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バレンタイン×バタフライ  作者: 新田猫レ
48/71

十一月・3

「好き!!」(挨拶)

「チョップ」(返事)


 ゲシッ!


「あいたー!?」


 約束の土曜日。

 ローカル線を降り、改札を抜けた所でこれである。


「なんでさトーちゃん!」

「いやお前がなんでだよ」


 会って早々ささやく程度ならまだしも、全身に炎をまとう勢いで愛を叫んだ上に、がっぷり抱きついてくんじゃねぇ、一体どこの道成寺だ。つか周囲をよく見てみろ。

 ニヨニヨ顔のご夫婦や、「キャー!」とか感動してるっぽい同年代らしき女子の集団。

 「ケッ」と卑屈なしかめっ面で背中を向ける男性に、何故か一眼レフをこちらに向けている────


 オイ何勝手に写真撮ってんだ、やめろ下さいお願いします


─────など、ちょっと所の騒ぎじゃ無く、注目集めすぎだバカ者。


「つーかなんで駅にいるんだよ、待ち合わせ場所ここじゃなかっただろ」

「だって二ヶ月ぶりなんだもん、ちょっとばかり早く会って、先につまみ食いしたっていいじゃんかー。そのために待ち伏せたのじゃよー」

「いったいオレから何を補給してんだお前は」


 あとちょっぴり涙目&上目遣いで下から見上げんな、あざと可愛いだろ!


「ねー、所で今日はぐっちーは?」

「ああ、一応誘ったんだけどな」

「うむ?」

「『今とーっても気分がいいから、今日はトオル君を自由にして良い権利をやろう、ふっふっふ』とか、訳の分からん事を言って辞退したが」

「それって……?」


 本当に謎すぎる。オレの所有権や監督権は、誰の手中にあると言うのか。


「勝者の余裕ってヤツじゃないデスかー、ヤダヤダー!」

「だから何故抱きつく!?」

「増量ポイントもまとめて補填中ー!」

「ええい、ドサクサ紛れにまさぐるな、あと匂いを嗅ぐな!」

「何があったんだよー教えろよー!」

「いやお前らこそ何があったんだよ!」


「お客様ー?」


 声に気づくと駅員さんが側に立って、ニコニコしながらこちらを見下ろしている。


「他のお客様のご迷惑になりますので、そういった行為はここではご遠慮下さい」


 あ、コレ笑顔で切れてますわ。竹○直人さんの芸みたいだ、器用だな。


「あっすいません、今叩き出しますから」

「トーちゃんひどくない!?」

「ええい、とっととブツを回収しに行くぞ」

「アチキのグレちゃんを怪しい粉みたいに言うなー!」


 うるさい二人を遠巻きに見ていた観客達は、そこでようやく散ってくれた。

 いやもうホントすいません……。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 二ヶ月ぶりとなる「ホットスペース」に到着すると、店長がやはりニヨニヨしながら待ち構えていた。

 うう、妙に照れくさいのはなんでだ。


「お、来たねモテ男くん」

「店長にだけは言われたくないですねぇ」

「あははは、まぁそんな事より玲華ちゃん、お目当ての物、早速弾いてみるかい?」

「それはもう!」

「ベースはちょっとクセがあるから、触りだけでも教えておくよ」


 て事で、店長は玲華につきっきりで色んなアドバイスをし始めた。玲華も元々筋がいいので、店長の教えをバンバンと吸収している。

 なんかこういうのっていいなぁ。音楽は年齢も性別も、そして国籍だって超えられる共通の言語みたいなものだし。


 オレも自分の子に、何か楽器を教えてあげられれば良かったんだがなぁ。

 あの子は小学生の時に左手の小指を粉砕骨折してしまい、なんとかくっつきはした物の、第一関節から先が固着してしまって、自由に曲げられなくなったのだ。


 故にギターのような楽器は物理的に不可。

 ドラムも家でスティックと練習台でやらせてみたが、やはり骨折した側の手のぎこちなさは取れなかった。


 世の楽器演奏者さんや絵を描いてる人達は、指や手のケガにだけは十二分に注意して欲しいと切に願うよ。




 やがて「即席・ベースの弾き方講座」の時間も終わる頃─────。


「トーちゃん、この子に名前をつけて欲しいんだけど」


 玲華が突然言い出した。


「名前?」

「うん。そうすればアチキ、この子をトーちゃんとの間に出来た我が子のように、末永く可愛がってあげられそうなのだが、ど、どうでしょーか?」

「発想がちょっとアレな点は一旦置くとして、名前ねぇ」

「アレっていうなよー、真剣にお願いするよー」

「うーん」


 グレコか。スペルは"Greco"だよな。グレ子? いやそれだと積み木を崩しかねんな。うーん……。


 あ。


Grecale(グレカーレ)……」

「グレカーレ? なんて意味ー?」


 玲華が、聞いたことの無い名前を耳にして、もうワクテカしている。


「イタリア語で『北東の風』って意味だったと思う」

「おお、イタリア!」


 いつもいつもつむじ風(※時々強風)みたいな玲華を見て、ピッタリだなぁとか思ってしまった。あと生前(?)に、これくしょんしていた擬人化艦隊の娘っ子からというのもある。


「グレカーレ……。ふむふむ、可愛いグレちゃんの名付け親がアチキのカレシって、ダブルミーニングとも言えるな? ふひひ」


 ……なんか怖いなこの子。


「チョー気に入ったー、グレカーレちゃん、これからよろしくねー! あとありがとートーちゃん! 大好きー! 」


 ぐはっ。


 耳元で囁かれる「愛しています」より、どストレートにぶつけられる「好き」って言葉は、なんかこう破壊力抜群だな。ひょっとして熊をも一撃ではないだろうか。


 うん、何言ってんだオレ。


「折角だし、お祝いになんかプレゼントしてやるよ」

「えーっ、いいの!?」

「つっても安い物ならって条件だが」

「まぁそこはお互い中学生ですし? でも嬉しいなー、何がいいかなー」

「とは言えお前、もうチューニング用の音叉だのストラップだのは一通り持ってるんだよな?」

「まーそうだねー」


 ふむ、ならば。


「店長から、『これは買っとけ』みたいなオススメとかあります?」


 近くでまぶしい物でも見ていたかのような店長に、いきなり話題を振ってやった。


「えー、そんな野暮はしたくないんだけどな。とは言えそうだね、必需品なのにお手頃価格な物と言えば」

「言えば?」

「やっぱりピックだね」

「なるほど、で、どうする? ピックがプレゼントってことでいいか?」


 そこで玲華は満面の笑みで。


「うん! もうトーちゃんからのプレゼントだったらなんでも嬉しい!」


 あー、これは勝てないわ、諸手を挙げて降参だわ。

 なので生前(?)では、動物愛護の関係から貴重品となってしまい入手不可能となった、べっこうのピックを奮発してやることにした。

 店長からはソフトケースもロハでいただいてしまい、玲華はこれ以上ないってほどに上機嫌である。

 流石に申し訳なかったので、オレは自分用にPaisteのスティックを買うことにした。スティックはメジャーなヒッコリーではなく、軽さとバランスのよいメイプルのやつだ。




 店を出てからの玲華はオレの手を強く握ったまま離さず、これ以降はこのまま遊び倒すことにするそうな。


 仕方ない、今日は一日、玲華の好きにさせてあげよう。

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