12話 イメージの力
俺は頭の中でイメージする。
自分が向かいの席に座っている姿を。
魔力を手に集め、自分の胸に触れて放出する。
スッ、スッ
「おおっ!マジかっ!!これはヤバいぞ!!めちゃめちゃ楽しいっ!!!」
俺は興奮しながら、一瞬前まで座っていた席の方に手を伸ばし、メロンソーダを一気飲みした。
そう!俺が試した魔法とは、無属性魔法に分類される空間転移魔法だ!
これは本来ならば、魔法陣を設置して複数人で詠唱する必要がある、大規模魔法なのだが、このやり方なら超お手軽に転移できるぞっ♪
しかし、いくつか検証する必要もある。
今のは視界の範囲内での転移だったが、イメージさえ出来れば移動距離は無限なのか。
という事と、
複数人での転移は可能なのか。
という事。
そして、これ大事。
イメージした場所に、物や人が居たりしたらどうなるのか。
合体してしまったら大変な事態になるからな。
よし、まずは距離の問題から手をつけてみるか。
俺はつい先ほどまでいた岩場、もとい、更地をイメージして、転移魔法を発動してみた。
スッ、スッ
「おおーっ!!見事なまでに更地っ!!家から徒歩15分圏内なら、イメージすれば転移出来るみたいだね!一瞬でケーキ屋さんに行けるぞっ♪」
スッ、スッ
「ふっふっふ!一瞬で帰って来た!!よしよしっ、次は少しばかり危険が伴うが、ちゃんと確認しておかないと、いざという時に大惨事になるからな!!何か良い方法は、、。」
俺は飲み終わったグラスに目が向いた。
そうだ!氷なら、合体しちゃっても体内で溶けるから、比較的安全に試せるよね!!
氷を一つ取り出し向かいのイスの上に置いた。
さて、実験スタート!!
スッ、スッ
「あはっ♪お尻が冷たいっ♪なるほど。合体するんじゃなくて、その上に乗っかるように転移するわけか。まぁ、剣山とかが置いてあったら、血だらけになるのは間違いないね、、。」
さて、複数人で転移出来るかというのは、協力者が必要になる。
しかも、失敗した場合に何が起こるかまだ分かってないから、この件については保留という事にしておこう。
、、そうか。失敗した場合、、か。
これは則ち、イメージした転移先の草原に、家が建っていた、、とかだね。
イメージしていた場所の光景が、イメージとは違くなっていた場合に何が起こるのかという事だ。
少しばかり怖いが、、よし!やるぞっ!!
俺は改造される前のお風呂場をイメージして、転移を発動してみた。
「ふむふむ。同じ座標でも、イメージと違くなっていたら発動しないのか。これなら、転移先で地割れが起きていても、落ちる心配はないね!」
「リュウさまっ♡」
「ふふっ、お腹いっぱいになったかな?」
「いえいえ!まだまだ食べますっ♪ただ、リュウさまが消えたり現れたりしていたように見えたので、気になって来ました!」
「あら、見られちゃったかぁ。」
「はい。見たらまずかったですか?」
「いやいや。内緒にしててくれれば、別に良いよっ♪」
「はいっ♡パルとリュウさまだけの秘密ですねっ♡」
「そ、、そだね。」
多分ニコちゃんには夫婦の誓いで伝わってると思うが、こんなに嬉しそうな笑顔をされたら、言えませんよね〜、、。
あっ、ついでだからパルちゃんに頼んでみようかな!
「パルちゃん。一つ協力してほしい事があるんだけど、良いかな?」
「はいっ♡パルはリュウさまのお願いでしたら、7回宙返り4回半捻りだって飛んで見せますっ♡」
それはそれで見てみたい!
「いや、そんなに難しい事じゃないんだけど、良いって言うまで目を閉じててくれるかな?」
「えっ!?そんなっ、初めてが外でなんてっ!あっでもっ、リュウさまがそうしたいならっ♡」
俺はパルちゃんの手を握って、ケーキ屋の前に転移してみた。既に閉店していて、暗がりの中でなら突然現れても大丈夫だろう。
ススッ、ススッ
「えっと、、何を言ってるか分からないんだけど、目を開けてみて?」
「は、はいっ♡、、あれっ!?ここって、ケーキ屋さんじゃないですか!!」
「ふっふっふ!大成功だね!」
「リュウさま、一体何をしたのですか?」
「まぁまぁ、帰ってから話すよ!」
ススッ、ススッ
「という訳なんだけど、分かったかな?」
「い、いえ。一瞬で帰ってきたのは分かりましたが、、あっ!もしかして空間転移の魔法ですか!?」
「ふっふっふ♪その通り〜っ!!」
「わぁっ♡リュウさまっ凄いですっ♡」
「いやぁっ♪試してみたら出来ちゃっただけだよぉ♪ニコちゃんから、無詠唱魔法を教わったおかげなんだけどねっ?」
「無詠唱魔法、、ですか?」
「うんっ♪まぁ、勝手に俺が名付けたんだけど、魔法陣を読み解く必要もなし!詠唱も魔法名も必要なし!!、、なんだよっ♪」
「え、、えっと。それってつまり、こういう事ですか?」
パルちゃんは、テーブルの上にあった空のグラスに、無言で水を注いだ。
ふむ。詠唱してないね?、、無詠唱魔法だね?
