十一月・4
なんだかんだで昼ご飯がまだだったため、オレと玲華は駅前デパートのレストランフロアを目指した。生前(?)では、既に建物ごと解体されてしまった場所だ。
うーむ、この景気の良かった頃にまた立ち会えて、なんだか無性に嬉しい。当時はみんな生活になんの不安も無く(かと言って、決して裕福でも無かったが)、キラキラした前向きな時間を過ごせていたんだよな。
バブル景気なんておかしな現象は、まだかけらも見当たらない。
子供らが子供らしく過ごせていたこの時代を、一体なんと呼べばいいのかね。
オレは玲華にリクエストを聞くと、迷わず地下階へと向かった。
たどり着いたのは、ゾウのアイコンで有名な某ハンバーガー店。一時は撤退に次ぐ撤退で、正直潰れるかもと思ったが、社長が替わって経営方針も大幅に転換し、新規店舗を出せるようにまでなるなど、経済新聞などでも一躍有名になったチェーン店だ。
高校時代のクラスメートにもなかなかの評判で、時々は皆んなと一緒に食べに来ていたなぁ。コロッケバーガーとコーラフロートの組み合わせが鉄板だったんだよ。何もかも懐かしい……。
「トーちゃん? どしたー?」
「あ、え?」
「何だか妙に感動してるっぽいので、ちょっと聞いてみたんじゃよー」
「や、こうして玲華と二人っきりで外食するのって、実は初めてなんだなぁと」
思ってもいないセリフが口をついて出た。考えなしの時に限って、滑らかに回るのがオレの口である。
多分こういう所なんだろうな……。
「と、とととトーちゃん!」
「ん?」
「それは不肖アチキが、トーちゃんの”初めて”を一つ奪ったということでっ」
「チョップ」
「あいたー!?」
公共の場でトンデモ発言を始めた女子を、速やかに無力化するの図。
「毎度毎度、学習せんやっちゃなぁ」
「思ったことはすぐ言葉にしないと、なんか勿体なくてー」
「気持ちは分かるが、時と場所は選べっつーの」
「ほいほーい」
何を喋れるかが「知性」、何を喋らないかが「品性」って、はて誰が言ってたんだっけな?
つかお前、全然分かってないだろ。
「もいっちょいっとくー?」
「うわおぅ」
今度はよけられた、と言うかそろそろ周りに迷惑だから、おとなしく列に並ぶよう指示をする。
何というか玲華は、オレとのこういう下らないやり取りも単純に楽しいようで、放っておくと延々と続いてしまうのだ。
うん、若さはバカさ。あと少しで、周囲からバカップル認定されるような気がしないでもない。
実はただの遠い親戚だと言うのに。
─────ふと、このあいだの松元のセリフが頭をよぎる。
『完全に他人じゃん!?』
うーん、オレはそうは思えなかったし、今もそんな雰囲気にはならんのだが、これはオレが中身オッサンだってのも関係あるんだろうしなぁ。
翻って玲華的には、オレってどんな対象なんだろう?
まぁ所詮は中学生、この年代の恋心なんてものは、一過性の精神錯乱みたいなものだからな。
……ってのは、流石に言いすぎか。
PTAの役員をしていた時、小学校から大学までずっと一緒で、最後はちゃんと結婚にまで至ったご夫婦の例も見てるしな。
「なーなートーちゃん、メニュー決まったー? アチキはねー」
気づけばオーダーできる番になっていた。
「まぁ人それぞれだよな」
「えー、アチキはトーちゃんと同じ物を所望するつもりなのだがー」
「……わかったわかった」
さっきまでの思考をどっかに追い払い、オレは数十年ぶりに”いつもの”鉄板メニューを頼んだ。
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「所で」
「なにー?」
二人してコロッケバーガーを食べ終わったタイミングで、ちょっと聞いてみることにした。
「そっちの先生が紹介してくれたギタリストさんて、どういった素性の人なんだ?」
「おー、よくぞ聞いてくれた! それが不思議な縁というかなんと言うか、話せば長くなるんじゃが」
「三秒で頼む」
「それはむーりー!」
「じゃあテンポ良く分かりやすく」
「ガッテンだ! アチキの学校の音楽のセンセの大学時代の同期の人が、トーちゃん所の先生でなー」
「のが多いな?」
ちょっとラップっぽくなってるのには感心するが。……ん?
