一月・5
「ちょっと待ったぁーっ!」
もの凄い勢いで部屋の扉が開け放たれた。そこにいたのは、普段着だけど軽くお化粧だけはしてきたと覚しき────。
「あれ? 度会先生? どうしてここに?」
「あー、それはねー」
既に開け放たれ、全員の顔が見えるようになったドアの向こうから、山口が説明してくれた。
「一人だけお見舞いに行くと戦争になるからだよ」
「な ん の 話 !?」
俺の頭はと言えば、熱に浮かされたついでにハテナマークも盛大に浮かばせているようだった。
え、えーと?
「取り敢えず横になりなさい初川くん」
アッハイ。
言われて布団に仰向けになったが……。
あ。
そう言えば、松元の家に招待されたときに何か聞かれたな、何だっけ。『協定だの抜けがけだのをどう思うか』、だっけ?
突然、あの時のシーンが走馬灯のようにハッキリ浮かんできた。え、俺今から死ぬの?
「去年クリスマスパーティーやった時のメンバー全員で、お見舞いに行こうって話になったんだよ」
「山口さんからご両親もいない状況だって聞いて、私が車を出す事になったの」
山口が続け、先生がそれを繋げた。いやまぁ、先生も一緒な経緯は分かったが、もう少し詳細をですね。特にさっきの戦争の件。
と、そこで度会先生が手をパンパンと打った。
「はい、皆さんは下の部屋で待機。食事の介助ならともかく、流石に着替えの手伝いを同級生にさせる訳にはいかないから、先生がやります」
「はーい」
「仕方ないかー」
「トーちゃんお大事にね」
「せんせいよろしくおねがいします」
どやどやと、先生以外の5人が階下へ降りてゆく。まだちょっと混乱しているが、大人になら気兼ねなく……、いや気兼ねバリバリするわこんなん。
「いやあの、先生。渡してくれたら着替えぐらい一人で」
「一人で食事も満足に摂れず、さっき同級生にお願いしてた病人が、今更何を言ってますか」
「ソウデスネ」
「で、タンスの何段目だっけ?」
「あー、二段目です」
流石に目の前ですっぽんぽんになる事は無く、下着は布団の中でモソモソと手伝ってもらったし、汗にまみれたパジャマは洗濯してくれるとの事だった。
まぁちょっと俺の徹くんに触っちゃったりの”事故”はあったが、熱でそれどころじゃない息子氏はすかぴーしたまま。変なイベントが起きなくて助かったぜ。
それにしても。
皆んなの人情に感謝するよ。病気の時に一人って、とにかく心が弱るからな。
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「でも初川くんも幸せ者ね」
「はい?」
お湯に浸したタオルで、上半身を清拭しながら先生が言う。
「病気だって聞いてお見舞いに来てくれる友達が、あんなに沢山いることが」
「もちろん感謝してます。その、度会先生にも」
「これでエンジンを直して貰った時の恩返しはできたかしら?」
「十二分です、ありがたいです」
「前にも言ったけど」
そこで先生はスッと息を吸い。
「私は徹くんの味方だから、いつでも頼ってね」
ピンポンパンポーン♪
いつものSE音が、何故かこのタイミングで鳴った。改めて顔を見れば、耳まで真っ赤になっている。
こういう時、どんな顔すればいいのか分からないの……。
何か言い返そうかなと思ったとき。
「さ、お薬も飲んだようだし、そろそろ眠りなさい」
「そうします、着替えありがとうございました。先生も感染らないようお気を付けて」
「ええ、じゃあお休みなさい」
洗濯物とタオルを持つ先生の姿を見つつ、俺は一気に睡魔に引き込まれた。
夢現な意識の中、何か柔らかな物が唇に触れた気がしたが、それが何かはよく分からなかった。




