18話 魔力過多と魔力不足
「あら?シェリーじゃない?」
「はい。お久しぶりでございます、ローラ様。」
「ふふっ♪リュウが良い人って言ったのは、シェリーの事だったのねっ♪シェリーは万能メイドだから、リュウの人選は正しいと思うわ!」
「でしょっ?シェリーには、俺の専属家庭教師になってもらったからね。それと、アンナとバニーを俺専属メイドにしたから、学校に連れて行くよ。」
「そうだったの、、。母さんも付いて行こうかしら。」
「えっ?保護者同伴って言うのは、少し恥ずかしいよ。」
「そっ、そうよね。じ、冗談に決まってるじゃないっ!?」キョロキョロ、、
母は目を泳がせながら冗談だと否定した。
かなり本気で言ったんだね?
「ま、まぁそういう事だから、よろしくね!、、それじゃ、ニコちゃん達を紹介するね?」
シェリーにニコちゃん達を軽く紹介し、現在の人語知識を説明した。
「かしこまりました。では、本日中に、国立騎士学校大学部卒業が可能なレベルまで引き上げますので、宜しくお願い致します。」
「ま、、まぁ、それが本当に実現可能なら、是非お願いします。それじゃあ、俺たちは庭にいるから、何かあったら呼んでね!」
「はい、かしこまりました。」
ニコちゃん達をシェリーに任せて、俺・母さん・ミミーの3人で庭に出てきた。
「まずは魔力遮断フィールドを展開して、、っと!はいっ、それでは俺による、無詠唱魔法の授業を始めるよっ♪」
「凄いわね、、。普通の魔力遮断フィールドでは、こんなに緻密な魔力構造にならないわよ?時間逆行魔法に続いて、これもリュウのオリジナルねっ♪」
「時間逆行魔法なんて聞いた事ないわ。どんな魔法なの?」
「あ〜、覚えてない?ミミーの練習場所の床を一瞬で直したでしょ?アレに名前をつけたんだよ。」
「そ、そう。確かにアレは、何事も無かった状態に戻ってたから、時間逆行魔法で合ってると思うわ、、。」
「まぁ、とりあえず母さんは空間転移の練習ね!目に見えてる範囲内で、自分が移動した後の場面をイメージして、、って感じで。ミミーには無詠唱魔法の原理を教えて、それから空間転移の練習に移行しよう!」
「はぁいっ♪♪」」
こうして2人の無詠唱魔法の練習が始まった。
母は言われた通り、2〜3mの転移をゆっくりだが確実に繰り返す。
ミミーには、イメージと、魔力で形を練り上げる流れを教えた。
「じゃあ、母さんみたいに、2〜3m先に自分が移動して立っている姿をイメージして?」
「どうして2〜3m先なのかしら?」
「とりあえず、目に見えてる範囲の方が、はっきりとしたイメージがしやすいでしょ?無詠唱魔法はイメージすることが重要だから、曖昧なイメージだと発動出来ないし、強過ぎるイメージだと周囲に被害が出る可能性があるからね。」
と、俺の言葉が聞こえたのか、先程キッチンでやらかした母は、苦笑いを浮かべた。
「あら?それなら、イメージさえ出来れば、どんな魔法も使えるって事かしら?」
「いやぁ、そんな簡単な話ではないみたいなんだ。イメージをしっかりして、魔力で形作るんだけど、どんなにイメージがちゃんとしてても、それを形作る魔力が弱かったら、多分発動しないと思う。」
俺はニコちゃんと能力共有してるから、まだ魔力不足で失敗というのは未経験だけど、母さんやミミーが煉獄の豪炎を使いこなせるかと言ったら、恐らくは発現さえしないだろう。
「それに、弱いイメージでも、魔力過多で発動すると暴発しちゃうんだ。だから、転移魔法で魔力のコントロールを正確に出来る様にしてほしいと思う。」
「分かったわ。、、ちなみに、空間転移で魔力過多だと、どうなるのかしら?」
「ふむ。良い質問だね!それは、俺にも分かりませんっ!!」
「ええーっ!?あ、危なくないのかしらっ!?」
「う〜ん。ちょっと試してみるか。」
3m先に移動した自分の姿をイメージし、魔力を手に集めまくった!!