いま何だか、聞き捨てならない発言が。
「スルーするー。えっと、ワタライセンセって言うの? 正確にはトーちゃんの所の先生からの紹介になるんじゃよ!」
「初耳なんだが」
「そりゃいま伝えたしー。アチキたちのイッコ上の男の人で、そのセンセのご近所の人だそうじゃよ」
「え? いやちょっと待って?」
フフンとドヤる玲華を見て、オレはまさかという思いを抱く。
渡会先生の家は、オレの中学の最寄り駅から二つ隣、ちょっと内地に入った所だったはず。
当時エレキギターなんてやってる人で、あの辺りに住居のある、一つ上の学年の男性と言えば……。
(ひょっとしなくても、三津木センパイ、か?)
うわ、オレが進学した高校でマンドリンクラブに所属し、裏の顔を隠したままで、しれっとコントラバスやってた人だ。
オレは吹奏楽部所属だったが、マンクラが定期演奏会で演奏する曲には木管や金管、それにもちろんパーカスも必要な場合があり、時々お手伝いに行っていたのだ。
三津木先輩とはその縁で知り合って以来、お互いすっかり意気投合。たまに先輩の家に呼ばれてレコード鑑賞なんかもさせてもらっていた間柄だ。
……パンクロックばかりだったけど。
先輩は高校最後の文化祭で「卒業までにこのバンドだけは絶対やっておきたい!」と、教師陣による事前審査を比較的おとなしめの曲ですり抜け、いざ本番では観客置いてきぼりのド派手なライブをやり遂げてしまったという、ある意味伝説となった人である。
ブタの生首とか投げなくて本当に良かったと、関係者全員が胸をなで下ろしたものだ。
そして実家は美容院である。きっと昔から、度会先生と顔を合わせる機会も多かっただろう。
なるほど、繋がった─────。真実はいつもひとつ!
オレが頭脳はオトナ、体は中学生の名探偵ぶりを脳内で発揮していると、玲華が不思議そうな顔でのぞき込んでくる。
「どしたのトーちゃん急に黙り込んで。コロッケでも詰まったー?」
「こんだけ呼吸が止まってたら、普通にチアノーゼだが」
「あ、ひょっとしてー」
「ん?」
「アチキがその男の人とオアツイ仲になったらイヤだなーとか、し、嫉妬してくれてたり?」
どうしてだか、ちょっぴりオドオドした上目遣いでこっちを見る。なんだこの可愛い生き物は。
そして何故だかふっと、今の今まで自分に懐いていた仔猫が、ふいっと他所サマの家でご飯を食べている様子が連想された。ふむん?
「む、そうかも」
考えなしの時に限って咄嗟に回るオレの口、いい加減なんとかしたい。
ピンポンパンポーン♪
最近はアチコチで鳴り響くため相手が絞り込めず、ほぼ気にならなくなっていたSE音である。
が、それが目の前の相手からだと理解してしまうと、ちょっと、うん、かなり照れるな。
普段の態度がアレなので、そういう気安さが前提のお付き合い(というかふざけっこ)とタカを括っていたが、そうか、以前から玲華は真剣だったのか。
ふと気づけば、何故か玲華さんが固まっておられる。あれ、誰か時間停止スイッチオンにした?
そのままの姿勢で、5、6、7秒─────。
いやちょっと心配になってきたぞ。
「あのー、れ、玲華サン?」
「……や」
「や?」
驚いたままの表情から一転。
玲華はクシャッと顔をゆがめると。
「やったー! れいかちゃん大勝利ー!!」
「んな」
大勝利ってお前、一体何が……。
あ。
ひょっとしなくても、山口と玲華の言ってる”勝負”って。
「トオル君、好きー、大好きー!」
「ちょ、だから公衆の面前でソレはやるなと言っただろーが!」
街の狩人の相棒よろしく、100tハンマーとか欲しくなるな。
─────その時だった。
「さっきからうるせーぞクソガキ共がぁ!」
声を荒げ、こちらに向き直った別テーブルの男が、突然玲華の後ろから迫ってきた。
あれ、なんだかこの顔、見覚えが?
