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バレンタイン×バタフライ  作者: 新田猫レ
50/71

十一月・5

 やってきました学園祭。(※他校の)

 山口と連れだって指定された駅のコンコース……と呼ぶには、ちょっと規模の小さい広場で待っていると、


「あなたたちが初川ちゃんの助っ人さんたち?」


と、妙齢のお嬢さんに声を掛けられた。うん、緊張のため表現がいちいち古くなっているのは自覚している。


「はいそうです、初めまして。玲華の学校の音楽の先生ですよね?」

「は、初めまして、今日はよろしくお願いします」

「話に聞いてた通りの子たちね、私は長谷川と言います。今日はお願いね」

「はい、よろしくお願いします」

「ボクもです!」


 長谷川先生がクスッと笑う。こう言うと失礼かも知れないが、度会先生とはまた違ったタイプの人だ。どちらかというとその豊満なボディ(※婉曲表現)を活かして、オペラのソプラノ歌手とかが似合いそうではある。

 これで声楽専攻とかじゃなかったら素直に謝ろう、心の中で。


「さぁさ、堅苦しい挨拶はなしにして、まずは車に乗ってちょうだい」

「「はい」」


 駅前の駐車場にあった軽自動車に乗りこみ、オレと山口は一路、玲華の待つ中学校へと向かった。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 そして案内された校内の音楽室で玲華と再会。


「がるるるるー!」

「静まれ! 静まりたまえ! さぞかし名のある(バンド)(ぬし)と見受けたが、何故そのように荒ぶるのか!?」


 目が合った瞬間ダッシュで飛びかかってきたので、いつも同様チョップで撃退。


「いったー!? なんの主だよー、ヒドイよトーちゃん!」

「いい加減にしろ、今は人目だってあるんだか、あっ」

「あっ」


 しまった。

 うっかり発言に気づいた途端、いきなりフリーズしたオレ達を見て、何かにピンときたっぽい山口が、メッチャ笑顔で口を開く。


「どうしたの二人とも、人目があると何か困ったことでも? ボクちょーっと知りたいなー」

「「なんでもないです」」


 一応玲華とは、先日の告白の件については、黙っていようと言うことになっている。それもこれも、オレがまだ受け入れる気構えができていないのと、それ以上に今日のライブを完遂するという目的が、何よりも優先されるからだ。


 ……が、その前に。

 手持ち無沙汰そうに今のやり取りを見ていた少年が、すっくと立ち上がってやって来た。


「君たちが今日のメンバーかい? 初めまして、リードギターの三津木(みつき)って言います、ヨロシク」


 おお、やっぱり三津木先輩だったのか。高校時代の姿しか知らないからアレだけど、もうこの頃から物腰の柔らかい人だったんだな。

 ─────なんでこの菩薩みたいな印象の人が、ス○ーリンのような過激なパンクへの道へ進んだんだろ。

 仏様の横っ面を三回以上ぶったか何かしたのだろうか。仏陀(ブッダ)だけに。

 うん、それパンクじゃなくてロック魂だね。


「初めまして、初川徹です。今日はお願いします」

「ボクは山口祥子です、お願いします」

「いやぁ、この孤独なエレキ小僧に、一日限りとは言え仲間ができる日が来るとは、嬉しいねぇ」

「いや小僧て」


 そこで全員が笑った。そうそう、こんな風に率先して場を和ませてくれる人だったな。


「とは言っても、今日はコミックバンドらしからぬ真面目な選曲だね」

「コミックバンドちゃいます。まぁヒットしたCMソングを中心に、在校生や父兄にも、バンド活動の良さを知ってもらいたいなーという魂胆はあります」

「おおー、なるほどね。初川君て見かけによらず、面白いことを考えてるんだね」


 オレってどんな見かけしてるんですかね?


「と言うか、いい加減『エレキは不良のやるもの』なんて(くっだ)らない考えを、このライブでブチ壊したいというのもあったり」


 そう、元はと言えば、玲華の音楽(バンド)仲間をなんとかしてやりたい、ってのが動機だったんだよな。

 そしてそんなオレのセリフを耳にして、三津木先輩が目を丸くしつつ破顔した。


「おおーいいねー。今まで肩身の狭かったエレキギターが、今日この中学校を発信源に、市民権を得る日になるかもね」

「やりましょう!」

「応ともさ!」


 ガシッ。


 初対面とは思えない、これは男同士の固い絆が生まれた瞬間の握手であった。


 そう言えば先輩もオレも高校を卒業した後。

 後輩に招かれ、定期演奏会の指導に来た際、本当にたまたま偶然廊下で出会い。


「おおっ!!」

「ああっ!?」


 二人同時にフリーズ。

 お互い一言の挨拶もできず、何故かそのままガッシリとハグをしたことがあった。あんな事って、今までの人生(※やり直し中の現在も含む)の中で、あれが最初で最後だったなぁ。


 ─────もっとも、たまたまその様子を見かけた後輩女子から、


「とても美しいものを見させて頂きました……」


と、何故か頬を赤く染めて言われたのも、今となってはまぁ、うん、良い思い出だよ。


 全員の挨拶も済んだ所で、オレ達の様子を笑顔で見つめていた長谷川先生が、玲華に話しかける。


「初川ちゃんの親戚の子、頼りになるわねぇ」

「そりゃアチキの嫁ですから!」


 おい玲華コラ。


「先生は今日初めて会うんだけど、どういう男の子なの?」

「そうですねー、アチキにとってはお釈迦様以上の存在ですかな」

「え?」


 は? いやオレそんなに出来た人間じゃ無いぞ。


(ほほう、これは(わし)の後を継ぐのに相応しい、ということになるやも知れぬな)

(あ、オオトモ様、お久しぶりです)

(どうじゃ、この世界で天寿を全うしたら、儂の代わりにこの土地を治めてみぬか?)

(超絶大変そうなので辞退させていただきたく)

(そっかー)


 いや何ガッカリした風なんですか。恐れ多すぎて普通に無理ですよ。


 そして気づけば得意満面、玲華がドヤ顔で語り出した。


「えーと、芥川龍之介の『蜘蛛(くも)の糸』ってお話があるじゃないですか」

「ええ」

「天上から糸を垂らしてくれるだけじゃなく、アチキ”だけ”をしっかり抱きかかえて、そのままえいやっ! と救ってくれたと言う、もう神様仏様トオルサマって感じです!」

「そうなの」


 長谷川先生が目を細くして微笑んでいる。先生の体型と今の話も相まって、なんだかアルカイックスマイルをライブで見ている気分だ。

 きっと玲華のことを、普段から気に掛けてくれていたのだろう。いま目の前で生き生きと語る玲華を、とても嬉しそうに見つめていた。ありがたいことです。


「ふうん、一応地獄行きの自覚はあったのかぁ、うふ、うふふふふふ」


 ─────それはいいが「だけ」の部分を強調するなよ。何故か山口が妙な反応してるじゃないか。


「さあ、じゃ皆んな集まったところで、一回ぐらいリハーサルをしておいてね。流石にぶっつけ本番で上手くいくとは思わないでしょ?」

「そうですね。じゃいっちょ()りますか」

「「はい!」」


 長谷川先生に連れられ、まだ誰もいない体育館兼講堂のステージに移動したオレ達。


 三津木先輩のリードの(もと)、これが初顔合わせとは到底思えない、見事なリハーサルとなったのは言うまでも無い。

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