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バレンタイン×バタフライ  作者: 新田猫レ
42/71

十月・2

「やー、待たせてゴメンね」

「ああ、うん」


 約束の土曜日、午後6時、ローカル駅舎の駐輪場。

 なんとなく落ち着かない気分とは裏腹に、今日のこの時間を楽しみにしている自分に気がついた。

 もしも自分が何事にもめげず、あのバレンタイン以降も淡々としていたら、そして松元たちともっともっと話が出来ていたら、また違っていたかも知れない、そう思えるようになっていたからだ。


 それに生前(?)だと、松元は女子校に進学したため、同じ通学列車に乗っていたにも関わらず、全くと言って良いほど接点が無くなってしまった経緯がある。

 そして前にも話したが、卒業式で好意的な弄りをしてきた心情の、その本音を垣間見るチャンスだな、とも。


「所で今日はどういった用件なんだ?」

「それは着いてからのお楽しみだよ」

「いや、親御さんとか兄弟さんに会う心の準備がな」

「大丈夫」


 そこで松元はこっちを向いて破顔した。


「今日は家に私一人だから!」

「うぇいうぇいうぇい!」

「?」


 ”待て”というつもりが、ただのパリピになってしまった。

 つか、えぇ、何でこんなに朗らかな顔で、不純異性交遊疑惑満載(ふしだら)なシチュエーションを構築しちゃった訳?


「おま、自分のやってることの意味が分かって」

「まぁまぁ」


 あ、これちゃんと分かってて言ってるっぽい。妙に高揚した、それでいてどことなく恥ずかしげな表情が見て取れる。

 いや、単にからかわれているだけという可能性もあるが。


 うーむ仕方ない、ここまで来たんだ。

 毒を食らわば皿まで完食とも言うし、乗りかかった泥船とも言うし、とにかくなんだその。


 そんな子供(おとな)、修正してやる!


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「ただいまー、さー入って入って」

「お、おう」


 実はドッキリで、待ち構えていた親兄弟が一斉に吶喊してくる───とかは無かった。本当に家には誰もいないようだ。


「ウソなんてついてないでしょ? ほんとに誰もいないってば」

「親兄弟はどうしたんだ?」

「今日は全員、長野のおじいちゃんちに出かけてる」

「なんで?」

「お父さん仕事が忙しくて、先月お墓参りに行けなかったから」

「松元はどうやって墓参り行きを断ったんだ」

「受験勉強したいからってウソついた」

「てことは」

「今夜は二人きりってことだね」


 まぁ別にいいか。もしもそんな状況になったら、怒ったフリをして帰るだけだし。


「取り敢えずそこの椅子に座ってよ」

「はー、分かった分かった」


 台所らしい部屋に引っ込んだ松元から促される。

 俺はダイニングテーブルに並んでいるイスの一つに腰掛け、……おや?


「なぁ」

「なに?」

「松元の家って親と、あと兄貴が3人だっけ?」

「そうだよ」

「イスの数たりなくないか?」

「ああ、うん、私のお母さんとっくに亡くなってるから」


 あ。


「なんか、ゴメン」

「いいよいいよ、私が生まれてすぐのことだし」


 こういう所が不躾だよなと自分で思う。

 そしてちょっと気まずい時間が流れた後。


「はい、どうぞ召し上がれ」


 次々運ばれてくる松元の手料理で、ちょっとした晩餐が始まった。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「おお、このハンバーグ美味しいな」

「そりゃもう、ちょっと味に一工夫してみたんだ」

「へぇ、どんな?」

「教えなーい」


 どうやら青野の家の一件以来、松元もちょっとマジメに料理に取り組んでいると言う。母親不在の家庭であれば、家族全員でローテーションするとは言え、料理当番になる機会も多かろう。

 その成果があったのか、最近では家族からも好評のようだった。


 食事を終え、二人並んで食器洗いと片付けをしていると、松元が小声で何か呟いた。


「ふふ、これでまず一つ、夢が叶っちゃったな」

「夢?」

「あっ、何でもない何でもない」


 ────また青春ポイントがどうとか言い出さないだろうな?


 さて、腹も膨れたことだし、次は何をするのかね?


「じゃあさ、ちょっと勉強教えてよ」

「それはいいが、一体どういう風の吹き回しだ?」

「はぁー」

「なんだよ」

「『風の吹き回し』なんて言い方、ホントにする人いるんだなって」

「いるさっ、ここに一人なっ!!」


 ありもしない左腕の仕込み銃が疼くんだぜ。


「で、何の教科をやるんだ?」

「保健体育! ……やだ、ちょっと、引かないでよ」

「えぇー」

「いやあの、ホント大真面目に勉強しないと困るんだってば! 教えてくれないと、今夜は帰さないからね!」


 オレの女友達が大真面目過ぎるしょびっちな件。

 そろそろ全員集合の時間なんだが、うーん仕方ない、座学だけなら面倒見るとするか。


 俺は家に電話をかけ、今夜は友達の家に泊まるかも知れないと告げた。

 これ後日、親同士でお礼の品のやり取りになりかねんな。うまくごまかさねば。


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