「ああ!? なんでぇテメェラか、朝は朝で駅でもおんなじ事してやがって!」
あー、あのときの卑屈なしかめっ面のアンチャンか。
と言うか、コレちょっとマズイな。周囲のお客さん達は全員フリーズ、隣のテーブルの母親なんか、我が子を守るように抱きしめて、ちょっぴり涙目になってる。
「ええと、すいません」
「すいませんじゃねンだよゴルァ! ブチ殺すぞガキ共が! こないだフラれた俺への当てつけか、ンの野郎!」
知らんがな。
「あー、ごめんなさい、今後は気をつけますので」
言いつつ、オレはイスから立ち上がり、アンチャンの前に出て、深く頭を下げた。
玲華との間に割って入るのが主目的ではあるが、それより何より買ったばかりのギターに手を出されたら、という心配もあったからだ。こういう、一度激高してしまった人って、何をしでかすか分からんしな。
「ざっけんなガキが、昼間っからイチャついてんじゃねーよ! マジでむかつくわクソが!」
「え、でも夜にイチャついたら補導されますし」
「~~~~~~~~~~~!」
だからどうしてこんな時にも考え無しに回るんだオレの口!
おっと、そんな事を言っている場合じゃ無い。
怒り心頭なアンチャンの手が、ついに拳へとカタチを変え、近くにあったテーブルを割れんばかりに殴りつけた。母親の腕の中にいた子供が、火の付いたように泣き出した、いよいよヤバイか。
オレはアンチャンからひょいと視線をズラし、彼の後方へ焦点を合わせて手を振り、こう叫んだ。
「あっ、警備員さんコッチです!」
「!?」
「ふんっ!」
隙を見せたアンチャンの後方に回り込み、背後から飛びかかってそのまま羽交い締めにする。
「なッ、テメエ!」
……こんな時になんだが、羽交い締めというのは結構カンタンに抜け出られる方法があってな。
両手を上に伸ばして膝を折れば、下へスルスルと脱出できてしまうのだ。
当然このアンチャンもそうしようとしたんだが、オレは先手を打って相手の足に自分の足を絡ませてバランスを崩させ、そのまま前倒しにする。これなら抜けられる心配も無く、オレが手を離さなければ、このままずっと拘束が可能だ。
「ごめんなさい」
「言ってることとやってる事がちげぇ!? この手を外せやこの野郎!」
「ああいや、今のはアナタに言ったのでは無く」
「あ゛?」
オレは泣きじゃくっている子供とその母親へ声を掛けた。
「美味しい物を食べに来たのに、オジサンのせいで泣いちゃったね、ゴメンね」
「テメェいい度胸じゃねぇかガキ、俺が全部悪いってか、ああ!?」
あ、いけね。今の”オジサン”ってのは自分を差しての発言だったんだけど、オレいま中学生やってるんだった。
「お母さんも、ホントごめんなさいです」
「俺を無視してんじゃねぇー!?」
藻掻きまくるアンチャンだったが、うつ伏せの状態の羽交い締めが、簡単に外れる訳もなく。……ええいジタバタと鬱陶しい。このまま力を込めて、両肩の骨を脱臼させてやろうかな。
支点・力点・作用点~♪ もっしもっし亀よー亀さんよ~♪
そんな状態がしばらく続き。
最終的には、この様子を最初から見ていた店員さんが110番通報、結局アンチャンは駆けつけた警官に、そのまま別の場所へ連れて行かれた。
その後。
オレの服の裾を握りしめたまま泣きじゃくり、会話の出来る状態ではなくなってしまった玲華。
そんな彼女を見て、可哀想だと思ってくれたのもあったのだろう。
おっとり刀で駆けつけた警官との事情聴取中、オレ達は周囲のお客さんからの、
「この子は一切の暴力行為はしていない」
「暴れる寸前の男を、ケガすらさせることなく取り押さえただけ」
