ゲームより愛を込めて
ゆる~いお話なので、あまり深く考えないでお読み頂ければと思います。(笑)
「ぬぁぁぁぁー! また死んだぁぁぁぁー!」
パジャマ姿の志穂は、自室のベッドの上で転げまわった。
手にしているのは、携帯用のゲーム機だ。そこには今大人気の恐竜みたいな大型モンスターを狩猟するゲームの映像が映し出されている。
「お~の~れ~!! 暴れ牛猿めぇぇぇぇー!!」
そう悪態を付き、画面の中で暴れまわっている牛の角を生やした猿顔のモンスターを睨みつける。もう志穂の操作キャラクターはとっくに地面に突っ伏しているのに、その暴れ牛猿はバンバンと地面を殴りながら一人で勝手に大暴れしている。
かれこれ5回も志穂は、この暴れ牛猿に惨敗し続けているのだ……。
そんな志穂は、とてもではないが青春真っ盛りの16歳の乙女には見えない。
しかし志穂は、どうしてもこの暴れ牛猿を倒さなくてはならない……。
倒すというか……この暴れ牛猿の細い尻尾を破壊しなくてはならないのだ。
このゲームの大きな特徴は、倒したモンスターから骨や皮を素材として剥ぎ取り、それを材料に強力な武器や防具を作って、自分の操作キャラを強化していくというゲームだ。そしてそれは……モンスターが強ければ強いほど、強力な装備が作れる素材が手に入る。
中にはレア素材と言われる物があって、それらはモンスターのある一部を集中的に攻撃し、その部分を破壊や切断する事でそのレア素材を入手する事が出来る。
志穂が今戦っている暴れ牛猿からは、立派な角と細長い尻尾が、そのレア素材に該当する。
志穂はこの暴れ牛猿の尻尾を使ったある武器が、どうしても作りたいのだ。
しかし……その尻尾がなかなか破壊出来ない……。
そもそもこの暴れ牛猿自体が、なかなかの強敵な為、尚更その細すぎる尻尾に攻撃が当てられない……。
険しい表情でしばらくゲーム画面を眺めていた志穂だが、ふとベッドの上に転がっているスマートフォンに目をやる。
「仕方ない……。晴に手伝って貰うか……」
晴と言うのは、志穂の住んでいるマンションの一つ下の階に住んでいる同い年の幼馴染の事だ。物心ついた頃から、よく遊んでいる。
このゲームは、最大4人までネット通信で協力プレイが出来る。
もちろん、見ず知らずの人とも出来るのだが……志穂は知らない人と一緒にプレイするのが怖いので、いつも幼馴染の晴に手伝って貰っているのだ。
正直、あともう二人このゲームをプレイしている知り合いがいれば、かなり楽にこの暴れ牛猿を倒せるのだが……。
志穂は自分が軽度のゲーマーな事を親友の葵にしかリークしていない。
かと言って、晴の方は孤高のソロプレイを好むので、こっちも当てはない。
スマートフォンを手にして晴に連絡しようとしたが、待ち受け画面の時刻を見て、それをベッドへ放り投げる。時刻はすでに23時を回っていた。今から晴とこのゲームを始めてしまうと、確実に徹夜となる……。
仕方がないので先程のゲームデータをセーブし、志穂は電源を切る。
明日の登校時にでも晴に助っ人を頼もうと考え、志穂は部屋の明かりを消し、モヤモヤした気持ちのままベッドへと潜り込んだ。
翌朝、駅のホームで同じ電車に乗り込もうとしている晴の姿を発見する。
しかし志穂は、あえて晴には声を掛けない……。
何故なら晴は見た目だけは爽やか青年なので、一部の少数派女子にモテている。
そんな志穂は、小学校の高学年の時に急に人気の出てきた晴と幼馴染だった事で、かなり苦労をしてきた……。
誕生日はいつか、好きな食べ物は何か、好きな子はいないか……。
おませなクラスメイトの女子達に質問責めにされた挙句、晴と仲がいい事でかなり絡まれる事が多かったのだ……。
なので中学に上がる時、晴には学校ではなるべく他人行儀で接して貰う事をお願いした。恋する小学生女子であのパワーなのだから、中学生ともなればその乙女パワーは、殺人級だ……。
