十二月・11
ざっくざっく。
「ぐぬぬぬぬぬ……、ふんっ!」
ばっさばっさ。
「ぬおおおおー、とりゃあーっ!」
─────いきなりケモノみたいな咆吼で申し訳ない。
オレは今、ご先祖様が過去に御霊分けをしてもらった小さな祠、と言うか社と言うか、とにかくそれがある山の藪の中を、草刈り鎌を片手に進んでいる最中だ。
小さいとは言えこの村にも神社はあるのだが、そもそもあそこはオオトモ様の鎮魂のために建てられたもの。本来の、つまり神道的な意味合いでの社は、オレの家が所有する小高い山の頂上に、ひっそりと建っているのだ。もう古い話なので、村の古老達でも覚えちゃいないかもだけど。
そして年末になると、こうして参道とも言えない細い道をざくざくばさばさ、文字通り藪漕ぎしつつ切り拓き、お供え物をして来るのが、我が初川家の習わしなのである。
やっとの思いで頂上に辿り着くと、木々の間にちょっと拓けた場所があり、そこに古い社がある。
オレは二礼二拍してから南京錠を開け、中を軽く掃除してから米と御神酒を小さな杯にあけ、再び神妙な面持ちで扉を閉め、更にもう一度礼をした。
ちなみにお供えした米がいつの間にか無くなるのは、たぶん格子扉の隙間から入り込んだスズメか何かが啄んでいくのだろう。酒は勝手に蒸発するんだろうが、見ていないのでそっちは知らん。
一仕事終えたが、冬だというのに大汗をかいてしまった。こりゃ体を動かし続けていないと風邪を引くな。
「ふぅ、お社様の方はこれで終わりと。次は”塚”だな」
そしてオレにはもう一つ訪れる場所があった。それがいま言った『塚』だ。
ここからだとちょっと離れた所。
だだっ広い田んぼの中に、ちんまりこんもり盛り土みたいに見える場所。
ここ以上に深い藪と急斜面があり、しかもそこまで直通の道など無いという、MTBでも到達不可能な立地のせいで、毎年来るのが本当に億劫なのである。
(そうは言っても、こちらがお主の家本来の社じゃしなぁ)
「そうなんですよねー。もっと昔、曾じいちゃんの時代だと、もう少し登りやすかったそうですけど」
(そりゃ年に一度と言わず、小まめに草刈りなぞしに来ておったようじゃからの)
「あー、藪蛇な話題でしたー」
(今も藪漕ぎしとるしの)
「へへーい」
オオトモ様がいてくれるお陰で、今年はぐだぐだせずキッチリお役目を務める事が出来ている。話し相手がいるだけで、こうまで気分が楽になるとは。
そう言えばオレ、中学時代はエア友達とよく話をしてたわ。
街灯のほとんど無い田舎の帰り道って、本当に寂しいんだよ、分かってくれよ。
暗がりに対する原始的な恐怖を紛らわすためにも、エア友達は白いギター以上に、ナウなヤングのマストアイテムだったんだよ。
別に友達が少ないって理由じゃなかったんだよ……。
そうこうしている内に『塚』に到着、さっきと同様ざくざくばさばさを開始する。
(時に、お主は知らされておらんようじゃが)
唐突に、オオトモ様がいま思い出したかのように話しかけてきた。
(ここは厳密に言うと塚などではないぞ?)
「─────へ?」
(儂の重臣じゃった者、つまりお主の先祖の『古墳』じゃよ)
─────それ知らんかったんとってんちんとんしゃん!?
「ええっ、そうだったんですか!?」
(嘆かわしい事よのう)
「ええー、だって親父も爺ちゃんも、曾じいちゃんだってそんなこと一言も」
(お主の家の者は、忘れっぽいのが遺伝するのかのう?)
今明かされる衝撃の事実!
この辺りには当たり前のように古墳が、それも特に周知されない小規模のものがたくさんあるから、特段気にはしていなかったのだ。
同級生の家では、未だに時々は畑の中から土器の破片が見つかる、そんな歴史的な土地柄である。
実際自分も、ずっと『塚』としか言われてこなかったし、そんなん初耳だよ。
(少しは有り難みが増えたかの?)
「そりゃもう!」
そんな神聖な場所によじ登り、お供え物を届け終えると、オレは改めてオオトモ様に尋ねてみた。
「ご、ご先祖様の魂的なものって、まだここにいらっしゃるので?」
(流石にもう居らんようじゃが、それでも姿形を変え、家は見守っておるようじゃぞ)
「え、姿?」
(時々屋根裏におったりするじゃろ)
「……あのアオダイショウのことですか!?」
今明かされる衝撃の事実、Part2!
いや、確かに「ヘビは家の守り主」とはよく聞くけど。
(希に厠の神様もやっとるらしいが)
「がんばり入道の間違いではなく?」
(その例えはいくらなんでもあんまりじゃろ)
そっかー。
ご先祖様、流石に神格化はされなかったから、オオトモ様みたいな土地神扱いにはならなかったんだな。
なのに子孫のことはずっと気にかけてくれてたのか、なんてこったい。
この塚、改め古墳にはもう少し、手入れだけでもしにちょくちょく来るとするか。
オレは誰に聞いたとは言えないこの事実を胸に秘め、熱々な豚汁が待っているであろう家へと足を向けた。




