置いて来たのさ。そしたらこのざまよ。んで、命からがら逃げ延びて、ずーとこの大地をさまよってたらここが見えたのさ。そこで安心して脳がプッツンした訳よ。あんたらが助けてくれなかったら今頃三途の川渡ってたぜ。あんたらは噂に聞く北の大地の民だろ?時折物々交換で毛皮を貰ったってやつがミカゴにも来るんだ。せっかくだし俺にもなんか交換してくれないか?」
そういってジェスはふところから色々な物を出してくる。石ころ、どこかの国の貨幣、ビー玉……どれもガラクタばかりだ。
にしても、この冒険者、すっかり元気になったようで、それらのガラクタを、なんとか売ろうと話を始める。
「この玉はかの有名な七宝山のダンジョンから産出した、とても貴重な玉で、名前は………七宝玉って言う名前の玉だ!これが手に入る機会なんて一生無いんじゃないか?」
七宝玉……いかにもうさんくさい玉だ。
玉と言うが、中心から謎の突起が大量に出ていてもはや玉というよりイガグリである。
周りからもあまり支持を得れていない様子だ。
しかし子供受けは良かったようで唯一見に来ていた子供が付き添いの親にねだり始めた。
「かあさんあれほしいー!」
「ダメよあんなうさんくさい物!」
直球である。
しかし子供はひるむこと無く駄々をこね始める。
「ほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいぃぃぃーーーー!!!!!!」
「ちょっと静かにしなさい!交換してあげるから…………なにか欲しい物品の希望とかあります?」
「そうだな………いいよ、これは俺から嬢ちゃんへのプレゼントだ。」
そういってジェスは子供に七宝玉を差し上げる。
子供は満面の笑みを浮かべ、それを受け取る。
「おじちゃんありがとー!」
「いいってことよ。俺まだ20代なんだけどな………」
ジェスは複雑な表情で笑みを浮かべる。正直私も30代は軽く超えていると思っていた。なにせ顎からひげがぼうぼうと伸びているのだから。
「次はこの光る鏡!これは西の鏡職人が丹精込めて作った傑作で絶対に割れることは無い代物だ!これと革の取引でどうだ?」
次は鏡を出してきた。見た目は普通の鏡となんら変わらない。強いて言えば、光が反射した際、人と思われる像が浮かび上がるぐらいだ。
どうやらさっきの子供の親がさっきの礼も兼ねて交換するようで、父親がテントから野鹿の革を持ってきた。
「まいど!次はかつて古代〇〇の✕✕でぇ…」
「盛り上がっている中ちょっと失礼します、ご夕食の用意が出来ましたのでお召し上がり下さい」
残念ながら盛り上がってきた所で夕食ができたらしい。他の仲間を待たせる訳にもいかないので続きは食事の後だ。
「ところであんた……たしかケイって名前だったよな?」
「あぁ、ケイだがどうかしたか?」
「あんたの名前どっかで聞いたことあるんだよな」
「まぁありふれた名前だからな、昔同じ名前の人に会ったこともあるぞ。」
「まぁそうだよな。たぶん気のせいだろうしなんでもないや。」
そんな会話をした後、食事をした。
あれから野鹿続きだが今日が最期の残りだ。大切に食べよう。
野鹿の肉に喰らいついた時、ふと今日の罠の事を思い出し た。上手く野鹿がかかっていると良いが………
そうだ。明日は罠を見に行くから速く寝ないといけないのだ。ジェスのガラクタ売りの続きは気になるが、今日は速く寝なくてはいけない。
食事の後、ジェスは再びガラクタを売り始めたらしく、テントの中にまで物を売る声が響いていた。
今日はなかなか寝付けそうもない。