想像しただけで下駄箱の上履きの運命が危うくなる……。
しかし、どこから嗅ぎつけてくるのか、志穂と晴が幼馴染な事を知った恋する乙女達は、晴のプロフィール情報収集で質問責めをしてきたり、手紙を託してきたりという事が何度かあった。そんな志穂は、中学二年の途中までは、その恋する乙女達の願いを聞き入れていたのだが……途中でそれをやめた。
それは志穂も途中から、晴を男性として意識するようになったからだ……。
何が悲しくて自分の好きな相手と他の女の恋の架け橋をしなければならないのかと……。その依頼は志穂にとっては、もはや拷問だった……。
以来手紙を頼んできた女の子達には自分で渡すように説得し、晴の個人情報を聞きたがる女の子達には、以前それで勝手に教えてしまった事で晴に怒られたと嘘を付き、何とか逃げ切った。ただその際、手紙を託そうとしてきた女の子達が、皆可愛い子ばかりたっだ事が、気がかりではあった……。
彼女達は甘い花の香りをまとわせて、志穂に手紙を託しに来る。
対して志穂は、牛さんマークの石鹸の香りだ……。
同じ女子でこの差は、一体何だろうか……。
そんな志穂は試しに親友の葵と休日に出かける際、薬局でよく売っているプチコスメ的なフローラルのオーデコロンを付けた事があるのだが……。
親友は志穂の事をよく理解しており「志穂っぽくない!」とキッパリ断言。
そんな葵は、志穂とは逆でフローラルの香りが似合う女の子だった……。
その時、志穂はもう自分らしさを貫くと決めた。
そして現在、同じ高校に通う晴には、中学時代と同じように学校ではなるべく声を掛けないようにと引き続き、お願いしている。
高校生ともなると、吊し上げのレベルはきっと想像を絶するだろう……。
志穂の気持ちを知っている葵には「それは自意識過剰じゃない?」と、呆れられたが、志穂はかなりの小心者だ……。用心するに越した事はない。
そして今日も同じ電車なのに晴とは別の車両に乗り込む志穂。
ちなみに晴は、その事に一切気付いていない様子だ。
それなりに混んでいる車内だが、スマートフォンを操作する空間には余裕があった為、志穂は晴にメッセージを送る。
志穂:『サイヤ人が倒せない……。今日、夜狩るの手伝って!』
晴:『おk』
志穂:『20時集合。尚、尻尾ロックオンでお願いします』
晴:『りょ』
口数は多い晴だが、メール等に関しての返事は毎回短く素っ気ない……。
以前、文章を打つのが面倒だと言っていた。
その癖、ゲーム中に送れる予め登録したメッセージの文面は、無駄に命を掛けている。以前、モンスターに乗って攻撃出来る技を繰り出した時に『発車いたしまーす。締まるドアにご注意ください』というメッセ―ジが表示された時は、その無駄に仕込んだネタメッセージに志穂は爆笑した。
そんなお茶目な晴だが、学校では何故か大人しい爽やか青年になっている。
いや、本人はそのつもりはないのだが、見た目もまぁまぁで成績も中の上、運動神経も悪くはない。その為、真面目で優等生な印象があるらしい。
晴は目立たないタイプなのだが、密かに思いを寄せている女子は少数だがいる。
そんな晴は、教室ではいつも男友達と話している事が多いが、昼休みなどは見知らぬ女子に呼び出され、二度ほど姿を消した事もあった……。
その度に志穂はズーンと重たい気持ちになるのだが……幸いな事にそのすぐ後に晴からゲームの誘いが来るので、落ち込むのは一瞬の事が殆どだった。
そんな恋もどきのような気持を抱えて、早二年が過ぎた現在……。
昼休みに一緒にお昼を食べていた親友の葵が、爪を磨きながら話しかけて来た。
「今日も木島君と夜ゲームするの?」
『木島』というのは晴の苗字だ。
「うん。サイヤ人倒すの手伝って貰う」
「サイヤ人って……それ、某元気玉な漫画のゲームなの?」
