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バレンタイン×バタフライ  作者: 新田猫レ
37/71

九月・3

 翌日。


 ……考えてみれば、テニス部の方は一段落してるんだから、その分陸上部の方がキツくなるのは、当たり前と言えば当たり前だった。

 実際テニス部は開店休業状態で、青野と言えば、


「やることが基礎練ばっかりになっちゃったのよね」


とプンスコしておられる。今朝もコートのフェンス越しに松元も交えて喋ったが、まぁ体育祭が来月に迫っていることでもあるし、あまり激しい練習はしない方針なのだろうと宥めておいた。


 その代わり、陸上部顧問の関先生が、残暑の太陽も何のその! とばかりに、グラウンドの生徒達に向かって発破を掛けている。


 いや暑苦しいわ。


 そんな中。

 オレと松元は黙々と高飛びの練習を、あーでもないこーでもないと試行錯誤しながらこなしていた。


「やっぱり専用のシューズが無いと、これ以上の記録更新はムリかなぁ」

「だな。飛び上がる時、カカトに一本スパイクがあるのと無いのじゃ大違いだし」


 二人してウンウンうなりながら、たどり着いた結論がこれだった。

 正直いま以上の記録を出すのは、もう機材に頼るしか無い所まで来てしまった、と言うべきか。


「それにしても初川はすごいよね」

「ん?」

「スパイクなしでも時々150センチ飛べるじゃん。それこのあいだ関先生が言ってたけど、県で二位のレベルなんでしょ?」

「とは言ってたけど本当なのかね。正直半信半疑なんだが」


 いつだかもちょっと語ったが、この村の子は陸上競技がとても強い。

 同級生の安島(やすじま)なんかは長距離走の記録がずば抜けていて、推薦でスポーツ強豪校に入ったぐらいだ。

 まだネットなんて無かった時代、この手の情報は専門誌か教師の言動だけ。ひょっとしたら選手達のモチベを高めるための方便かも知れず、耳から情報は鵜呑みに出来ないのだった。


 試行錯誤しつつも一通りの基礎メニューと計測を終え、松元と二人クールダウンをしているともう昼だった。

 いつもならちょっと残ってダベりつつ、たまに駄菓子屋で買い食いなんかをしてから帰るんだが、今日はこのあと約束があるからと校門で手を振ったそのときだった。


「来ちゃったー、てへ」


 と、まばゆいばかりの笑顔で、校門脇から飛び出してきた玲華。


 周りにいた生徒からの(え、誰この美少女?)って驚嘆で場は静まりかえり。


「いやなんでいるんだよ」


 そして思わずツッコミを入れたオレへ、盛大に視線がぶっ刺さった。

 何故かひそひそけそけそ声がする。


「つか昼飯食ってからそっち行くって言っただろ」

「だって一刻も早くトーちゃんに会いたかったんだもーん」

「 」

「ホラホラ、こうしてお弁当まで作ってきてやったぞー、かいがいしいだろー」


 事情を知らない親類縁者がグイグイくる。

 気づけば周囲は静まりかえり、気温までがスッと下がった気がした。


 ────おお神よ。


(なんじゃ?)

(あっすいません言葉のアヤです)

(うん、わかっとる)

(お手数おかけしました)


 その直後、男子生徒達から肩や背中に、モミジスタンプが贈与されまくったのは言うまでも無い。


 とてもつらい。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「お前なー、田舎の子は素朴(そぼく)と言うか、朴訥(ぼくとつ)と言うか、純朴(じゅんぼく)と言うか、あー」

「ぼくが多いなー?」

「とにかくああいったドッキリには耐性が無いんだから、少しは自重しろよな……」

「てひひ、相変わらずトーちゃんは難しい言葉を使いますなー」

「なんだその笑い方」


 部活の後でもあるし、せっかくなので涼しい所で弁当(※本当に作ってきやがった)を食べようかという話になり、轟天号を押し歩きしつつ、いつもの公民館に向かっている最中だ。


「それにしてもいい物が見られましたなー、トーちゃんのポカーンとした顔とか」

「おい」

「向こうで手を振ってた背の高い女の子なんか、目が点になってたしー」

「げ」


 松元には妙な誤解をされる前に、なる早で釈明しておかないと。

 おのれ歌って踊れる美少女ギタリストめ、この多才っぷりが小憎らしい。


「……あの子、と、トーちゃんのカノジョかー?」

「そんな風に見えたか?」

「違うなら違うって言えー」

「そんなもの作ってるヒマは無いんだよ、何せ来年はバ」

「ヴァ?」


 おっと、うっかり口を滑らせる所だった。

 オオトモ様の言っていた通り、この時間軸と言うか世界線では、どんな発言がどんな結果をもたらすか、正直未知数だからな。


「……バラの包みの高鳥屋」

「来年、高鳥屋に何かあるのー?」

「ちょっとバイトしてみたいと思っててな」

「わかった、新しく12弦ギターを買う気だなー?」

「チューニングだけで死ねるからカンベンしてくれ」


 K○RGの電子チューナーなんて、中学生がおいそれと買える物ではなかった時代である。


「はっはっはー、せいぜい苦しむが良いわ受験生ー」

「お前も同学年だろーが」


 なんだろなぁこの子は。

 最初あったときはただの不思議ちゃんかと思ったら、オレが繰り出すやや古風な話し方にも当然のように食いついてくるし。

 かと思えば本人曰く、


「アチキってばバリバリの理系、略してバ理系なのだー、控え控えい、ひかえおろー」


だそうで、アタマはいいハズなんだが、何というかこの妙に間延びしたしゃべり方のせいで……。


うん、やっぱり不思議ちゃんだわ。


 昨日は妙に深刻そうな顔をしていたが、今は全くそんな風には見えない玲華と二人。

 てくてく歩くと目的地はすぐそこだった。

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