29話 誓いの言葉
「じゃあ、練習の続きだよっ?俺は少し休憩してるね!」
「分かったわっ♪お昼になったら起こすわねっ♪」
と、母は魔法の練習に戻っていった。
「じゃあ、行こうか?」
「うん。でも、、良いの?」
「もちろん!あっちなみに、ニコちゃんのママは?」
「ニコが5歳の時に、別のオスと駆け落ちした。」
「そ、、そか。まぁパパが居れば、寂しくないよね?」
「うんっ♡」
ニコちゃんの返事を聞き、裏の世界の管理者夫婦に直接話しかけてみる。
直接話しかけてっていうのは、俺の頭の中で思ってくれという意味だろう。
[早速で悪いんだけど、4日前、3月27日の11:30に俺とニコちゃんを送ってくれるかな?]
[分かりました。ですが気をつけて下さいね。先ほど伝え忘れてしまいましたが、その時間軸に存在するリュウさんと、その時間軸に存在するニコさんを入れ替える訳ですので、それぞれが別の場所にいる可能性が高いです。]
[了解っ!]
俺とニコちゃんは、再び裏の世界に入り、管理者夫婦から注意事項を伝えられた。
今回の注意事項は4つ。
・俺とニコちゃんが再会すること。
・ニコちゃんパパの信頼を得ること。
・ニコちゃんパパを林から出さないこと。
・シルバーウルフ達に敬礼させること。
この内一つでも破ってしまうと、未来が大幅に変わってしまい、どうなるか分からないとの事。
「日を跨いでの行動は出来ません。23:59.59.99の時点で、強制的にリュウさんを還送します。その場合、ニコさんを置き去りにする事になり、それに伴った事象改変が行われます。ニコさんは再び4日間を過ごす事になりますが、何が起きるか分かっている為、行動が変わってきてしまうはずです。前回と似たような行動をすれば、大幅に変化する事はないので問題はありません。ですが、全く違う行動をした場合はどうなるか分からないのです。」
「つまり、23:59.59.99がタイムリミットで、それまでにミッションをクリアして帰還せよ!って事だね?」
「はい。まぁ、帰れなくなり未来が変わるというだけで、間に合わなければ死ぬ!という訳ではないので、無理は禁物ですよ?」
「分かったっ!!」
「うん。気をつけるよ。」
「では、行ってらっしゃい。」
・
・
・
目の前には、雲一つない青空が広がっている。
「あ〜、、3時間ぶっ通しで剣の練習をした後か。ニコちゃんはパパと一緒だね。、、夫婦の誓いは無いのに、能力はそのままなんて、色々おかしいんだが、今はニコちゃんの所に行くべきだね!」
立ち上がり、林の方へと向かう。
魔力感知にて、今回のカギとなるシルバーウルフ達の位置も確認済みだ。
ふむふむ。俺が林に入った時点で、既に後ろに居たんだね。
前回は、俺の向かう方角がライオスキングのいる方角だったから、襲うのを躊躇っていただけみたいだが、今回は既に俺からライオスキング&ブラックタイガーの魔力を感じ取っているだろうから、道端の石のようにピクリとも動かないね。
まぁ、パルちゃん達の事は一先ず置いておいて、ニコちゃんパパの信頼を得るところから始めなきゃだ。
致命傷のパパが目の前にいたら、自分で治しちゃうよね〜?
娘がいて無傷の状態。そこに異常な魔力をもった人間が近づいてきたら、警戒するのは当然の事だよな。
ニコちゃんが何とか止めてくれてるみたいだから、まだ攻撃されてないけど、何かきっかけさえあれば、いつ戦闘が始まってもおかしくないって感じだ。
俺は刺激しないように、ゆっくりと近づいていき、例の茂みの陰に到着した。
すると前回同様、ニコちゃんパパの方から話しかけてきた。
「そ、そこの、異常な者よ。」
ふむ。前回とはセリフが違う気がするが、まぁ俺は同じ返答をしておこう。
「俺に何か用でも?」
「あ、ああ。異常な者よ、出来ればこのまま、こちらに来ないでくれないか?」
俺は言われた通りに茂みからライオスキングの前に出た。
、、あれ?セリフが違った??