「違うよ? いつもやってるモンスター狩るゲーム。ねぇ、あおちゃんもやろーよぉー。もう一人くらいるとモンスター倒すの楽になるからさ!」
「えー? やだー。私、ゲームあんまり、やらないもーん」
そう言って再び爪を磨き出した葵だが……携帯アプリの音楽ゲームは、えげつない程やり込んでいる。一体どの口が言うのだろうか……と志穂は呆れた。
葵とは、小学校高学年からの付き合いの親友だ。
地味な志穂と違い、やや派手めな葵……。
そんな二人が仲良くなった切っ掛けは、高学年の時に晴の事が好きな女子達に志穂が絡まれていた際、葵が助けてくれた事が切っ掛けだった。
ただ葵曰く、志穂の事はどうでもよかったらしい……。
その時は自分を磨く努力もしないで、ライバルを蹴落とす事に一生懸命になっている彼女達の行動が、単に癇に障ったとの事だった。
「人の足引っ張る暇あるなら自分磨けば? 努力する方向、間違ってない?」
そう一言告げ、颯爽と教室を去っていった葵。
それまでは大人っぽくて近寄りがたかった葵だったが、もうそれが本当にカッコ良すぎて、志穂はすぐに葵に声を掛けてみた。そして話せば話す程、葵の辛口コメントは面白くて、志穂達はいつの間にか仲良くなっていたのだ。
そんな葵には、彼女がバイト先で知り合った大学生の彼氏がいる。
「流石、大人っぽい!」と報告を受けた際に叫んだ志穂だったが……。
付き合った切っ掛けが、ハマっている音ゲー繋がりという話を聞いて爆笑した。
見た目に反して、葵は子供っぽい。
だが恋愛に関しては志穂より先輩だ。だからこそ放たれる言葉に重みがある。
「志穂さぁー。もうさっさと木島君に告ったら?」
「嫌だよ!! もしそれで振られて気まずくなったら、もう晴とはゲーム出来なくなるんだよ!? なら今の状態をキープする方がいい!」
「うわぁ~。守勢に立ちすぎぃ~」
「だって……それで今の関係が壊れたら嫌だもん……」
「そんな事言っていると木島君、誰かに取られるよー?」
葵のその言葉に志穂がグッと唇を噛み、少し俯く……。
そんな志穂を見て葵が苦笑した。
「もし振られちゃったら、私が一緒にそのゲームやってあげるから!」
「あおちゃん! それ、全然フォローになってない!!」
プリプリ怒る志穂の反応に葵がケタケタと笑い出す。
志穂だって分かっているのだ……。
この状態がずっと維持出来る事ではないという事に……。
そんなやり取りをしていたら、予鈴が鳴り慌てて自分の席に戻る。
そのまま、ぼんやりと授業を受けた志穂。
帰宅後は、まだ大満喫出来る晴とのゲーム時間に備え、早々に夕食と入浴を澄ませ、万全の態勢で開始時間より少し早くゲーム機をネットに繋いだ。
すると、ゲームの画面内に晴がいつも操作しているキャラが現れる。
晴:『乙』
志穂:『よろしくお願いします』
晴:『尻尾壊せばいいんだよね?』
志穂:『そう。でもまずサイヤ人を一人じゃ倒せない』
晴:『サイヤ人ウザいからね。つかクエ張って?』
志穂:『はいよー』
ゲーム内の画面のキーボードでチクチクと文字打ちキーを駆使しながら、メッセージチャットで晴と会話し、暴れ牛猿討伐のクエストを設定する志穂。
この段階では、お互い自由な文章が打てるので好き勝手にチャットで会話が出来るのだが、暴れ牛猿と戦うバトルフィールドに行ってしまうと、この会話は予め登録している文面でしか出来なくなる。
本当ならボイスチャットが使えればいいのだが……。以前それでプレイしていたら盛り上がり過ぎて、親から「うるさい!」と苦情が入り、使用禁止になった経緯がある……。
クエストの設定が終わると「チリリーン!」という音がして、晴が一緒に参加する設定をしてくれたので、続けて志穂もその設定をする。
すると暴れ牛猿のいるバトルフィールドの画面へと切り替わった。
