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バレンタイン×バタフライ  作者: 新田猫レ
38/71

九月・4

「トーちゃん、バンドがしたいです……」


 バスケ部を潰しに来た高校生みたいな事を言い出した。

 梅ドレッシングを使った唐揚げ弁当(※めちゃくちゃ美味かった)を二人で平らげ、さて話ってなんじゃいね? と、俺が聞く体制を整えた瞬間のことである。


「あれ、玲華の学校って軽音部とか無かったっけ?」

「ほ? けーおんぶ?」


 あ、しまった、それって高校進学を果たした後の話だった。


「あーごめん、勘違いだったわ」

「だよなー? アチキ一瞬、自分の学校の部を把握しきれてなかったのかと思ったよー」

「まぁそういった、音楽系の部活のある高校を選べばいいんじゃね?」

「そんなに待てるかー! もっと素早く! 明日にでも! バンド活動がしたいんだよー! ハリーハリーハリー!」


 楽器を覚えたての人が逸る気持ちを抑えきれず、気の合う仲間と楽しみたいと思うのは自然なこと。

 ……なんだが。


「具体的には?」

「ノープランなのだよー」

「ダメじゃねーか」

「なんでだー、なんでアチキの周りには、バンドやりたい子がいないんだー」

「つか、ピアノ弾けるクラスメイトとかおらんの? そういう人材に当たればいいじゃんか」

「うー、一人いるけどなー、あんましいい返事はもらえなかったんじゃよー」


 アレか? 声はかけたが拒否されて、凹んでしまったとか?


「と言うと?」

「エレキなんてやる不良とはつきあえないと言われたのだー」

「昭和か!」

「昭和だけど、どしたのトーちゃん?」


 うん、落ち着け俺。


「あー、まぁ取り敢えず現状把握といこうか。玲華はギターの他に何ができたっけ?」

「ボーカル」

「いや楽器で」

「ちょろっとだけベース」

「ほうほう、でもリードギターとベースって、同時に演奏できんだろ」

「そうなんだよねー」


 一応特注モデルにはツインネックのベースギターもあることはあるが、流石に中学生には手が出ない。もちろん玲華も持ってはいないとのこと。


 放っておくと、よよよとばかりにリノリウムの床に崩れ落ちてしまいそうだ。

 うーむ、何とかしてやりたいとは思うが、バンドをやると言うのであれば兎にも角にもまず「人」だからなぁ。

 ギター、ベース、ドラムス、キーボード。最低でもこの4人は必要だ。


「「うーん」」


 二人して頭を抱え込んだ時だった。


「あれ? 初川?」


 振り向くと山口がいた。


「お、山口? ここでバッタリ会うのって珍しいな」

「うん、確かに……」


 あ、玲華の存在に気がついてフリーズしたな? ちょうどいい機会だし紹介してしまおう。


「あ、コッチは俺の遠い親戚で初川玲華。俺らと同学年で、ミキちゃんの従姉になる」

「あっそうなんだ、ミキちゃんの。初めまして、初川……だと紛らわしいね、トオル君と同じクラスの山口って言います」

「こちらこそ初めまして、玲華と言います、よろしく」


 お? なんだかまともな口調だ。てことは、普段のあれはキャラ作りか。妙なヤツだな。

 いやひょっとして、俺が知らなかっただけで、割と人見知りする性格なのだろうか。


「あれ、ひょっとしてボクってお邪魔だった?」

「いやそんな事は無いが……、あ、そうだ。ちょっと相談に乗ってくれ山口」

「ん? ボクで良いなら構わないけど」

「トーちゃん?」

「と、とーちゃん?」

「まぁまぁ、今は細かいことはいいからいいから、取り敢えず座ってくれ」


 これで()()()()()ので、ちょっと試してみようと思うことが出来た。

 あととーちゃん呼びの解説に骨を折ることになった、ついでに修正してやる。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「────と、言うことなんだが」

「うんうん、バンドね。他の人と合わせるのってやったことないけど、楽しそう!」


 よし、ピアニスト、ゲットだぜ!


「でもトーちゃん、あと二人ほど足りないんだけど」

「そこは何とかするから楽しみにしていろ」


 うむ、とーちゃん呼びは改善していないがまぁいい。


「所で二人とも、明日は時間あるか?」

「え、ボクは一日大丈夫だけど」

「玲華はいつまでコッチに?」

「一応あさって帰ることになってるから、明日はまるまる空いてるよー」

「よーし、じゃあちょっと電話してくるわ。二人ともそのまま待っててくれ」

「うん」

「はーい」


 他には誰もいなかった図書室から出て、オレは館内にある公衆電話に向かって歩いた。

 連絡先はオレがギターを買った店である。あそこの店長さん、ギターもベースもめちゃくちゃ上手かったので、ちょっと確認アンドお願いしてみようと思ったのだ。

 なんと言っても今年の九月は週末と祝日がうまく繋がり、魅惑の三連休なのである。これを活かさない手は無いんだぜ。


「はい、ホットスペースです」

「あ、初川です、お久しぶりです店長さん」

「ああー初川君か、そろそろメンテの時期だっけ?」

「そうですね、また弦を新調したりもしたいので、その時はお願いします」

「いいよー、それで今日はどしたの? わざわざ電話なんて珍しいけど」

「実はですね……」


 かくかくしかじか、結果は良好。

 一部不安要素はあるが、これならなんとかなるかな?


「じゃ、明日の昼頃にお邪魔します」

「うん、待ってるよ」


 ガチャ。


 よーし、これで準備は整った。オレは一目散に二人のところまで戻ると、意気揚々とこう告げた。


「二人とも喜べ、明日はみんなでスタジオデートだ!」

「「ええっ!?」」


 ピンポンパンポーン♪


 あ、失言だったわ。どうにもカミさんがいた頃のクセが抜けないな。

 よく言うじゃん、近所のスーパーへ行くだけでも「買い物デート」とか、何かしら出かける時に、語尾に「デート」って単語をつけちゃう現象。え、無い?


「とととトーちゃん!? アチキにはまだ心の準備が!」

「ぼぼぼボクだってそうだよ! 何をいきなり!」

「ごめんなさい」


 なにか引っかかったんだが、まぁいい。オレは二人に明日のデート先を告げた。


「でもトオル君、確か校則に『子供だけで出かけるときは制服着用で』って書いてなかった?」

「そんなもの、付き添いの親が用事で先に帰ったと言えば、どうにでもなるだろ」

「あっ、確かに」

「それに『善は急げ』って昔のことわざにもあるしな」

「トーちゃん、校則違反はゼッタイ善じゃないと思うけどー」

「こまけぇこたぁいいんだよ!!」


 おっと、少し強引過ぎたか。まぁいいや、強引ついでにちょっと確認だ。


「所で二人とも、このバンドとこの歌手は知ってるか?」

「うん」

「知ってるー、好きな曲も多いからー」

「話は早いな、じゃあこれとこれとこの3曲を予習しておいてくれ、明日()るから」 

「へ?」

「は?」


 さてと、今から色々と仕込んでおくか、明日は忙しくなるぞ。

 あー、悪巧みってなんでこうも楽しいんだろ。


 山口と別れたオレは、律儀にも学校まで徒歩で来たという玲華を轟天号の後ろに乗せ、一目散に帰宅したのだった。

 玲華が何やらキャーキャー言っていたが、高揚気味だったので全部スルーした。

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