九月・4
「トーちゃん、バンドがしたいです……」
バスケ部を潰しに来た高校生みたいな事を言い出した。
梅ドレッシングを使った唐揚げ弁当(※めちゃくちゃ美味かった)を二人で平らげ、さて話ってなんじゃいね? と、俺が聞く体制を整えた瞬間のことである。
「あれ、玲華の学校って軽音部とか無かったっけ?」
「ほ? けーおんぶ?」
あ、しまった、それって高校進学を果たした後の話だった。
「あーごめん、勘違いだったわ」
「だよなー? アチキ一瞬、自分の学校の部を把握しきれてなかったのかと思ったよー」
「まぁそういった、音楽系の部活のある高校を選べばいいんじゃね?」
「そんなに待てるかー! もっと素早く! 明日にでも! バンド活動がしたいんだよー! ハリーハリーハリー!」
楽器を覚えたての人が逸る気持ちを抑えきれず、気の合う仲間と楽しみたいと思うのは自然なこと。
……なんだが。
「具体的には?」
「ノープランなのだよー」
「ダメじゃねーか」
「なんでだー、なんでアチキの周りには、バンドやりたい子がいないんだー」
「つか、ピアノ弾けるクラスメイトとかおらんの? そういう人材に当たればいいじゃんか」
「うー、一人いるけどなー、あんましいい返事はもらえなかったんじゃよー」
アレか? 声はかけたが拒否されて、凹んでしまったとか?
「と言うと?」
「エレキなんてやる不良とはつきあえないと言われたのだー」
「昭和か!」
「昭和だけど、どしたのトーちゃん?」
うん、落ち着け俺。
「あー、まぁ取り敢えず現状把握といこうか。玲華はギターの他に何ができたっけ?」
「ボーカル」
「いや楽器で」
「ちょろっとだけベース」
「ほうほう、でもリードギターとベースって、同時に演奏できんだろ」
「そうなんだよねー」
一応特注モデルにはツインネックのベースギターもあることはあるが、流石に中学生には手が出ない。もちろん玲華も持ってはいないとのこと。
放っておくと、よよよとばかりにリノリウムの床に崩れ落ちてしまいそうだ。
うーむ、何とかしてやりたいとは思うが、バンドをやると言うのであれば兎にも角にもまず「人」だからなぁ。
ギター、ベース、ドラムス、キーボード。最低でもこの4人は必要だ。
「「うーん」」
二人して頭を抱え込んだ時だった。
「あれ? 初川?」
振り向くと山口がいた。
「お、山口? ここでバッタリ会うのって珍しいな」
「うん、確かに……」
あ、玲華の存在に気がついてフリーズしたな? ちょうどいい機会だし紹介してしまおう。
「あ、コッチは俺の遠い親戚で初川玲華。俺らと同学年で、ミキちゃんの従姉になる」
「あっそうなんだ、ミキちゃんの。初めまして、初川……だと紛らわしいね、トオル君と同じクラスの山口って言います」
「こちらこそ初めまして、玲華と言います、よろしく」
お? なんだかまともな口調だ。てことは、普段のあれはキャラ作りか。妙なヤツだな。
いやひょっとして、俺が知らなかっただけで、割と人見知りする性格なのだろうか。
「あれ、ひょっとしてボクってお邪魔だった?」
「いやそんな事は無いが……、あ、そうだ。ちょっと相談に乗ってくれ山口」
「ん? ボクで良いなら構わないけど」
「トーちゃん?」
「と、とーちゃん?」
「まぁまぁ、今は細かいことはいいからいいから、取り敢えず座ってくれ」
これで三人揃ったので、ちょっと試してみようと思うことが出来た。
あととーちゃん呼びの解説に骨を折ることになった、ついでに修正してやる。
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「────と、言うことなんだが」
「うんうん、バンドね。他の人と合わせるのってやったことないけど、楽しそう!」
よし、ピアニスト、ゲットだぜ!
「でもトーちゃん、あと二人ほど足りないんだけど」
「そこは何とかするから楽しみにしていろ」
うむ、とーちゃん呼びは改善していないがまぁいい。
「所で二人とも、明日は時間あるか?」
「え、ボクは一日大丈夫だけど」
「玲華はいつまでコッチに?」
「一応あさって帰ることになってるから、明日はまるまる空いてるよー」
「よーし、じゃあちょっと電話してくるわ。二人ともそのまま待っててくれ」
「うん」
「はーい」
他には誰もいなかった図書室から出て、オレは館内にある公衆電話に向かって歩いた。
連絡先はオレがギターを買った店である。あそこの店長さん、ギターもベースもめちゃくちゃ上手かったので、ちょっと確認アンドお願いしてみようと思ったのだ。
なんと言っても今年の九月は週末と祝日がうまく繋がり、魅惑の三連休なのである。これを活かさない手は無いんだぜ。
「はい、ホットスペースです」
「あ、初川です、お久しぶりです店長さん」
「ああー初川君か、そろそろメンテの時期だっけ?」
「そうですね、また弦を新調したりもしたいので、その時はお願いします」
「いいよー、それで今日はどしたの? わざわざ電話なんて珍しいけど」
「実はですね……」
かくかくしかじか、結果は良好。
一部不安要素はあるが、これならなんとかなるかな?
「じゃ、明日の昼頃にお邪魔します」
「うん、待ってるよ」
ガチャ。
よーし、これで準備は整った。オレは一目散に二人のところまで戻ると、意気揚々とこう告げた。
「二人とも喜べ、明日はみんなでスタジオデートだ!」
「「ええっ!?」」
ピンポンパンポーン♪
あ、失言だったわ。どうにもカミさんがいた頃のクセが抜けないな。
よく言うじゃん、近所のスーパーへ行くだけでも「買い物デート」とか、何かしら出かける時に、語尾に「デート」って単語をつけちゃう現象。え、無い?
「とととトーちゃん!? アチキにはまだ心の準備が!」
「ぼぼぼボクだってそうだよ! 何をいきなり!」
「ごめんなさい」
なにか引っかかったんだが、まぁいい。オレは二人に明日のデート先を告げた。
「でもトオル君、確か校則に『子供だけで出かけるときは制服着用で』って書いてなかった?」
「そんなもの、付き添いの親が用事で先に帰ったと言えば、どうにでもなるだろ」
「あっ、確かに」
「それに『善は急げ』って昔のことわざにもあるしな」
「トーちゃん、校則違反はゼッタイ善じゃないと思うけどー」
「こまけぇこたぁいいんだよ!!」
おっと、少し強引過ぎたか。まぁいいや、強引ついでにちょっと確認だ。
「所で二人とも、このバンドとこの歌手は知ってるか?」
「うん」
「知ってるー、好きな曲も多いからー」
「話は早いな、じゃあこれとこれとこの3曲を予習しておいてくれ、明日演るから」
「へ?」
「は?」
さてと、今から色々と仕込んでおくか、明日は忙しくなるぞ。
あー、悪巧みってなんでこうも楽しいんだろ。
山口と別れたオレは、律儀にも学校まで徒歩で来たという玲華を轟天号の後ろに乗せ、一目散に帰宅したのだった。
玲華が何やらキャーキャー言っていたが、高揚気味だったので全部スルーした。