晴:『ついて来て』
晴が予め登録してくれているチャット文で志穂を暴れ牛猿の方へ誘導する。
どうやら晴は、暴れ牛猿の居場所が分かるスキルを付けてくれているらしい。
流石、孤高のプレイヤーだけあって抜かりのない神プレイな晴。
そんな志穂は晴の操作キャラクターの後を追い、暴れ牛猿の方へと向かう。
するとあるエリアで、急に晴の操作キャラがピタリと止まった。
恐らくこの隣のエリアに暴れ牛猿がいるのだろう……。
何か準備するのかと思い、晴の動きを見守る志穂。
すると……「ピコーン! ピコーン!」とゲーム機から音が鳴る。
よく見ると晴の操作キャラの手元がピカピカ光っていた。
晴:『あげる』
実はこのゲームには、レアでないアイテムなら操作キャラ同士での受け渡しが出来るのだ。とりあえず受け取ると、志穂がよく使う体力を維持する薬だった。
志穂:『ありがとうございます!』
志穂も予め登録しているチャット文で晴にお礼を伝える。
するとまたしても音と共に晴の操作キャラの手元が光る。
再び受け取ると、今度は攻撃力が少し上昇するアイテムだった。
最近、何故か晴はやたらと志穂にステータス上昇する便利アイテムをくれる。
「なんだよぉ~! そんな事されたらますます惚れてしまうじゃないか~!」
誰もいない自室で大きな独り言を言いながら、志穂は晴から貰ったアイテムをすぐに使った。すると晴が暴れ牛猿のいると思われるエリアにサッと入って行く。
志穂もそれを追う様にそのエリアに入って行った。
ここからは、もう宿敵暴れ牛猿との死闘の始まりだ。
志穂よりもこのゲームをやり込んでいる晴は、流石にこの暴れ牛猿と戦う事に慣れている。上手い具合に自分の方へ暴れ牛猿を引きつけ、優雅に避けた後に見事な強カウンターをブチ込んでいる。
対して志穂は、暴れ牛猿のお尻を追いかけながら、二本の剣でチマチマと細く長い尻尾を一生懸命切り付けた。
志穂が一生懸命、暴れ牛猿のお尻を追いかけている頃、晴はガンガンと強カウンターを打ち込んでいる。
すると……暴れ牛猿の尻尾のボサボサ部分が無くなった。
「やったぁぁぁー!! 尻尾壊れたぁぁぁー!!」
しかし喜ぶのも束の間で、尻尾を破壊された暴れ牛猿は髪を金色に逆立て怒り狂う。コイツがプレイヤー達の間で暴れ牛猿と呼ばれるのは、これが所以だ。
そしてこの後、この暴れ牛猿は狂ったような暴れ方をする。
晴が引き付けてくれているとはいえ、志穂は避けるので必至だ……。
そんな凶悪に暴れまわる牛猿は、急にスーパーボールみたいにボンボン飛び跳ねだした。
避ける方向を誤った志穂の操作キャラクターは、上から押しつぶされる様に暴れ牛猿にタックルされて、そのままやられてしまう……。
そして志穂だけスタート地点のエリアに戻されてしまった……。
だがまだ暴れ牛猿はその猛威を振るい、晴を苦しめている……。
一度、やられてしまった事で減ってしまったライフと体力ゲージを満タンにして、志穂は晴の許へと向かった。すると暴れ牛猿がゼイゼイと息を切らしている。
「おお! あともう少しで倒せる!」
トータルで三回やられてしまうとクエストが失敗してしまうので、志穂も慎重に暴れ牛猿に攻撃を加えて加勢した。
すると晴が絶妙なタイミングで必殺技を繰り出す。必殺技を出すと、それ専用の決め台詞がチャットの定型文の様に登録出来るのだが……。折角カッコいい必殺技を出しているのに晴の操作キャラクターの決め台詞は「月に代わってお仕置きよ!」だ……。だが、こういうどうでもいい部分に遊び心を入れてくる晴の行動は、志穂は大好きである。
そしてその晴の一撃で、暴れ牛猿は雄たけびを上げる様に崩れ落ちた。
「やったぁぁぁー! やっと倒せたぁぁぁー!」
嬉々としてその倒れた暴れ牛猿の許に行き、志穂は素材アイテムを剥ぎ取る。
やはり晴は強い! もの凄く頼りになる!