「えっと、、今、何て?」
「い、いや、、だから、出来ればこのまま、我らを見逃してくれないかと言っている。」ブルブル、、
ニコちゃんパパは本能的に勝てないと悟っているのか、恐怖で震えながらも交渉してきた。
前足で鬣を押さえているが、ニコちゃんを守ろうとしているようだ。
「そ、それで?俺に用って?」
と、俺は強引に、前回と同じセリフを口にしてみる。
相手の反応に関わらず、前回と同じセリフを使えば、大幅な改変は起こらない、、と俺は考える。
「わ、分かった。我はどうなっても良い。だが、どうか我の願いを聞いてはくれないだろうか!!」
と、前回とは全く違うセリフで、しかも前回はここで力尽きちゃったから、俺のセリフなんてないんだよなぁ。
とりあえず、娘さんを僕に下さい的なやつを言えばいいのかなか?
「娘さんの事は任せて!俺が必ず幸せにしてみせるよ!!」
「なっ、なぜ我に娘がいる事を知っているっ!!はっ、、我ではなく、初めから娘を狙っていたのかっ!!グオォオオォッ!!!!」
ニコちゃんパパは雄叫びをあげ、牙を剥き出しにし、前足から巨大な刀のような爪を伸ばした。
これは戦闘回避するのは難しいか?
と、思った矢先である。
ドゴォッ!!!!
「パパっ!!いい加減にしてっ!!!!」
「グハッハァーーッ!!!」ズダーーンッ
重く響く打撃音と同時に、可愛い声が叫ぶ!!
ニコちゃんパパは変な悲鳴をあげながら、地面に横倒しになった。
もぞもぞとニコちゃんパパの鬣が動き、そこから超絶可愛い子猫姿のニコちゃんが出てきた。
「やぁ、ニコちゃんっ♪パパさん、白目で泡吹いてるけど大丈夫?」
「リュウっ♡遅くなってごめんっ!!パパの力が強くて、なかなか出られなかった!!」ピョンッ♡
駆け寄り、抱っこして態勢でジャンプしてきたニコちゃんを、しっかりと抱きとめる。
そしてニコちゃんは、俺の胸元をペロリっ♡
熱っ!!まさかっ!!?
猛烈な熱さを感じる胸元を見ると、光り輝く可愛い可愛い猫ちゃんのイラストが浮かび上がっていた。
徐々に光が収まり熱も引いてきたのだが、まさか左手の甲じゃなくても大丈夫だなんて思わなかったよ、、。
まぁ、別にいいんだけどさ?
「ふふっ♡リュウっ大好きっ♡」
「うんっ、俺も大好きだよっ♡」
チューッペロペロペロペロッ♡と、子供だけど大人っぽいキスをした。再会を喜びあった愛のキスだ。
「さて、、パパさんを起こして、説得しなきゃいけないね。」
「うんっ♡」
俺はニコちゃんパパにリセット魔法をかけた。
「う、、うぅむ。一体何が起きたんだ!?」
「パパっ!ニコの話を聞いてっ!!」
「お前に名を付けた覚えなどない!、、はっ!その異常者から離れろっ!!」
「あ〜、、パパさん。確かに俺の魔力は異常になってるけど、娘の魔力が分からないほど、ポンコツじゃないよね?」
「なっ、我は猛獣王・ライオスキングだぞ!!馬鹿に、す、、る、、何故だっ!!貴様から娘と同じ魔力を、、まさかっ!!?」
「その通り。俺は娘さんに生涯を捧げると誓った。娘さんも俺に生涯を捧げてくれると。」
「ば、馬鹿な、、。ライオスキングの娘が人間と結婚するなど、、。」
「これでも信じられないっ!?」
そう言うとニコちゃんの体を光が包み込み、その光が収まると、人型になったニコちゃんがいた。
「ニコはリュウが大好きっ♡一生、側にいるっ♡」チューッ♡
「そ、そんな、、。い、異常者よ。貴様に聞かねばならん事がある。その答え次第で、我は命をかけて娘を取り返す。」
