十二月・6
オレは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の教頭を除かなければならぬと決意した。オレには詳細がわからぬ。オレは、ただの男子である。ギターを弾き、幼女と遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。
うん、一旦落ち着こうか、オレ。
度会先生から聞いた話では、あのライブの後、自分もギターやドラムをやってみたい、ピアノじゃなくてシンセも触ってみたいという生徒が増えたという。
そして、「できれば軽音部を立ち上げたい」という、一大ムーブメントにまでなったそうだ。
─────が、しかし。
そんな「暴挙」を、あのバ教師が許すはずも無く。
この運動に参加した生徒を全員一喝し、内申書の話をチラつかせて鎮火させ。
あの日のライブに集まった「不良達」には、教師に対する暴言という意味で反省文の提出を求め。
そして事の発端となった玲華には、「学校施設の無許可使用」と、私費で行ったとは言え学校側が関知していなかった楽器のレンタルという、ある意味「望ましくない金銭の流れが校内で起きた」という名目で、三日間の出席停止を言い渡したという。
いや校長、お前その間なにやってたんだオイ。
とは言え普段からPTA活動等の渉外を、校長に代わって実際に担当するのが教頭という立場の人間であることは知っているし、だからこそ校長のある意味「尻拭い」をしているのだろうとは思うが。
それにしたって出席停止はやり過ぎだろ。義務教育の中学校では、実質停学処分だぞ。
これには玲華の同級生や後輩達、そして受験を控えた三年生からも「やりすぎではないか」との声が上がった。とある三年生には、自分の内申書に響くかも知れないリスクを犯してまで、玲華を擁護する人がいたそうだ。
むしろ「こんな前時代的な学校のOBだなんて、こっちが恥ずかしくて言えない」とまで言ってくれたとか。オレが玲華の立場だったら惚れちゃうね。
だからこそ、度会先生は「謀反」と表現したのだろう。
ちなみに、通常の停学処分に相当する行為は次の通りだ。
・他の児童に傷害、心身の苦痛又は財産上の損失を与える行為
・職員に傷害又は心身の苦痛を与える行為
・施設又は設備を損壊する行為
・授業その他の教育活動の実施を妨げる行為
改めて、あのライブのどこがこれらに該当するのか全く分からん。一つもかすった項目なんか無いだろ。強いて言うなら二番目の「職員に心身の苦痛云々」辺りか?
あーあー、あの「帰れコール」が相当に悔しかったのかね。なんともまぁ、肝っ玉の小せぇ男だ。
真意はともかく、あの教頭とは直接会って話をしないと、オレの怒りは収まりそうに無い。
とは言え、当の本人である玲華を抜きに、処分軽減の直談判も無意味だ。そしてこの件は、玲華の親御さんにも無関係では無い。
ミキちゃんの家で見かけ、何度か挨拶をしたことはあるが、年齢の割に厳格そうな、やや強面の父親の顔が浮かぶ。うん、まぁ一発ブン殴られても仕方ないかなー、ぐらいの決心はしているつもりだが。
誰だって自分の娘が男に誑かされ、悪の道へ進んだとなれば、相手の男をケルナグールしたくもなるだろうしな。
そんなアレやコレやを帰宅した自室でグルグルしつつ、今後どう対処すべきなのか、真剣にシミュレートしていた。
─────やがて。
頭からプスプスと出ていた煙が、全て出尽くした辺りで。
オレは度会先生と玲華の家へ、それぞれ電話をかけたのだった。