そう思いながら嬉しさで画面上の自分の操作キャラをバタバタと走り回らせていた志穂だが、いきなり晴がチャット定型文を飛ばして来た。
晴:『好きです。付き合ってください』
その瞬間、目を見開いた志穂の動きが止まる……。
それと同時にクエスト終了の報酬受け取り画面にすぐ切り替わった。
茫然とその画面を見つめていた志穂だが……早く報酬を受け取らないと、時間切れになってしまい、折角の暴れ牛猿の尻尾素材が手に入らなくなる……。
なので茫然としつつも、慌ててそれらのクエスト報酬を受け取った。
しかし……もしこの画面が終わると、クエスト出発前にいた村で晴の操作キャラクターが待っている。そうしたら、どう反応していいか分からない……。
いや、好きな相手なのだから、すぐに受け入れればいいだけの事なのだが……。
いくら晴でもゲームのチャットで告白は……。
そもそもさっきのは、自分の見間違いかもしれない。
そう思いつつも志穂は、そっと二つ折り出来る仕様のゲーム機をパタンと閉じる。こうするとネット回線が切れ、晴との通信が途絶えるのだ。
そして再びネット回線が切れた状態のゲーム機を開き、先程のやり取りしたチャットのログが確認出来る画面を開いてみた。すると……
晴:『好きです。付き合ってください』
「やっぱり告白してんのかーいっ!!」
志穂は思わず、ゲーム機をベッドの上に投げつけた。
今時メールで告白はよくあるが……いくらなんでもこれは無い!
そもそも晴はずっと、この予め登録した告白文を出す機会を窺いながら、あの暴れ牛猿の戦いに冷静に対応していたという事になる……。
そのメンタルは、正直あっぱれとしか言いようがない……。
そんな志穂は、ゲームを早々にセーブした後、昨日以上にモヤモヤした気持ちでベッドに潜り込んだ……。
翌日、学校に向かう為、マンションを出ようとすると一階のエントランス前で晴が待ち構えていた。
晴は志穂と目が合うと気まずそうに視線を逸らし、下を向いてしまう。
そんな晴の目の前に志穂は腰に手を当て、仁王立ちした。
「言い訳があるのなら、一応聞いてやろう! 言ってみたまえ!」
すると晴が、バツの悪そうな表情で口を開く。
「誠に申し訳ございませんでした……。後日、日を改めまして正式に告白をやり直させて頂ければと思います……」
「よろしい! その言葉……信じようではないか!」
そう言って志穂は晴の手を取り、通学で使っている最寄り駅へと歩き出す。
そんな志穂の行動に少し驚いた晴だが……志穂の耳が真っ赤になっている事に気付き、苦笑しながら志穂に手を引かれる事にした。
しばらくすると、二人がいつも使っている駅に到着する。
その頃には志穂の顔の火照りは、すっかり治まっていた。
しかし手は繋いだままだ。そんな二人はホームで電車を待っていたのだが、その時、志穂は晴に気になっている事を聞いてみる事にした。
「そういえば……晴って、いつから私の事好きだったの?」
「ええっ!? 後日告白し直すって言ったのに今、それ聞く!?」
「あんな方法で告白をされた私には、それを聞く権利があると思います!」
すると晴が観念した様な表情を浮かべ、ガックリと肩を落とす。
その晴の反応に満足そうな笑みを志穂が浮かべた。