「な、なんで使えるの?」
「えっ?何故と言われても、、。パルたちは初めから、魔法陣?や、詠唱?や、魔法名?なんて聞いた事がありませんから、無詠唱魔法が使えるのは当然だと思いますよ?」
ガガーーーンッ!!!と、俺に衝撃が走った。
そりゃそうだよな。魔法を使ってくる魔物でも、魔法陣やら詠唱なんか、知ってるはずないもんね。
ああ、、俺の、というよりも、人間の常識が全否定された瞬間ですわ、、。
「だ、、大丈夫ですか?」
「うん。少しばかり、無知な人間を可哀想に思っただけさ、、。あれ?、、という事は、パルちゃんも魔力の流れが見えてたりするの?」
「パルたちは本能的に獲物の強さなどを感じとっていますので、魔力の流れが見える、、と言うのが正しいか分かりませんが、人語で表現するとそうなるのかもしれませんね!」
「ふむふむ。確かに、その感覚が弱い奴から死んでいくような環境で生活してたんだもんね。」
「ふふっ♪そんな環境に居たから、リュウさまに出会うことが出来たんですっ♡」
パルちゃんは幸せそうに語ってくる。
う〜む。さっきの自己紹介の内容もそうだけど、パルちゃんの気持ちを確かめてみるか!
「パルちゃんは俺の事どう思ってて、今後どうなっていきたい?ニコちゃんみたく結婚したい?」
「えっと、パルはリュウさまが大好きですっ♡大好きなリュウさまの側に居続けられるなら、護衛でも従者でもペットでも、なんでもいいですっ♡」
「ふむふむ。」
「結婚については、パルにだって分かります。人とシルバーウルフが結婚なんてしたら、行く先々で面倒ごとに巻き込まれてしまうでしょう、、。」
そう言いながら、悲しそうな表情を浮かべるパルちゃん。
ふむ。まるで「君、狼だから、人に成れたらまたチャレンジしてね?」と保留にしている感じだよな。
そんなの、人として、、いやっ!男としてダメだろっ!!
「パルちゃん。ちょっと来て?」
「はいっ♡」
パルちゃんを俺の前に呼び、俺はパルちゃんをそっと抱きしめ、ある魔法を試してみようと思う。
「パルちゃん。今から君に魔法をかける。成功するか分からないし、失敗した時なにが起こるか分からない。それでも俺を信じてくれる?」
「はいっ♡パルはリュウさまのものですからっ♡」
「ありがとっ♡」
俺はハッキリと正確にイメージする。
銀色に輝く細くて柔らかな髪が、しなやかな背筋にかかる。
深めでくっきりとした二重の切れ長な目で、色っぽい長いまつ毛。
スッと通った綺麗で高い鼻。少し薄めだがプルンっと瑞々しい唇。
やや細めで整った輪郭がまた大人っぽく、だが見える八重歯で可愛さも兼ね備えている。
背は128cm、スラっとしたモデルさん体型。
シルバーウルフ年齢16歳との事なので、胸は超美乳Bカップとしておこう。
ニコちゃんと同じく無毛美白美肌で、狼耳と狼シッポ残しにして、狼の獣人という事にする。
超絶可愛い美少女ではなく、超絶綺麗な美女。
さぁっ!!パルちゃんっ!!人型になってーーっ!!!
俺はパルちゃんに、擬人化の魔法をかけた。
その瞬間、パルちゃんの体は光に包まれ形を変えていく。
1分ほどで光は収まり、俺の腕のなかには、イメージ通りの美しい女性がいた。
、、イメージ通りすぎるな。
俺の中の美女像を公表しているようで、少し恥ずかしい!!
