十一月・1
─────順を追って話そう。まず体育祭だが、ハプニングの連続だった。
借り物競走では、青野が『一番仲のいい異性』と書かれた用紙を持ってくるなり、同級生の目前へ見せつけるように突き出して場を凍らせ、結果嫌がるオレを引きずってトップでゴール。
個人種目では松元と二人、走り高跳びと幅跳びで参加。両種目ともに全学年ぶっちぎりで優勝と放送された瞬間、舞い上がっちゃったっぽい松元から強烈なハグをされ。
応援合戦では、山口の強力なプッシュでスネアドラムをあてがわれ、演奏を披露するたびに全校生徒から拍手喝采されて恥ずかしい思いをした。
うむ、同級生どころじゃなく、上級生・下級生はおろか、集まった父兄達の前でさらし者にされた気分である。
おはようございます、もう帰っていいですか?
そして地区合唱コンクール。
課題曲の『モルダウの流れ』を、度会先生が「他校と一緒じゃ面白くないでしょ?」と、ニッコリ笑顔で勧めてきた別バージョンの歌詞と構成で歌った事で大評判。お陰で優勝をかっさらい、めでたしめでたしと相成った。
更に付け加えると、体育祭で使ったスネアを返却しに音楽予備室へ行ったら、度会先生からどこで習ったのかと散々聞かれ、小学校で鼓笛隊をやってましたが、後は独学ですと答えたら、めちゃくちゃ頭を撫でられた。
ウソです、自分トランペットだったので、ドラムは触ったことすらありませんゴメンナサイ。
いやぁ濃い時間だった。思い返すだけで疲れがドッと出るわ。
─────そして現在。
帰宅した部屋の机には、丸っこい文字で書かれたピンクの封筒が一つ置かれていた。
差出人は見なくても分かる、玲華からだ。なになに?
『トオル君へ、この間はありがとう、とーっても楽しかった、好き!』
よしよし、それは何よりだ。最後のだけはスルーさせてもらうが。
『そっちの学校は今月半ばに文化祭でしょ? ところがアチキの学校はねー、インフルエンザがはやっちゃった関係で、文化祭が一週間延期になってしまったんじゃよー』
そうなのか、そりゃ残念だったな。
『つきましては学校側に許可を取り、トオル君とぐっちーを招いてのステージ演奏を承諾させたことを、ここにご報告いたします』
─────────。
───────。
───はい?
『アチキは感動のしつこい子なので、また楽しく演りたいなーと思ってるって寸法さね』
いや、オレも山口も完全に部外者なんだが、いいのかそれ……。
『そこは気にしなくて大丈夫ー!』
いやなんで会話出来てるんだよ、こえーよ!
いま手にしてる便箋が液タブじゃないかって一瞬思っちゃっただろ。
『実は音楽の先生に思い切って相談したら、他校との交流にもなるからって超オススメされたのと、なんとその先生が、ギターめちゃうまな人を紹介してくれたのだよワトソン君』
ほほう、そりゃ良かった。実はあの後も玲華の交友関係を心配してはいたんだが、これなら大丈夫そうだな。
ホッと胸をなで下ろして便箋をめくると、文化祭の日付とステージの時間帯、ドラムセットとシンセの準備は玲華の方で手配済みである事、最後に歌手名と曲のリストが書かれている。と言うか、曲自体はこの間の3曲と同じだが、一応アンコール用にと更に1曲が追加されていた。
『アチキは今回ベーシストとしての参加になるのであしからず。なのでトオル君、ホットスペースさんに発注しといたベースを取りに行くから、明後日つき合ってほしいのだ。待ち合わせはお店に11時でお願いします、よろしくね♡』
……いつの間に。つかお前、郵便物に「明後日」ってのはどうなんだオイ。
いやまぁ確かに土曜日だから分かりやすいとは思うが。
『追伸:なお、この便せんは自動的に消滅する』
するかー! つかお前もあの名作見てるんかーい!
手紙相手に一人でツッコむこの徒労感たるや。まぁ元気でやってるのは伝わったし、そこは何よりだけどな。
再度手紙を読み返すうち、ふと気づけば頬が緩んでいる自分がいた。生前(?)じゃ考えられなかったアクティブさで、周囲が動いている。
来年のバレンタインの話は後回しにして、今は与えられた機会を存分にエンジョイするとしよう。
さて、じゃ山口には今回の件と併せて、増えた曲の予習でもしてもらおうか。オレは自分で思っているほど、世捨て人にはなっていなかった様だ。
「萎えた男も意思を持て、ってか」
いそいそと、そしてどこか浮かれた気分で、オレは指定された曲の耳コピ&簡易な譜面起こしの作業に取りかかったのだった。




