十一月・5
やってきました学園祭。(※他校の)
山口と連れだって指定された駅のコンコース……と呼ぶには、ちょっと規模の小さい広場で待っていると、
「あなたたちが初川ちゃんの助っ人さんたち?」
と、妙齢のお嬢さんに声を掛けられた。うん、緊張のため表現がいちいち古くなっているのは自覚している。
「はいそうです、初めまして。玲華の学校の音楽の先生ですよね?」
「は、初めまして、今日はよろしくお願いします」
「話に聞いてた通りの子たちね、私は長谷川と言います。今日はお願いね」
「はい、よろしくお願いします」
「ボクもです!」
長谷川先生がクスッと笑う。こう言うと失礼かも知れないが、度会先生とはまた違ったタイプの人だ。どちらかというとその豊満なボディ(※婉曲表現)を活かして、オペラのソプラノ歌手とかが似合いそうではある。
これで声楽専攻とかじゃなかったら素直に謝ろう、心の中で。
「さぁさ、堅苦しい挨拶はなしにして、まずは車に乗ってちょうだい」
「「はい」」
駅前の駐車場にあった軽自動車に乗りこみ、オレと山口は一路、玲華の待つ中学校へと向かった。
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そして案内された校内の音楽室で玲華と再会。
「がるるるるー!」
「静まれ! 静まりたまえ! さぞかし名のある山の主と見受けたが、何故そのように荒ぶるのか!?」
目が合った瞬間ダッシュで飛びかかってきたので、いつも同様チョップで撃退。
「いったー!? なんの主だよー、ヒドイよトーちゃん!」
「いい加減にしろ、今は人目だってあるんだか、あっ」
「あっ」
しまった。
うっかり発言に気づいた途端、いきなりフリーズしたオレ達を見て、何かにピンときたっぽい山口が、メッチャ笑顔で口を開く。
「どうしたの二人とも、人目があると何か困ったことでも? ボクちょーっと知りたいなー」
「「なんでもないです」」
一応玲華とは、先日の告白の件については、黙っていようと言うことになっている。それもこれも、オレがまだ受け入れる気構えができていないのと、それ以上に今日のライブを完遂するという目的が、何よりも優先されるからだ。
……が、その前に。
手持ち無沙汰そうに今のやり取りを見ていた少年が、すっくと立ち上がってやって来た。
「君たちが今日のメンバーかい? 初めまして、リードギターの三津木って言います、ヨロシク」
おお、やっぱり三津木先輩だったのか。高校時代の姿しか知らないからアレだけど、もうこの頃から物腰の柔らかい人だったんだな。
─────なんでこの菩薩みたいな印象の人が、ス○ーリンのような過激なパンクへの道へ進んだんだろ。
仏様の横っ面を三回以上ぶったか何かしたのだろうか。仏陀だけに。
うん、それパンクじゃなくてロック魂だね。
「初めまして、初川徹です。今日はお願いします」
「ボクは山口祥子です、お願いします」
「いやぁ、この孤独なエレキ小僧に、一日限りとは言え仲間ができる日が来るとは、嬉しいねぇ」
「いや小僧て」
そこで全員が笑った。そうそう、こんな風に率先して場を和ませてくれる人だったな。
「とは言っても、今日はコミックバンドらしからぬ真面目な選曲だね」
「コミックバンドちゃいます。まぁヒットしたCMソングを中心に、在校生や父兄にも、バンド活動の良さを知ってもらいたいなーという魂胆はあります」
「おおー、なるほどね。初川君て見かけによらず、面白いことを考えてるんだね」
オレってどんな見かけしてるんですかね?
「と言うか、いい加減『エレキは不良のやるもの』なんて下らない考えを、このライブでブチ壊したいというのもあったり」
そう、元はと言えば、玲華の音楽仲間をなんとかしてやりたい、ってのが動機だったんだよな。
そしてそんなオレのセリフを耳にして、三津木先輩が目を丸くしつつ破顔した。
「おおーいいねー。今まで肩身の狭かったエレキギターが、今日この中学校を発信源に、市民権を得る日になるかもね」
「やりましょう!」
「応ともさ!」
ガシッ。
初対面とは思えない、これは男同士の固い絆が生まれた瞬間の握手であった。
そう言えば先輩もオレも高校を卒業した後。
後輩に招かれ、定期演奏会の指導に来た際、本当にたまたま偶然廊下で出会い。
「おおっ!!」
「ああっ!?」
二人同時にフリーズ。
お互い一言の挨拶もできず、何故かそのままガッシリとハグをしたことがあった。あんな事って、今までの人生(※やり直し中の現在も含む)の中で、あれが最初で最後だったなぁ。
─────もっとも、たまたまその様子を見かけた後輩女子から、
「とても美しいものを見させて頂きました……」
と、何故か頬を赤く染めて言われたのも、今となってはまぁ、うん、良い思い出だよ。
全員の挨拶も済んだ所で、オレ達の様子を笑顔で見つめていた長谷川先生が、玲華に話しかける。
「初川ちゃんの親戚の子、頼りになるわねぇ」
「そりゃアチキの嫁ですから!」
おい玲華コラ。
「先生は今日初めて会うんだけど、どういう男の子なの?」
「そうですねー、アチキにとってはお釈迦様以上の存在ですかな」
「え?」
は? いやオレそんなに出来た人間じゃ無いぞ。
(ほほう、これは儂の後を継ぐのに相応しい、ということになるやも知れぬな)
(あ、オオトモ様、お久しぶりです)
(どうじゃ、この世界で天寿を全うしたら、儂の代わりにこの土地を治めてみぬか?)
(超絶大変そうなので辞退させていただきたく)
(そっかー)
いや何ガッカリした風なんですか。恐れ多すぎて普通に無理ですよ。
そして気づけば得意満面、玲華がドヤ顔で語り出した。
「えーと、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』ってお話があるじゃないですか」
「ええ」
「天上から糸を垂らしてくれるだけじゃなく、アチキ”だけ”をしっかり抱きかかえて、そのままえいやっ! と救ってくれたと言う、もう神様仏様トオルサマって感じです!」
「そうなの」
長谷川先生が目を細くして微笑んでいる。先生の体型と今の話も相まって、なんだかアルカイックスマイルをライブで見ている気分だ。
きっと玲華のことを、普段から気に掛けてくれていたのだろう。いま目の前で生き生きと語る玲華を、とても嬉しそうに見つめていた。ありがたいことです。
「ふうん、一応地獄行きの自覚はあったのかぁ、うふ、うふふふふふ」
─────それはいいが「だけ」の部分を強調するなよ。何故か山口が妙な反応してるじゃないか。
「さあ、じゃ皆んな集まったところで、一回ぐらいリハーサルをしておいてね。流石にぶっつけ本番で上手くいくとは思わないでしょ?」
「そうですね。じゃいっちょ演りますか」
「「はい!」」
長谷川先生に連れられ、まだ誰もいない体育館兼講堂のステージに移動したオレ達。
三津木先輩のリードの下、これが初顔合わせとは到底思えない、見事なリハーサルとなったのは言うまでも無い。