それこそ、煉獄の豪炎を発現させた時と同じくらいに、、だ。
そして自分の胸に手を当て、空間転移を実行した。
スッ、スッズボボボボボボボボボボボッ、、、
ふむ。人間ドリルになったね。
そりゃ、こうなるよな。
転移先に物があった場合の実験で、転移先の座標地点に、上から落ちるように転移すると判明したのだから、魔力過多だと下方向に向かう力が過剰になるのだろう。
それを、煉獄の豪炎を発現させる魔力で実行したら、地下何千mまで掘り進むか分かったもんじゃないよね。
実際、地上の光が全く見えない場所まで掘り進めたんだから、この結論で間違いはないだろう。
俺は庭に転移で戻り、掘り進めた穴を直した。
「見てて分かったと思うけど、空間転移の魔力過多で起こる現象としては、過剰魔力の分だけ穴を掘るって感じだね!座った状態で穴を掘りまくったら、お尻痛い痛いになるから気をつけてね!」
「わ、分かったわ。」
「まぁ、普通の人の魔力だったら、掘って5mってところじゃないかなっ♪」
「お、お尻で5mも穴掘りしたら、3日間はイスに座れないわね。気をつけるわ、、。」
「まぁ、初めは徐々に魔力量を増やしていけば良いと思うよ。空間転移は魔力不足だと発動しないから、ゆっくり発動するところまで増やしていけば、発動可能ラインに到達した瞬間に転移するからね!」
「それで、少しずつ必要な魔力量を覚えていくのね?じゃあ、やってみるわ!!」
ミミーは先を見つめて固まり、手に魔力を集めている。
少しずつ丁寧に魔力量を上げていき、1分ほど経過した時、スッと3m先に姿を移した。
「おぉ〜っ!出来たじゃんっ!!おめでとうっ♪」
「ありがとうっ♪でも、これはなかなか集中力が必要ね。気を抜くと、魔力量が乱れちゃうわ。」
「まあ、そこは慣れていくしかないね〜。室内で練習するなら、物質転移がおすすめだよっ♪部屋も片付くからね!」
「物質転移?」
「うんっ♪えっと、じゃあこの石をミミーの手のひらに転移させるからね!」
俺は足元の石を拾い、ミミーの手のひらに物質転移で送った。
「きゃっ!いっ、今のが物質転移なのねっ!?」
「うん!だからこれを使って、ゴミをゴミ箱に転移させたり、服をタンスの中に転移させたりすれば、魔法の練習をしながら、部屋も片付くでしょっ?」
「そうね!今日から練習する事にするわっ♪」
「だねっ♪あっでも、誰にも見られたりしないようにね!?」
「分かっているわ!さっ、練習を続けるわよっ♪」
と、やる気満々のミミー。
元々、頑張り屋さんだから、入学する頃には魔力コントロールもかなり正確に出来るようになっていることだろう。
さて、次は母さんの練習を見てあげるとしよう。
「母さん、コツは掴めてきたかな?」
「そうねっ♪見えてる範囲なら、、、この通りよっ♪」
母は話しながら8m先に転移し、上達ぶりをアピールしてきた。
さすがは王族の娘って感じだね。
王族は、物心ついた時から武芸や魔法の勉強を始めるらしく、6歳の時点で学校の先生と同じくらいの知識と技術を持っているらしい。
まぁ、力や魔力は6歳児だから、実際に戦ったら先生が勝つのだが、、。
これなら次のステップに移っても大丈夫だろう。
「それじゃあ、次のステップに移ろっか!」
「ええっ、お願いするわねっ♪」
「うん!次のステップは、見えてない場所への空間転移だよ。これは、自分の記憶を頼りにイメージするしかなくて、尚且つ!移動距離によって必要な魔力量が変わってくるから、まずは家の中と庭を行ったり来たりしてみて?」
「分かったわっ♪」
スッと姿を消した母。数秒後に再び姿を現し、また姿を消す。
それを30分ほど繰り返し、移動距離10〜20mの感覚を掴んだようだ。
「もう完璧だね!遠いところは、これから徐々に練習してってね!」
「ええっ♪」
「それじゃあ、いよいよっ!家事に使う魔法の練習だよっ!!」
「待ってましたぁっ♪」
「とりあえず、コレはすぐに使いたいって魔法はある?」
「そうね〜。さっきリュウが使った、料理の魔法を覚えたいわねーっ♪あの味を覚えてしまったら、普通の料理は食べられないわっ♡」
「う〜ん。あれは細かい魔力コントロールが必要になるからなぁ。まぁ1度試してみよっか。」
「ええっ♪」
俺はキッチンへ転移し、冷蔵庫の中から牛ステーキ肉を取り出し、皿に乗せて庭に戻ってきた。
「じゃあ、まずは俺がやってみるから、母さんは出来上がったステーキを目に焼き付けてね?」
「分かったわ!」
俺は、網を使って炭火で焼き上げたステーキをイメージする。焼き加減はレアでいこう。
表面に焼き色が付き、網目が視覚的に食欲を増進させる。
炭火焼き特有の香りが、嗅覚的に食欲を増進させる。
強めの火で内側に旨味と肉汁を閉じ込める。
肉質は溶けていくような柔らかさ。
口にした瞬間、体がステーキを求めるのを止められなくなる。
極上の逸品!
俺は魔力を指先に集め、それをステーキ肉へと放つ。
「まぁっ♡本当に美味しそうなステーキねっ♡」じゅるっ
「そうだね!!でも、まずはこれをイメージ出来るように、目に焼き付けてね!」じゅるっ
「わ、分かったわ!」じゅるりっ
2人で溢れてくるヨダレを飲み込みながら、5分ほどステーキを見つめる。
「もう大丈夫よっ!!食べていいかしらっ!?」じゅるっ
「うんっ!ただ、味もしっかり覚えてね!」じゅるりっ
と、ナイフとフォークで切り分け、2人で食べてみた。
あまりの美味しさに、無言で食べ進めてしまったが、最後の一切れを残して強制ストップ!
俺は時間逆行魔法で、調理前の牛ステーキ肉に戻した。
「次は母さんの番ね!今のステーキをイメージしてやってみよう!」
「わ、分かったわ!いくわよっ!!」
母は魔力を手に集め、意を決してステーキ肉に放った!
ステーキ肉は、焼き過ぎて煤けた感じになってしまった。
ふむふむ。調理魔法で魔力過多だと、行程上のやり過ぎとして現れるようだね。
なら、逆に魔力不足だとどうなるんだろう。
他の魔法と同じように発動しないのか、それとも生焼けみたいになってしまうのか、、。
これは試してみる必要があるなっ!!
「母さん。ちょっと試してみたい事があるから、見ててくれる?」
「え、ええ。」
俺はステーキを調理前に戻し、イメージはそのままに、魔力不足を意識しながらチャレンジしてみた。
さぁ、どうだっ!?




