Ep12.大地の秋
「ピーピールーピィ♪」
「うう、もう朝か」
最近は大地に鳥が飛んで来る様になった。
この鳥たちはこの大地において秋を告げる存在だ。
季節はもう秋である。
「よう!今日もまだ暑いな!」
「おはよう、もうそろそろ寒くなっても良い頃なのだがな…」
よく秋は恵みの季節と言われるだろう。
動物達は来る冬に備え、その体に脂肪を蓄えるのはどこの大地でも同じだろうか?
しかしこの大地の我々にとって秋は移動の季節と言えるだろう。
冬が近付くにつれ、寒さは強くなって行き、動物は少しずつ南へ移動して行くのだ。
それに合わせて我々は彼らを追いかける様に南下し、冬には南の大地に村ごと移住するのが毎年の恒例行事である。
そして、移住するという事は、長い間テントを立てて滞在していたこの荒れ地や、狩りに出かけた東の草原とも、しばしの別れになるのだ。
「今年はいつ頃移動するんだ?」
「さあな、まだ話し合いが済んでいないらしい」
いつ移動するかを決めるのはロー達4人の長老が会議をして決める事となっている。
今年の流れで行くと移動はおそらくまだ先になるだろう。
「今日も狩りに出かけるのか?」
「ああ、備えは多い方が良い」
ここ数日、狩りに出かける事が夏以上に多くなった。
集落の食料確保の為だ。
最近は惜しみなく矢を消費して、なるべく多くの野鹿を狩る様にしている。
今度、新しい矢を作る為に鳥を捕まえる必要があるだろう。
「そういえばジェスは元気だろうか」
「シキ族は温厚だから大丈夫さ」
つい先日の事だ、突然ジェスは荷物をまとめて出て行ったのだ。
訳を聞くと、どうやらジェスの仲間の一人がシキ族に保護されたらしい。
それをローから聞いたジェスは仲間の安否を確認しにシキ族の集落へ向かったのだ。
確認が終わり次第集落に戻り、南下する際にミカゴへ送り届けると言う事になっている。
「ヤギのチーズが楽しみだな」
「……自分は苦手だ」
リードはジェスに頼んでおいたお土産、ヤギのチーズが楽しみらしい。
私はどうも臭いが苦手で食べられない。
「さて、そろそろ行くとしよう」
「大物を期待してるぜ?」
「ああ、楽しみに待っていてくれ」
馬を借り、東の草原へと向かう
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「少し、寒くなったか?」
先程居た集落が暑かったのに対して、東の草原は風が冷たく、草木が紅葉し始めてきていた。
川が近いからだろうか?
いずれにせよ、夏は去り、秋が来ようとしているのだろう。
東の草原から北へ進む、ここは東の草原と違って木々が多く生え、小さな森の様になっている。
野鹿が昼間に身を隠すのに打って付けの場所だ。
身を潜めながら移動する。
(この前はここに食べ跡があったな)
野鹿が居ないか確かめる為に、茂みをそっとかき分ける。
(いた!)
そこに居たのは大きな野鹿だった。
自分の二倍程ははある大きさで、大きなツノを生やしている。
慎重に弓を構え、野鹿の心臓を狙う。
「ギャッ!?」
「やった!」
野鹿は突然自分の胸に刺さった矢に驚いて周りをグルグル走り、急に倒れて動かなくなった。
トドメを刺す為、ナイフを持って近づく。
「ギョアッ!」
「うわっ!?」
その時、突然野鹿が起き上がり、その大きなツノを私へ向け、振り回した。
私は突き飛ばされて近くの茂みに倒れ込んだ。
「いたたたた…」
腕に鋭い痛みを感じる。
見てみると服の袖が貫通して大きな切り傷が出来ていた。
とっさに腕で守ったあの時に出来たのだろう。
足や手にも傷が出来て、血が服ににじみ出ている。
「骨折しなかっただけ幸いだろうか…?」
ふと野鹿の方を見てみると、首を持ち上げて私の方を見ていた。
野鹿はしばらく、『ざまあみろ』とでも言っている様に私を睨みつけていたが、ついに力尽きたのかドサりと地面へ突っ伏した。
念の為ロープを投げて動きを封じてみる。
体を縛られた野鹿の体はぐったりして動かず、さっきの様に不意をついてくる様子も無いようだ。
―――――ズサッ…
「ギァッ……」
「今日はしくじったな」
今度こそトドメを刺した。
それにしても久しぶりにケガをした、何日ぶりだろうか?
ケガの痛みで心臓がバクバク音を立てている。
「はぁ…」
少し落ち着く為に近くの木へもたれ掛かる。
服が血で汚れない様に傷口を水筒の水であらう。
そして布で覆って応急処置を施しておく。
それでもまだキズがズキズキしている。
このままでは運搬が大変なので、少し痛みが引いたら野鹿を持って行く事にしよう。