十二月・7
渡会先生の車に乗り込み、オレは玲華のいる中学校へと向かっていた。
どうしても一度、あのバ教師……改め教頭と、話をしなければと思い至ったからだ。
オレが地図を見ながらルート指示。旧道をひた走り、小一時間ほどで現地に到着した。
そう言えばこの頃はまだ、都心部へ抜けるバイパス道も整備されていなかったっけな。久しぶりに助手席で助手っぽいことをやっている。
それにしても度会先生、もう少し運転には自信を持ってもいいんですよ? 交差点に差しかかかる度に「ここ? ここで合ってる?」って、涙目でこっち見ないで下さい、つかちゃんと前見て走ろうね。
これ、むしろオレが運転した方がスムーズまであるな。
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通された応接室で、オレと玲華は再会した。
一応、先日の電話で何をしに来たかは伝えたハズなんだが、どうにも視線がかみ合わない。今回の事の大きさと、それを巡って周囲のオトナが動いた件とで、やや怯えているのだろう。
「トーちゃん……」
「久しぶりだな。元気かーって声を掛けたいんだが、今はそれどころじゃ無いか」
「うん……」
そしてオレは、玲華の横に座っている男性、つまり玲華の父親に向かって一礼した。
「改めまして玲華のお父さん。この度は自分の軽率な行動および言動で、娘さんをこのような目に遭わせてしまい、誠に申し訳なく思っています。すみませんでした」
「と、トーちゃん!」
玲華の父親は「うむ」と言ったきりで、校長と教頭に向かって目配せした。
「では、始めましょうか。今日お集まり頂いたのは、当校の学園祭におけるバンド活動について、学校側が把握していないお金の流れがあったこと。そして一部の生徒による玲華さんへの処分取り下げの訴え。この点について、初川玲華さんとそのお父さん、親戚に当たる初川徹君と、そちらの中学で音楽教師をしていらっしゃる、度会先生による弁明の時間、ということで、よろしいですかな?」
よろしいも何も、お前が許可出したんだろうがこのハゲ。
初見、まるで「絵に描いたようなツルッパゲ校長」といった風で、ちょびっとだけ笑うのをガマンしたぐらい、見事なハゲ具合だった。その生え際前線、力一杯はたくぞコノヤロー。
ちなみに今回の件。オレは自分の親へも話を通した上で、両家の親同士で連絡を取って貰ったんだが、玲華の父親からは、ウチの親は来て貰わなくて良いという話になったんだそうな。
まぁ自分の娘が引き起こした騒ぎでもあるし、そこまでさせるのは気が引けたという所だろうか? なんと言っても本家の人間だからな、オレ。
なので今ここにいる面子は、校長と教頭、長谷川先生、玲華とその父親、そしてオレと度会先生の7人だ。
そんな中、最初に口火を切ったのは、玲華の父親だった。
「先ずは謝罪を。この度は娘がご迷惑をおかけしまして、誠に申し訳ございません」
「いえいえ、それには及びません」
「ですが」
「実は、お話ししたいのは先ずこれなんです」
校長が一枚の用紙を机に置いた。
そこには年月日とともに、『機材レンタル料』の名目があった。
運搬料金と人足、設置場所までの階段の有無、何日前までの搬入希望か等々、詳細な項目が並んでいた。
ドラムセットとキーボード、そしてアンプ数台。しめて……。
「10万円弱、という金額ですね」
校長がふーっと息を吐いた。
「校長である私がバンド活動に許可を出したとは言え、これほど高額な金銭が動いていたとは知りませんでした」
許可を出したこと、それ自体は問題なかったということか。
見れば長谷川先生も、度会先生も固まっている。そりゃそうだ、いち女子中学生が気軽に出せる金額じゃないからな。
「玲華さん、このお金はどうやって工面したんですか?」
何度か訊かれたのであろう質問に、玲華が素っ気なく答える。
「自分の貯めていたお年玉を、ほぼ全額つぎ込みました」
「はぁ!?」
思わずオレが声を上げてしまった。オレの隣にいる渡会先生も、ギョッとして顔を上げる。
いや玲華お前、そこ大事なところだろ、なんで予め言っておいてくれなかったんだ……。
とは言え、自分も金銭についての配慮が足りなかった。どうやって用意したのかな、ぐらいは思ったが、まさか玲華個人の私費だったとは。元社会人として不甲斐ない。
「お静かに。では不正なお金では無かった、という認識でいいんですね?」
「はい」
「お父さんは、この件については把握は」
「今回の件で先日やっと知りました。全く以て、私の不徳の致すところです」
「いえいえ、分かりました」
パン、と校長が手を打つ。
「ではお金に関しての追求は、これで終わりにしましょう」
「こっ、校長!?」
「終わりです」
「っ!」
何故か教頭が慌てる。
なんだ? この件で玲華を始めとする不穏分子に、某かのカウンターでも喰らわせたかったのか?
返す返す姑息なヤツだな。
「さて、実は真に困っているのは、もう一つの方なのですよ」
出されたまま温くなってしまったお茶を一口。
オレはグッと喉に流し込んだ。




