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婚約破棄宣言


「私――アルトゥール・アドリオンは今をもってベル・ハルネスとの婚約を破棄させてもらう」


 華やかな会場で金髪碧眼の美丈夫、アルトゥールは声高々に宣言した。

 豪奢なシャンデリアが照明の光を反射して、まるでステンドグラスのように室内を飾っている。

 その中心に立ち胸を張るアルトゥールは、その宣言を撤回することは無いと力強く訴えているようだった。

 睨みつけるような視線の先の――私、ベルは冷水を浴びさせられた気分だ。顔からサッと血の気が引いているのがわかる。きっと酷い顔をしているだろう。

 

 婚約破棄は、百歩譲ってまあ、良しとする。

 理由に心当たりなんてないが――私と彼の婚約は親が決めたものだったが、決して無理強いすることは無かった。私の両親もアルトゥールの両親も、お互いに好きな人ができたら言ってくれればすぐに解消するとそう言ってくれていたのに――このような、晒し者みたいなやり方って、ないでしょう。

 周囲の視線がいたたまれない。

 困惑と憐れみの入り交じった、嫌な視線。とても不愉快である。


 今日は四年に一度開かれる学園主催のパーティの日だ。

 学園に通う貴族や商家の子息子女が親睦を深め、ダンスや食事を楽しむための……。そうして、周囲と繋がりを持ち、より社会へ馴染むためでもあるのだ。

 だから、こんな場で何かしでかすと将来的にもお家柄にも傷が付いてしまう――それはアルトゥールもわかっているはずなのに。


「ぁ……あの、わたくし、何かしてしまった、かしら」


 口から出たのは驚くぐらい小さな声だった。

 動揺を隠しきれない、といった様は誰がどう見ても明白である。

 ぎゅうっとアルトゥールから見えないようにスカートを握りしめる。


「……カレンのことは知っているな」


 先程とは打って変わって重々しく口を開く。

 カレンというのは一年前、学園に編入してきた平民上がりの女生徒だ。なんでも、膨大な魔力量だとかで、特例で学園への入学が認められた子だと聞いている。


「存じておりますが……」


 何が言いたいのかわからない。その女生徒とこの騒ぎがなんの関係があるというのか――「卑劣な手で虐めているらしいじゃないか」……何を言い出すのだろう、この人は。


「俺は以前からカレンに相談を受けていた。婚約者のベルから虐められている、と」


 なんだ、何の話だ。

 身に覚えがないにも程がある。


「聞けば、自分の婚約者に馴れ馴れしく近づくな、売女――と酷い暴言を吐いたそうじゃないか」

「アルトゥールそれは間違いです!だって私彼女とはなんの関わりも――」

「自分には全く非がないとでも言う気か?」


 私の言葉は聞く気がないらしい。

 ピシャリと冷たく突き放される。

 何事かと見ていた周囲の視線が一斉に私に向く。違う、違う、私はそんなこと言っていない!

 反論しようと顔を上げて、私は確信した。


(アルトゥールの心にはもう私がいないんだわ)


 何を言っても無駄だと、彼の表情が物語っている。軽蔑の眼差しが正面から私を捉えて離さない。

 開きかけた唇をキツく噛み締めて私は俯いた。


「……わかりました。その申し入れ承ります」


 震える声で、それでも、ハッキリと意志を伝えて会場を飛び出す。

 あんな辱めを受けて、パーティなんて楽しめるほど私のメンタルは強くないのだ。


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