「分かった。ニコちゃん、ちょっとパパさんと話をするから、パルちゃん達を捕まえてきてくれる?」
「うんっ♡」
タタッと軽い足どりで、林の中に消えていったニコちゃん。
それを見送り、ニコちゃんパパの話を聞く。
「それで、俺に聞きたい事って?」
「うむ。まずは礼を言わせてもらおう。貴様のおかげで、我は命を救われた。感謝する。」
「あら?俺のおかげじゃなくて、ニコちゃん、、えっと、娘さんが助けてくれたんでしょ?」
「、、聞いてないフリをしていたが、娘の話はちゃんと全て聞こえていた。ニコという名を付けてもらった事。我の怪我を治す魔法を教えてもらった事。人語も貴様に教えてもらったと。」
ふむ。まぁ可愛い1人娘から、男の話をされたら、聞きたくない気持ちも分かるよ。
「しかし、いつ・どこで知り合ったのか。まずはそれを聞かせてもらおう。」
「あ〜、、何て説明すれば良いのかなぁ。」
と、どこから説明したらいいか悩んでる風を装ってはいるが、本当は別の事で判断がつかずにいるだけである。
よくある物語では、未来から来たって話はしない方がいいって相場が決まってるよな。
しかし、そのワードを使わずに説明するとなると、なかなか難しいよ?
チラッとニコちゃんパパの方を見ると、なかなか答えない俺に、少しイラついてきてるようだ。、、仕方ない。
「じ、、実は〜、娘さんの魅力的な魔力の波動を感じて〜、、あ、会ったのはついさっきが初めてで〜、、えっと、そっ、そう!文通してたんだった!!2年くらい前から!!」
「う〜む、、確かに、うちの娘の魔力は魅力的だからな。分かった。では、貴様はライオスキングの寿命を知った上で、娘と共に生きるとほざいてるのか?」
「もちろん。平均寿命が240歳で、確かに人間の3倍くらい長生きだよ。当然、俺の方が先に死ぬ。でも、、それでもっ!1日でも長く生きて、ニコちゃんが俺と出会えて良かったと、幸せだったと、、そう思ってもらえるだけの生涯にしてみせる!!俺は先に天国に行ってしまうけど、ニコちゃんの寿命がくるまで、向こうで待ってる。一緒に生まれ変わって、来世でも、そのまた次も、幸せにしてあげるんだっ!!!」
「ふっ、、ふふふっ、、ふっはっはっはっは!!貴様の気持ち、理解した。異常な、、いや。勇気ある者よ。貴様に託そう。我が娘、、ニコを頼んだぞ。」
「うん。任せて下さい、お義父さん。」
「ふははっ!!まさか、人間にお義父さんと呼ばれる日が来るとはなっ!!勇気ある者よ、名は?」
「俺はリュウ。リュウ・ナポリタンだよ!」
「そうか、リュウ。、、良い名だ。む?ナポリタン?確かこの国の名も、そんな感じであったな?」
「あ〜、まぁ、、一応俺のお爺ちゃんが、王をやってる感じだったり?あはは、、。」
「ふっはっは!!王族が魔物と結婚とはっ!!面白いっ♪今夜は宴を開こうではないかっ♪獲物を捕まえてくるぞ!!ここで待ってろっ!!」
「あっ、いやっ!!ちょっとタンマっ!!!」
「む?どうした?」
立ち上がり、獲物を狩ってくると意気込むニコちゃんパパなのだが、このままだとまずいと思い、タイムを使わせてもらった。
この林はそこまで大きくない。
捕れる獲物もたかが知れている。
という事は、必然的に林から出てしまう事になるだろう。
そうなると注意事項に抵触してしまい、未来が大幅に変わって何が起こるか分からないという。
さて、どうしたものか。
狩る気満々のニコちゃんパパを前に、俺は頭を抱えるのであった、、。




