十二月・2
翌日。
午前中の授業も終わり、さて昼飯は何処で食べようかと思案していた時、廊下側の出入り口に近い席にいる尾野から手招きをされた。
「なんか一年生の子が用事があるって、これ渡されたんだけど」
「む、そうなのか? わざわざすまないな」
何故かジト目な尾野からの視線をかわしつつ、手渡された物を見る。
そこには折りたたみ方に工夫を凝らし、封筒やのり付け無しで学生達がよくやりとりする「便箋だけの手紙」があった。
うわ懐かしいな。オレも簡単な物なら未だに折って作れるぞ。乙女か。
まぁそれはいいとして、どれどれ。
『昨日はありがとうございました。
ちゃんとお礼がしたいので、
今日の放課後、被服室で待っています。
1年C組 涼木美帆』
ああ、昨日の子か。そういうのはいいって言ったのに、律儀な子だな。親御さんから何か言われたのかね。
ひょいと廊下を見ると、下級生らしき子の姿は無い。
「どうかした?」
青野に話しかけられ、瞬時に手紙をポケットに突っ込んだ。相手の子からすればオレ宛に書いた物を、他人には見られたくは無いだろうしな。
「いや別に」
オレはしれっと返事をし、尾野には黙っていてくれという意味のジェスチャーをする。
うーむ、今日も引き続き勉強会はあるし、放課後は誰にも見られないよう、ダッシュで指定の場所へ赴かないとならないな。
ゲームよろしくダンボールに隠れて移動したいが、そんなわけにも行くまいよ。
まぁ、親御さんからのお礼の品でも受け取って終わりだろうから、それほど時間は掛からないだろう。
─────と、この時までは楽観的だった。
それがまさかあんな事になるとは、誰に予想できようか。
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この冬の時期。
陽光も既にかなり傾いた時刻。
セントラルヒーティングなぞ無い時代の誰もいない被服室は、そりゃあ非常に寒かった。
そんなキンと張り詰めた空気の中、涼木さんが待っていた。
「あ、は、初川せんぱい」
「お、昼は手紙ありがとね。あれから痛みは減ったかい?」
「おかげさまですっかりいいです。お、お母さんには『こんな所にシップ貼るなんて』って笑われましたけど」
そこで彼女ははにかんだような笑みを浮かべた。
「あー、まぁ部位が部位だけにね、仕方ないよね」
「そっ、そうですね」
二人であははーと笑い合った後。
「あっ、あのっ、これ母からお礼にって渡されました、どっ、どうぞっ!」
紙袋に入った、何やらお菓子っぽいものを頂いた。
「ありゃ、返って気を遣わせちゃったかな。何だか悪いね」
「いえ、ほ、ほんの気持ち、なので」
「そう? じゃあ遠慮無くもらっておくね」
「はいっ! こっ、これからもよろしくお願いします!」
うおっ、眩しっ!? 子供の邪気の無い笑顔がこんなに輝いて見えるとは!
……裏を返せば、それだけ自分が汚れっちまった悲しみ、もとい、世界を生きてきたって事の証左でもあるんだよな。
─────と。
セルフ中原中也ごっこでちょっぴり愕然としていた所、涼木さんの様子が何だかおかしい。
見ればさっきの笑顔から一転、目に大粒の涙が浮かんでいる。
「え、どしたの?」
「……うっ、ううーっ、初川せんぱいっ」
ええー? 今までの遣り取りで、泣いちゃう要素なんて一つでもあったかー!?
「あーよしよし、ええと、どうしよう、困ったな」
─────しまった。またいつもの泣く子をあやす動作が出てしまった。
「せんぱい、わたし、こっ、怖いんです」
「うん、じゃあ最初からちゃんと話を聞こうかな。取り敢えず座ろう?」
「は、はいっ」
さて、こりゃ長くなるかな。
オレは図書室で待っているであろうメンバーに、申し訳ないーと念を送っておいた。




