第五話
「どうして閣下がお持ちになっていたのですか?」
この髪飾りは、ジュディちゃんを助けた時に落としたはず。
「一昨日の夜、甥が婚約を発表する夜会に出席する為、馬車で城に向かっていた時――」
乗っていた馬車が急に減速した為、御者に何事か尋ねると、道の真ん中に子供がいると言うので窓から覗いたところ、ドレスを纏った令嬢がその子供を抱えて道端に飛んだのが見えた。
一歩間違えれば自身も大怪我、或いは命を落としかねない行為だというのに、彼女は我が身を顧みず子供の命を優先させた。
それも、恐らく平民の子供だ。
ほとんどの貴族連中は気にも留めないだろう。
自分のドレスはボロボロになり、髪飾りも外れている。
だが、そうなる事を承知の上で子供を助けた。
「私はそんな、ミントグリーンのドレスにラナンキュラスの髪飾りを付けた令嬢に、心奪われてしまったんだ」
「――っ‼︎」
あの後ろから来ていた馬車は公爵様の馬車だったのか!
……公爵様の乗る馬車の前に飛び出した、なんて、かなり不敬だよね……。
背筋に冷や汗が流れる。
「馬車を降りて声をかけようと思ったんだが、間に合わず、残されていたその髪飾りを見つけてね」
そこから、私達が診療所に向かい、リンゴを丸齧りしていたことまで調べたそうで……。
だから『リンゴ、好きだよね?』か。
「スカーレット嬢、その黄色と白のラナンキュラスの花言葉を知っているかい?」
「いえ、知りません」
「黄色は『優しい心遣い』白は『純潔』だ。貴女にぴったりの言葉だよ」
すっごい、優しい柔らかな笑顔を向けてくる公爵様。
いやいやいやいや、待って!なんか、公爵様から出てる!
キラキラーっとした、なんか、こう、オーラ?みたいな……いや、フェロモンかな!
フェロモンがだだ漏れですよ、公爵様‼︎
「私は他の誰でもなくスカーレット嬢、貴女が欲しい。どうか、私の妻になってくれないだろうか?」
「――ひゅっ」
隣で両親が見ているというのに、貴女が欲しいだなんて、恥ずかし過ぎて死にそう……。
ちらっと両親を見たら揃って笑顔で親指立ててるし。
親バカのお父様も公爵様なら良いのね。
「私では貴女に相応しく無いだろうか……」
「――いえ、それはありません」
逆でしょ、逆。
しゅん、とされて即答してしまった。
大型犬がしょんぼりしたみたいでちょっと可愛いな。
……あー、もう!
公爵様と結婚すれば、うちの領民の暮らしを今より楽にしてあげられるだろう。
リンゴを丸齧りするような私が良いって言ってくれる人なんてそうそう現れないんだから、腹を括るしかないよね!
そしてなんと言っても、公爵様ってめちゃめちゃタイプだし……っ!
「――ウルフ・キングスリー公爵閣下。ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
「スカーレット嬢ありがとう!必ず幸せにするよ」
私の言葉を聞いた公爵様の表情がパァっと明るくなり、神々しい笑顔になる。
眩しすぎる……!
今日一でフェロモン溢れてます!公爵様‼︎