「被害者はこの子達で正当防衛だ」
という、誠にありがたい証言のお陰で、「以後は気をつけるように」と、軽めの説教を頂戴したものの、お咎めもなく無事解放されたのだった。
うむ、やはり「○ム○ムだったらうまくいく」んだな。
言ってる場合か。
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「ごめんね……」
「ん?」
デパートの階段室に入ったところで、玲華はオレに向かって呟いた。
なんで階段かと言うと、人の目が少なく落ち着ける場所が必要だと思ったからだ。
泣いてる女の子の顔を衆目に晒すなんて、絶対にやっちゃ駄目だしな。
「アチ、あ、あたしのせいであんな事になっちゃって、……うっ、ぐすっ」
「あーもう、終わったことだし気にするなー、って、言う方が無理か」
「ふぇーん……」
「よしよし、怖かったよな」
正面から抱きしめて、頭をゆっくりと撫でてやる。ギターを背負っているので、背中ポンポンは今回なしだ。
その分、腕を回してギターごとハグしてやる。……このオートスキル『よしよしだいじょーぶだよーもうなかないでねーいいこいいこ』は、相手の年齢を考慮しないと、また山口からグーパンを喰らうな。
明日以降、十分に気をつけることにしよう。
「トオル君」
「ん?」
「あのね」
「うん」
そこで玲華がこちらを見上げた。
「もう二度と、ああいう無茶なことは、しないで欲しいのね」
「そんな訳にいくか。そもそも玲華に何かあったら、オレの方が正気を保てないぞ」
「だって、好きな人に、ケガして欲しくないもん……」
「意見が合ったな、何よりだ」
「……ふえっ」
「それに昔から言うだろ、『無理が主観で無茶は客観』って。最終的にどう判断してどう動くか、決めるのはオレだよ」
オレから離れた玲華が、呼吸を止めて1秒。
真剣な声音でオレに囁く。
「トオル君」
「うん?」
「愛、して、ます」
「……っ、そうか、ありがとう」
弱い、弱すぎるぞオレ。子供からの告白に、なにしどろもどろになってんだ。
そして陳腐なセリフで返してしまったオレに、玲華が恐る恐ると言った感じで続けた。
「と、トオル君は?」
「うん、玲華の気持ちは素直に嬉しい」
「え、じゃ、じゃあ」
うーん、期待させておいて悪いとは思うんだが。
「すまない、実は女子とのちゃんとした交際なんて、は、初めてだし、正直とまどいの方が大きい、って言うのが、本音と言えば本音だ」
「……ふふっ、そうなんだー」
「なので一旦、保留というカタチでお願いしたいんだけど、い、いいかな?」
なんだか情けないなぁオレ。元妻帯者だってのに。
多分オレ、女性という存在を一生理解できないまま、この世界でも生涯を閉じるかもな。
「あー、なんなら一発ぶん殴ってくれてもいいぞ。我ながらひどいヤツだって自覚はあるし」
「そんなことしないよー、むしろ安心しちゃったしー」
「?」
玲華は涙を流しながらも、満面の笑みで。
「トオル君の色んな初めて……に、なれるチャンス、まだまだいっぱいありそうだなって」
「あーその、なんだ、うん。……焦らずゆっくりで頼む」
ポケットからハンカチを取り出して、新しい涙を拭ってやる。そうだな、今は一旦、差出人不明のチョコレート事件は置いておこう。
相手からの真摯な言葉を受けておきながら、別の存在を頭の片隅に残したままでは失礼だしな。
「じゃあさ、一個お願いしてもいーい?」
「可能なことならなんなりと」
「ぐっちーから、今日はトオル君を自由にして良いってお墨付きも出てるみたいだし、折角だから」
え、何されるんだよ、ちょっと怖いんだが。やっぱりグーパン?