「リ、、リュウさま。パルの手が、、足が、、体もっ!!リュウさまっ!リュウさまーーっ!!」
「うんっ、おめでとうっ♪」
自分が人型になっているのを見て、感極まったパルちゃん。
俺をギュッと抱きしめ、ボロボロと大粒の涙を落とす。
俺はパルちゃんの頭を撫でながら、気の済むまで泣かせてあげる事にした。
20分ほど泣き続け、ようやく落ち着いてきたパルちゃんに、さっきの質問をもう一度してみる。
「パルちゃん。無事、人型になれた訳だけど、結婚したくなってきた?」
「ふふっ♪パルはリュウさまの側に居続けられれば、それで良いですっ♡ただ、リュウさまが大人になった時、パルにもリュウさまの赤ちゃんを授けてくれたらなって♡」
「うんっ!その時まで、パルちゃんの気持ちが変わらなかったらねっ♡」
「パルの気持ちが変わるなんて、あり得ませんよっ♡大好きですっ♡」
「うんっ、俺も大好きだよっ♡」
チュッと互いの唇をそっと合わせた、暖かな春の夜の出来事であった、、。
「そうそう、パルちゃん。無詠唱魔法と擬人化の事は、秘密にしてもらいたいんだ。転移については、まだ言わないでほしい。無詠唱がバレなければ、問題ないとも思うし。」
「はいっ♡」
「さて、、と。ちょっと母さんを呼んでくるから、待っててね?」
「どうかしたんですか?」
「いや、、だって、ねぇ?」チラッ
「えっ?、、きゃーっ!!」
自分が全裸だと気付いたパルちゃんは、胸と股を手で隠しながら、庭の木陰にサッと隠れた。
それを見送ってからリビングに戻り、壁際に母を呼んでひそひそと内緒話をする。
「母さん。身長128cm、モデル体型Bカップ女の子の服ってあるかな?」
「ふふっ♪パルちゃんも人の姿になれたのね?」
「うんっ。」
「それは良かったわっ♡今持ってくるから、少し待ってて?」
「ありがと、母さん♪」
母はこそこそとリビングから出ていき、3分ほどで戻ってきた。
その手には、大きめの紙袋が。
「それで、どこにいるのかしら?」
「庭の木の陰に隠れてるよ。ついて来て。」
母を連れ、こそこそとカフェテラスに出て、パルちゃんの元へ。
「母さんを連れてきたから、服を着させてもらってね。俺から皆に説明するから、着たらリビングに入ってきちゃって大丈夫だからね!」
「は、はいっ♡」
「まぁっ♡凄い美人さんになったわね〜っ♡」
「そ、そうですか?母さまの方が綺麗ですよっ♪」
「うふふっ♪嬉しい事を言ってくれるわねっ♡ありがとう♪じゃあ、まずはここに足を通して、、
と、パルちゃんは着方を教わりながら服を着ていく。
俺は先にリビングへと戻り、説明会見を始める。
「あ〜、、皆さん!大切なお話があります!食事を続けたままでいいので聞いてください!!」
そう言うと、ニコちゃん以外は食事を止めて俺に注目した。
まぁ、ニコちゃんには全部伝わってるからな。
夫婦の誓い、、隠し事できませんね。
「えっと、、原因は不明だけど、パルちゃんも人の姿になりました!学校では、ニコちゃんは猫の獣人、パルちゃんは狼の獣人って事にするので、この事は他言無用でお願いします!!」ペコリッ
「ほ、本当なのか?」
「うん。多分、父さんも驚くほどの超絶美人さんだよっ?」
「ふぉっふぉっ♪なら、学校の方の処理は、ワシに任せるのじゃ!シルバーウルフのパルちゃんの記録は抹消して、狼の獣人にしておくからのぅっ♪」
「お爺ちゃん、ありがとねっ♪」
と、そこへパルちゃんが戻ってきた。
可愛らしい水色のワンピースが、スラっとした美脚の美しさを更に高める。
ウエスト部分をピンクのリボンで止めて、細いくびれをアピール。
春の木漏れ日の下で読書してて、話しかけたいけど美しすぎて話しかけられないお姉さんって感じだ!!
「おぉ、、美しい、、。」
「綺麗、、。」「素敵っ、、。」
「惚れた、、。」「結婚したい、、。」
などなど、パルちゃんの姿を見て、父や祖父、メイド・コック・警備兵、皆が見惚れる。
まぁ、父さんは母さんにぶん殴られていたが。
この後、改めてパルちゃんを紹介して、今日のパーティーは幕を下ろした。
しかし、俺はまだ気付いていなかった。
超絶可愛いニコちゃんと、超絶美しいパルちゃん。
2人を連れてる普通の俺。
学校で目立つの間違いないですよね、、。




