十二月・12
塚、もといご先祖様の古墳から帰宅すると、コタツにいて母者人と何やら話をしていたミキちゃんが、ロケットダッシュをかましてきた。
「おにーちゃんおかえりっ!」
なんかものすごい笑顔で抱きつかれたんだけど。
「ただいま。何か良いことでもあったの?」
「うんっ! あとでミキのおうちにくるとわかるよ!」
「そうなのか。じゃあお昼ご飯を食べ終わったら行くよ」
「わかった! じゃあぜったいきてね!」
「はい」
子供の笑顔はすごいな、冷えた体が一瞬で温まったような気がするからね。
「おふくろ、ミキちゃんから何か聞いたの?」
「聞きはしたけど、敢えて教える気はないね」
「なんでさ」
「行けば分かるよ。さて、ならとっととご飯食べちゃいな」
なんだろうなー。
出された昼食を食べながら、オレもちょっぴりワクワクした気分になった。
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ミキちゃんの家は隣である。徒歩一分といった所だ。
見れば家の庭先から、4トントラックがゆっくりと出て行く所だった。
なんだろう、何か大きな物でも買って貰ったんだろうか?
そうして玄関前に来たオレは、呼び鈴のボタンを押した。
「ごめんくださー」
ガチャッ!
「トーちゃーん!」
「いっ!?」
扉を勢いよく開け放った玲華に、両腕で抱きつき攻撃を受ける羽目になった。
突然のことに驚いていると、玄関の奥で玲華の父がニコニコしながら立っていた。
「先日ぶりだね徹くん、元気にしてたかい?」
「いまその元気をモリモリ吸われてますが」
「寒い中で立ち話もなんだ。まずは上がってくれ」
「分かりました」
いつの間にか背中に回って負ぶさっている玲華を完璧に無視し、オレはミキちゃんの家にお邪魔した。
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「これは詳細は省くが、結論だけ言うと君は嫁、……嫁?」
「何故ご自身のセリフが疑問形なんです?」
「いやその、先日の件以来、娘と色々話しているうちに、自然とこうなったと言うか」
玲華お前……、自分の父親を洗脳でもしたのか?
というか、いつもより大分くだけた口調だな、玲華(父)。
前回は公の場での顔合わせだった事もあり、やや固い印象だったが、実はこっちの方が素なのかも知れん。
「嫁だかコメダか知りませんが、一体どういう」
「あー、実は娘の学校の件だが、あれから色々あって、軽音部を仮設立することになった」
「それは、おめでとうございます」
実はあの日の帰り道、ナビをしながら渡会先生から聞いた話だ。
学業を疎かにしないという条件を付け、設立にこぎ着けられそうとの事。
よって学校内の騒ぎも沈静化し、今後は楽しい中学生ライフが送れるはずだ。
「じゃあ玲華……さんも、そこに入部して万々歳という事ですね」
「それなんがだね」
そこまで来て、まだオレの背後にへばりついている玲華が、ギュッと首の締めつけを強める。
「どうせ音楽やるんなら、トーちゃんとぐっちーのいる所でやりたいって、チョーお願いしたんじゃよ」
「ギブギブ」
たしたし。玲華の腕をタッピングしながら……、なんで締める必要がある? いい加減離れろ。
つか、いま何か引っかかる台詞を吐かなかったか?
「なので兄にも相談した結果、新学期の始まる来月に合わせて、娘を徹くんの学校に転校させることになった」
「こっから通うことになるので、学校のこと色々教えてね?」
ここで玲華(父)の言う「兄」とは、この場合ミキちゃんの父親を指す。
ええと、ミキちゃんの父親に相談? でもって転校??
─────え?
オレはその時、きっとバカみたいな顔をしていただろう。
転校? 受験まであと1年チョイの、中学2年のこの時期に?
気の合う仲間と音楽やりたいから? 正気か?
使う教科書だって違っているかも知れないのに?
冗談とかドッキリじゃなく?
「マジですか……」
「マジなんだこれが」
「マジなんじゃよー」
お前は少し黙っとれ、あと絞める力を緩めろ。
「いやでも、受験勉強とかには影響は?」
……いや待てよ?
『学業を疎かにしない』という条件で仮設立にまでこぎ着けたのに、玲華はこっちに転校??
─────あっ(察し)。
「はっちゃけてしまうと、私の娘はアホだ」
はっちゃけちゃったー!?
「こう言ってはなんだが、きっと徹くんからすれば、君の足元にも及ばない成績なんだよ」
ええー。
「なので住む場所や教科書が少し変わったぐらいじゃ、受験への影響など皆無だと言える」
「トーちゃん、これからよろしくお願いしちゃうんだぜ?」
そこまで話が進んだとき、傍にいたミキちゃんが、待ちきれないとでも言うように、オレと玲華に笑顔を向けてきた。
「みんななかよし! ミキすっごいうれしい!」
「そうだろうねぇ」
「れーかちゃんが、お正月がおわってもずーっといてくれる!」
「そうなるねぇ」
「なので徹くん」
玲華(父)が真剣な、でもどこか諦観にも見える顔でこう言った。
「娘のこと、よろしく頼む」
それ、よろしくの前に「勉強も」って付くヤツですよねぇ?
来年のバレンタインに、ダークホースが一人増えた瞬間であった。
あーもー面倒くさい。いっそのこと、もう誰からも貰わなくていいかも。
頸動脈を圧迫されたまま、薄れゆく意識の中、ふとそんな事を思った。




