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バレンタイン×バタフライ  作者: 新田猫レ
53/71

十二月・2

 翌日。


 午前中の授業も終わり、さて昼飯は何処で食べようかと思案していた時、廊下側の出入り口に近い席にいる尾野から手招きをされた。


「なんか一年生の子が用事があるって、これ渡されたんだけど」

「む、そうなのか? わざわざすまないな」


 何故かジト目な尾野からの視線をかわしつつ、手渡された物を見る。

 そこには折りたたみ方に工夫を凝らし、封筒やのり付け無しで学生達がよくやりとりする「便箋だけの手紙」があった。

 うわ懐かしいな。オレも簡単な物なら未だに折って作れるぞ。乙女か。

 まぁそれはいいとして、どれどれ。



 『昨日はありがとうございました。

  ちゃんとお礼がしたいので、

  今日の放課後、被服室で待っています。

           1年C組 涼木美帆』



 ああ、昨日の子か。そういうのはいいって言ったのに、律儀な子だな。親御さんから何か言われたのかね。

 ひょいと廊下を見ると、下級生らしき子の姿は無い。


「どうかした?」


 青野に話しかけられ、瞬時に手紙をポケットに突っ込んだ。相手の子からすればオレ宛に書いた物を、他人には見られたくは無いだろうしな。


「いや別に」


 オレはしれっと返事をし、尾野には黙っていてくれという意味のジェスチャーをする。

 うーむ、今日も引き続き勉強会はあるし、放課後は誰にも見られないよう、ダッシュで指定の場所へ赴かないとならないな。

 ゲームよろしくダンボールに隠れて移動したいが、そんなわけにも行くまいよ。


 まぁ、親御さんからのお礼の品でも受け取って終わりだろうから、それほど時間は掛からないだろう。


 ─────と、この時までは楽観的だった。


 それがまさかあんな事になるとは、誰に予想できようか。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 この冬の時期。

 陽光も既にかなり傾いた時刻。

 セントラルヒーティングなぞ無い時代の誰もいない被服室は、そりゃあ非常に寒かった。


 そんなキンと張り詰めた空気の中、涼木さんが待っていた。


「あ、は、初川せんぱい」

「お、昼は手紙ありがとね。あれから痛みは減ったかい?」

「おかげさまですっかりいいです。お、お母さんには『こんな所にシップ貼るなんて』って笑われましたけど」


 そこで彼女ははにかんだような笑みを浮かべた。


「あー、まぁ部位が部位だけにね、仕方ないよね」

「そっ、そうですね」


 二人であははーと笑い合った後。


「あっ、あのっ、これ母からお礼にって渡されました、どっ、どうぞっ!」


 紙袋に入った、何やらお菓子っぽいものを頂いた。


「ありゃ、返って気を遣わせちゃったかな。何だか悪いね」

「いえ、ほ、ほんの気持ち、なので」

「そう? じゃあ遠慮無くもらっておくね」

「はいっ! こっ、これからもよろしくお願いします!」


 うおっ、眩しっ!? 子供の邪気の無い笑顔がこんなに輝いて見えるとは!

 ……裏を返せば、それだけ自分が汚れっちまった悲しみ、もとい、世界を生きてきたって事の証左でもあるんだよな。


 ─────と。


 セルフ中原中也ごっこでちょっぴり愕然としていた所、涼木さんの様子が何だかおかしい。

 見ればさっきの笑顔から一転、目に大粒の涙が浮かんでいる。


「え、どしたの?」

「……うっ、ううーっ、初川せんぱいっ」


 ええー? 今までの遣り取りで、泣いちゃう要素なんて一つでもあったかー!?


「あーよしよし、ええと、どうしよう、困ったな」


 ─────しまった。またいつもの泣く子をあやす動作(オートスキル)が出てしまった。


「せんぱい、わたし、こっ、怖いんです」

「うん、じゃあ最初からちゃんと話を聞こうかな。取り敢えず座ろう?」

「は、はいっ」


 さて、こりゃ長くなるかな。

 オレは図書室で待っているであろうメンバーに、申し訳ないーと念を送っておいた。

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