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バレンタイン×バタフライ  作者: 新田猫レ
41/71

十月・1

「─────空が高くなったなぁ」


 放課後。

 グラウンドの端にある走り高跳びの練習場。

 マットの上に仰向けになった俺は、視界いっぱいに映る青を見ながら、そう独りごちた。


「そうだねー」


 隣で同じようにバテている松元も、たったいま気づいたかのように返事をする。


 この時間、関先生が職員室に行くことは、部員みんなが知っている。

 吉田がいなくなりテニスコートからの監視の目も消え、また先日行われた陸上の県大会も終わった事もあってか、グラウンド全体に何となくダラけた雰囲気が漂っていた。


 加えてテニス部新顧問の度会先生も、運動系の部活は全くの畑違いであり、生徒の自主性に任せきりでグラウンドにはめったに顔を出さないし。

 更に言えば、ここ最近の体育の授業は男女合同で、今月中旬に実施される体育祭の練習ばかりでゲンナリしていると言うのも本音。何が楽しいんだよ組み体操とか。


 でも見に来ている父兄の前でビシッと決まった瞬間は、正直誇らしい気分になったものだよ。

 本番まで一緒に組んだ相方が失敗続きだった「帆掛け船」が、何故か体育祭当日になって成功した事を思い出す。

 アイツ、後で嬉し泣きしてたんだよな、かわいいやっちゃ。


 そんなことを思い出しながら、松元の方を見ずに話を再開する。


「県大会の記録は二人とも3位、まぁまぁの成績だったしな」

「だね、ちょーっとぐらい息抜きしてもいいよね」


 息抜きすぎでは? と一瞬思ったものの、まぁ個人的にもやるだけやった感はあったので、それは素直にうなずいておこう。


「関先生も満足してたしね?」

「そりゃほったらかしっぱなしの生徒がそこそこ頑張ったんだ。流石に自分の手柄とは言わんだろうし、賞賛ぐらいはしてくれるだろ」


 お陰でますますほったらかしになりそうではあるが。

 視界を埋める空に、浮浪雲(はぐれぐも)がほけーっと流れていった。


「所で初川さぁ」

「ん?」


 見てはいないが、松元が首だけこちらに向けたのは分かった。


「また新しい女の子のハートを掴んじゃったって聞いたけど、本当?」

「んがくっく」


 日曜日の終了を告げる、ドーナツ丸呑み若人妻みたいな声が出た。


「なんだそれ」

「ぐっちゃんに聞いたよ、『アイツまたカノジョ候補を一人増やしてた』って」


 ……山口、お前あとで覚悟しとけよ?


「こないだ正門の所で『お弁当作ってきた』って言ってた子でしょ」

「最初に断っとくが、めっちゃ誤解だ」

「言い切るんだ?」

「あのな、山口からちゃんと聞いたか? ありゃ遠い親戚だって」

「ミキちゃんの従姉とは聞いたけど、どのぐらい遠いの?」

「実はミキちゃんち自体が300年前の分家筋なんだが」


 そこで松本はうーむ? と考え込み、次の瞬間ハッとした顔になった。


「完全に他人じゃん!?」


 そうとも言う。が、どうにもこの辺の意識の差は、如何ともしがたいものがあるな。

 まぁ中身オッサンの自分からしたら、君ら全員よその家のお子さまって立ち位置なんだけど。


「つーか、女性と付き合うってどういう事なのか、未知の世界すぎて正直分からん、というのが本音なんだよな」

「へ?」

「あ」


 ……ついうっかり言ってしまった。

 既婚者で子育て経験もありながら、女性との距離感とか全然分からない、と言うか未だに謎。

 ひょっとしたら俺、元カミさんのことも『性別上は女だと言うだけの、一個人としての人間扱いをしていたのかも知れない』と、ふと思った。

 いや、男女平等パンチとかは流石に無かったが。


「そりゃ私もそうだけどさー。はーあ、ちょっと心配になってきた」

「何がだよ」

「本人の自覚の無さのことだよ、分かってないの?」

「はっはっはー、松元はいつからオレの母親になったんだ」


 俺は笑いながら混ぜっ返す、と。


「そのポジションだけはヤだな」


 真面目な顔で即答された。あ、これちょっと怒らせたかも知れない。


「悪い悪い、年頃の娘さんに向かって言うセリフじゃなかった」

「ぷふっ、それどこから目線なの」


 お父さん目線です。機嫌も直った様だし、ちょっと謝罪しとくか。


「お詫びに、出来ることなら何でもするよ」

「────ん? いま『なんでも』って?」


 所詮は中学生、大した要件なんて思いつかんし、押しつけてもこないだろう。


「じゃあ家に招待するから、今度の土曜にうちにきてくれる?」


 ────そう考えていた時期が、自分にもありました。


「それってどういう……」

「夕方の6時に駅で待ち合わせね、迎えに行くから」


 この年頃の娘さんが、同級生男子を家に招くその意味とは?

 うん、分からんな。


「待ってるからね!」


 そう言ってすっくと立ち上がると、松元はこっちを見ながら水飲み場の方に歩いて行く。え、いやちょっと待ってくれ、本気で訳が分からんのだが。

 思わず上半身を起こした途端、何故か松元は猛ダッシュ。


 ふと。

 梅雨の時期に青野が呟いたセリフが浮かぶ。


『ホラ、女子って男子より精神年齢が高いじゃん』


 ボフッと、改めてマットに仰向けになる。


(……だとしたら、相当なおませさんだな松元)


 やはり視界にはいっぱいの青。



 ああ、きょうはこんなにも


   そらが、きれい、だ────


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