「志穂を好きだって自覚したのは中二くらいの時だよ。でも……告白して振られて今の関係が壊れる方が怖かったから、このままでもいいかなって……」
自分と同じ時期に晴が同じ気持ちになっていた事に思わず、志穂の口元が緩む。
「だけど最近、ちょっと危機感を感じる事があって、やっぱり告白した方がいいかなって思って……二週間前から準備していたんだ」
「それって、あの告白用に登録したチャットの定型文?」
「それもだけれど……準備してたのは別の部分でかな? 前に山本から女の子を落とすには、プレゼント責めが一番有効だって聞いたから……」
その晴の言葉に志穂が、怪訝な表情を浮かべて首を傾げる。
山本というのは二人のクラスメイトで、よく晴と一緒にいる友人の一人だ。
ちなみに彼には、確か彼女はいないと以前晴が言っていたので、恋愛関係でアドバイスする立場というのは、微妙な人物の気がする……。
しかし志穂には、それ以上に先程の晴の言葉で疑問に感じている事がある。
「私、プレゼントなんて貰っていな……」
その疑問を途中で言いかけた志穂は、ある事を思い出した。
そういえばここ最近、晴はあのゲームを一緒にやる時は、必ず2個以上のステータス上昇アイテムを志穂に大盤振る舞いしていた。
「だからゲーム内で貢いだ」
「それ、絶対違うからっ!」
志穂がそう抗議すると同時にホーム電車が入ってくる。
「ほら、志穂。電車来たから、さっさと乗ろう?」
「あっ! 誤魔化した!」
「じゃあ、今度マック奢ってあげるから……それでいい?」
「マックじゃなくてケーキセットにしてください!」
今度は志穂が、苦笑している晴に手を引かれて電車に乗り込む。
そして学校に着くと、うっかり晴と手を繋いだまま校門をくぐってしまったので、その日は朝から薄っすらと二人の事が噂になったらしい。
それを休み時間に葵から聞いた志穂は、もう高校生活は終わったと思った……。
そんな志穂は、下校時おっかなびっくりで自分の下駄箱を覗く。
そして自分の革靴に何もされていない事に安堵したのだが……その志穂の様子を後ろから見ていた親友の葵が呆れて、ため息まじりで言い放つ。
「ほらぁー。だから自意識過剰だって言ったでしょ? 志穂が思ってる程、世間は志穂と木島君の事なんて、興味ないんだよー?」
葵のその言葉に志穂は、晴に告白された時よりも恥ずかしい気持ちになり、両手で顔を覆って、その場に座り込んでしまった。
こんな事なら、さっさと自分から晴に告白すれば良かったと……。
後日、志穂のお気に入りのケーキ屋で、晴が約束通り武士の様なかしこまった告白をしてきたので、志穂は爆笑しながらその申し出を快く受け入れたそうな。
このような作者の息抜き作品にお付き合い頂きまして、ありがとうございます!
晴視点も書こうかなーと、思ったんですが……。
思い付きでサクっと書いた話なので、短編にしちゃいました。
ちなみに作者は、カプコンさんの某ゲームでは、スタンの取れないハンマー使いでした……。(苦笑)
でもストレス溜まると火力弓担いで、上位シャ●ルをボコりに行きます!
そんな作者の某ゲ―ムプレイ歴は3G~XXのみ……。
やはりswitch買うしかないのかな……。(泣)