「階段をね、一つだけ、降りて欲しいんだー」
「うん?」
そんな事でいいのか? よく分からんが素直に応じることにはする。
「そしたらそのまま、こっちにふり向いてみて」
「こうか?」
─────玲華の顔が正面にあった。
「やっと、同じ高さに、なれた」
「────」
言葉が続くことは無かった。
あの夏の日の、軽く触れるだけのお遊びみたいなキスではなく。
ちょっと前歯をぶつけたものの、それはまだ幼く、その分純粋で、真っ直ぐで、必死ささえ伝わってくる、それは大切な大切な”儀式”だった。
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「えへ」
「……」
駅までの道をたどりつつ、隣で腕を組んでいる玲華がへらっと笑う。
「なんだよー、アチ、あ、あたしだけが恥ずかしいみたいじゃんかー」
「くっ、言葉にするなよ、オレだって恥ずかしいんだ」
「わーい、おんなじー♡」
「あと、いつも通り『アチキ』でいいぞ」
「このやろー、あんな物言い、照れ隠しだったっていーかげん気付けよー」
そんな理由で、あんな芝居がかった物言いをしてたのか。ある意味黒歴史だな。
「その割に根っこの部分はあまり変わってないようだが」
「うーん、最初のキャラ設定間違えたー、もうこれで押し通すー」
まだぶつぶつと呟いてる玲華の手を取る。
「そろそろ電車に乗る時刻ですぞ、お嬢様」
「セバスちゃーん!」
よしよし、いつものノリが戻ってきたな。
大分凹んでいたようだったし、場合によっては玲華の家の最寄り駅まで送っていくつもりだったんだが、これなら電車に一人で乗せても大丈夫そうだ。
前以上にしっかりと手を繋ぎ、駅の改札まで来た所で。
「あっ、今朝のアベックさんだ」
「カノジョさんギター女子なんだ、かっこいいー」
「カレシさんもバンドの人なのかなぁ」
「ちょっとうらやましいねー」
朝に見かけた同学年っぽい女子達だった。あの、も、もう少しボリュームを下げてくれると助かるんだが。
「あれっ、なんか雰囲気が朝と違わない?」
「ほんとだ、言われてみれば」
「なんとなくシットリしているような」
うーん、女子ってこういうのに敏感だよなぁ。一体どんな感知器を搭載してるんだろ。……とか感心している場合か。玲華もデレデレしてる場合じゃないぞ、全く。
決して自慢するつもりじゃなく、オレには交際した女性が3人いたんだが、その全員が一人の例外も無く、両思いになった途端、やたらとベタベタ甘えてきたのには参った。
いつだったかも、夜の渋谷でキスをせがまれ仕方なく応じた所、通りすがりの若い衆にバッチリと見られてしまい、
『いーなー、ボクタチにも愛を分けて欲しいなー』
と、半ばからかわれつつ羨ましがられた事がある。
人前では必要以上のベタつき禁止。サラッサラのサラサー○ィーで行きたい。
「あー、あれはヤッたね」
「「キャー!」」
───どうかお年頃である余所様のお子さんに、悪影響だけは及ぼしません様に。
カシャシャシャシャシャシャ!
そして朝もいた一眼レフの人が、何故かモードラ全開でシャッターを切っている。なんだこの駅、特異点か? ああもう、好きにしてくれ。
気づけば玲華が、オレの袖をくいくいと引っ張っている。それも妙にウットリとした瞳で、だ。
「ねー、トーちゃあん」
「……やるなよ? 絶対にやるなよ?」
「なんでだー。もうせっかくだし、全方位に見せつけたい気分なのにー」
「またあのアンチャンみたいなのが出たらどうする」
「ううっ、それを言われると」
そしてこれも朝と同じ駅員の生暖かい視線を避けつつ、改札を抜けてホームへ。
「ねー」
「ダメだっての」
「うわーん、こんちくしょー」
この駅が始発となる車両の席へと玲華を押し込み、ようやく一息ついた。
平日なら混むであろう時間帯だが、今日は土曜日、ガラガラだ。出発までの間、一緒に座って話をする。
「玲華もそうだけど、ギターが無事で良かったよ」
「だねー。ああっ、グレカーレちゃんっ、キミも愛してるよー!」
「ああそうだ、当日オレと山口は、駅に着いたらどうすれば?」
「それは心配なっしんぐー、音楽の先生が車を出してくれるって」
「そりゃ助かる、何せそっち方面は行ったことも無いし、土地勘も無いからな」
発車までの間、当日の打ち合わせも一通りした事だし、本日はお開きとしますか。
別れを惜しむ玲華に窓の外から手を振って、オレも自分の帰路についた。
さあて、それまでは猛特訓だな。ちと頑張るとするか。




