第四話
「キングスリー公爵閣下、本日はお越しいただきありがとうございます。ロドニー・ジンデルと申します。こちらは妻のパメラでございます」
「お初にお目にかかります、妻のパメラでございます」
我が家に、ウルフ・キングスリー公爵様がお越しになりました。
お父様とお母様が挨拶をします。
「初めまして、ジンデル伯爵、ジンデル夫人。ウルフ・キングスリーです」
うわぁ……、本当にうちに公爵様が来ちゃったよ……!
艶やかなプラチナブロンドの髪を撫で付け、光の当たり方次第で金色にも見える、琥珀色の瞳がとても綺麗。
服の上からでも分かるほど、逞しく均整のとれた体。
正直、めちゃくちゃ格好良い。絶対モテるでしょ。
お近づきになりたい令嬢は山ほどいるだろうに、ありがたい話ではあるけど、本当になんで私?
「初めまして、スカーレット嬢。お会いしたかった」
「お、お初にお目にかかります、スカーレット・ジンデルと申します……」
すっっっっっっごい神々しい笑顔を向けられ、心臓が止まるかと思った。
美丈夫の笑顔はもはや凶器だよ!
「応接間へご案内致します」
リタに続いて皆で応接間に向かいます。
応接間に着くと、リタがお茶の用意を始めました。
「侍女殿、良ければこちらの茶葉を使ってもらえるかな?」
「は、はい」
公爵様がお連れになった執事の方から茶葉の入った缶を受け取り、リタはお父様に視線を向け、お父様が頷いたのを確認してから用意を再開しました。
「スカーレット嬢、私の贈ったドレスを着てくれたんだね。気に入ってもらえたかな?」
「はい……とても良い物をいただき、ありがとうございます」
「良かった。趣味に合わない物だったらどうしようかと思ったよ」
緊張で表情の硬い私とは対照的に、柔和な笑顔で話される公爵様。
「スカーレット嬢、そんなに緊張しなくていいんだよ?もっと気軽に話してくれると嬉しい」
いや、無理でしょ。
貴方、王弟だし公爵様なんだよ?
助けを求めるようにお父様とお母様を見れば、ニッコリ笑って視線を外された。薄情者ー‼︎
「失礼します」
リタ!ナイスタイミング!
お茶の用意が出来たみたいで、リタがお茶を置いていく。
緊張で喉がカラカラな私は、さっそくお茶をひと口飲もうとカップを顔の前に近づけて気づいた。
「――あれ?リンゴ?」
お茶からリンゴの香りがする。
甘くて良い香り。
ひと口含むと、ほのかな甘さと爽やかな香りが鼻に抜けていった。
「……美味しい」
「それは良かった」
公爵様が嬉しそうに笑います。
この茶葉は、公爵邸の料理人の方が公爵様の希望で昨日作られたそうで、リンゴの果実を乾燥させた物が入っているそうです。
だから、ほのかに甘味があるのね。
「あの……どうしてこのお茶を持って来てくださったのですか?」
昨日、公爵様の希望で作ったばかりのお茶を何故うちで?
公爵様が飲みたかったから作らせたんじゃないの?
「リンゴ、好きだよね?」
『好き?』じゃなくて『好きだよね?』なの?
「好きですけど、どうして……」
「スカーレット嬢、渡す物があるんだ」
「えっ?」
突然、公爵様は箱を取り出し、私に差し出してきました。
「あ、ありがとうございます」
プレゼントなら、ドレスと靴をいただいているので、もういいんだけど……。
差し出された箱を開けると、ラナンキュラスの髪飾りが入っていました。
「――なんでっ?」
「落とし物だよ」
確かに、この髪飾りは一昨日の夜に無くしたはずの物ですけど……。