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バレンタイン×バタフライ  作者: 新田猫レ
39/71

九月・5

「……んっ、と、トーちゃん、こんなに太くて固いなんて、きっ、聞いてないよ……」

「我慢しろ、オレにはコレしかないし、そういうもんだし」

「でもこれは、くっ、……はあっ」

「何事も経験だ、ほら早く」


 夏。

 扇風機しか無いオレの部屋。

 二人とも汗だくでなにをしてるのかと言うと。


「もー、フォークギターの弦ってなんでこんななんだよー!」

「仕方ないだろ、明日ぶっつけ本番でやれるのか? んんー?」

「そりゃそーかも知れないけどー、いやこれは予想外だったー」


 明日のバンド活動のため、帰宅してから軽く練習してみようって話になったんだが、玲華はアコギ初心者だと言う。逆に、俺はエレキギターって触ったこと無いんだけど、弦の質ってそんなに違うものなの?


「何もガッツリ弾けって訳じゃないし、運指の練習だけでいいから」

「分かってるよー。にしてもトーちゃんさー」

「ん?」

「ぐっちーって、こないだ一緒に寝た子なのー?」

「言い方ァ! あー、まぁ結果的にはなぁ」


 つか、既に友達呼びができるほどの仲になったの? お父さんそっちの方がビックリなんだけど。


「なんか見てて音楽的にも仲よさげっぽいけど、ぶっちゃけどう言った、か、カンケーな訳?」

「それなぁ、正直よく分からないんだよな」


 当時は同学年でギターなんて弾いてるのはオレぐらいだったし、楽器を家で個人的にやってるって意味で、どうも山口からは仲間意識を向けられていたっぽい。

 下手の横好きと笑わば笑え、何にでも挑戦したいお年頃だろ、中学生なんて。

 ある程度体も大きくなって、出来ることが増えるんだから。


「ほーっ、つまり恋愛感情は皆無だとー?」

「どちらかと言えば音楽仲間って感じだなぁ」

「ほーほーっ」

「そう言えば、いつかセッションしてみたいとか言われたな」

「ほっほーっ」

「さっきからなんだ、フクロウのマネか?」

「実はミミズクだがー?」


 うっさいわ。


「つか何の意図があるんだよ、いまの質問」

「いやー、トーちゃんはアチキの婿なのでー」

「長男だから無理です」

「じゃあ嫁でもいいぞー」

「ん? お前がコッチに来るのか?」

「いや、トーちゃんがアチキの嫁になれー」

「画期的すぎるわ!」

「そーだろー?」

「だが男だ」

「ぐぬー」


 こんなバカみたいな会話も懐かしいな。

 そう言えば当時はサラッと受け流していたが、玲華的には本気だったのかね?


「まぁ将来は誰にも分からんけども」

「ま゛っ!?」


 ジャイアント○ボみたいな声出た!?


「そそそそれは、前向きに検討してくださると受け取ってよろしいのデ、ありおりはべりいまそかり!?」

「壊れんな。だから分からんと言ってるだろ」

「ありがとー!」

「やめろ抱きつくな暑苦しい!」


 いきなり顔に胸を押しつけられ、柑橘系の香りに包まれた。

 おかしいな、記憶の中の玲華は、ここまでスキンシップの激しい子じゃなかったはずだが。

 強いてそれらしい記憶を掘り起こすなら、一本のジュースを回し飲みしたりする程度だったぞ。それも男友達みたいな気安さで。


 ────あ、ひょっとして。

 さっきも言ったが、エレキは不良のやるものだという世間の目が、まだちょこっと残っていた時代である。

 当時としては貴重な音楽仲間(兼男友達)を失いたくなかったから、なのかも。


 実際、高校に上がって玲華は軽音部、俺は吹奏楽部に入って話題もズレはじめ、お互い大学に行って地元を離れてから一気に疎遠になったし。

 視野狭窄とでも言うか、勘違いで夢中になることも、この年頃には多いしな。


 ……それはともかく。


「いい加減はなれろ、勘違いするだろ」

「アチキはホンキだけどなー」

「何がだ」

「つーん」


 つかお前、これフロントホックブラだろ、プラのパーツが当たって痛いんだよ。

 とか言っちゃうと流石にマズいよな? なんでそんな知識があるんだーってツッコまれそうだし。

 それにそろそろ引っぺがさないと、妙な雰囲気になりそうだ。


 ────その時。


「あー、おにーちゃんとれーかちゃんがなかよししてるー!」

「「!?」」


 ドバン! と部屋の扉を開け、勘違い一号(ミキちゃん)がご光臨である。大慌てでパッと離れた俺たちの所へ、ミキちゃんは猛然とダッシュをかける。


「ミキもー!」

「いいぞ、ホラおいで」


 むぎゅー。


「ちぇー、ミキちゃんいいなー」


 何故か肩を落とす玲華だが、そんなことを言っているヒマは無い。


「さぁ、特訓の続きといこうか?」

「ぎゃー!」


 さてさて、こんな調子で明日は大丈夫か?

 自分もピンクに染まった意識を切り替えるべく、明日演奏する曲をラジカセから流し始めた。

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