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バレンタイン×バタフライ  作者: 新田猫レ
36/71

九月・2

 玲華と過ごす時間は、久しぶりに賑やかで楽しいものだった。

 何せコイツだけは絶対に『差出人不明のチョコレート事件』には関わってこないからな。

 お互い同じ県下の公立中学だし、日曜祝祭日なんかの休日設定も同一。来年のバレンタイン当日に、オレの学校に来られる筈がないのだ。

 はぁー、見えない誰かに気兼ねするでもなく、単純に心を許せる存在がこんなにもありがたいとは。


「んん? トーちゃんどしたー? いきなりアチキをじっと見つめたりしてー」

「んあ?」


 おっと、久しぶりに会ったせいもあってか、まじまじと観察するようなマネをしてしまったか。申し訳ないことをしたな。


「ひょっとしてー、アチキに惚れたかー?」

「や、それはないから安心しろ」

「真顔で返事すんなー! ちょびっと傷ついただろー!」

「あだだだ」


 両腕を振り回して背中を叩いてきた。

 そりゃもう見事なポカポカ具合で、ギャグマンガに描けそうだ。

 そんなオレたちのやりとりを、近くで見ていた幼女達が笑っていた。

 お互い分かってやっていることとはいえ、流石にちょっと恥ずかしい。


「おおー?」

「今度は何だよ」

「いま気がついたけど、背もずいぶん伸びたんだねー、いくつー?」

「叩く前に気づけよな、確か1メートル165センチぐらいだったか?」

「いちめーとるひゃくろくじゅ……、なんかすごくデカく感じたよ!? 詐欺すんな!」


 こないだ美幸達が来たときも同じ質問をされたと思ったが、他者からの視点だとかなり伸びたように捉えられてるんかな。

 まぁ卒業までにあと10センチ伸びるんだけど。


「背中が大きくって壁みたいなんだもん、そんな妖怪いなかったかー?」

「ぬりかべって呼んだら、白目むいてオシッコ漏らすまでくすぐるが?」

「女の子として色んなものを失いそうだからやめとくー」

「そうしてくれ」


 高校の友人から頂戴した妖怪由来のあだ名が、行きつけの喫茶店で常連の仲間入りをした事で定着し、やがてSNSでのプロフにまで使われるようになった、という歴史がこっちにはあるんだよ。知らんだろうけど。


 と、そのとき。


「あ、れーかちゃんだ!」

「おお、愛しき我がイトコ、ミキちゃんではないか! おっきくなったねー、元気だった?」

「うん! れーかちゃんは?」

「元気もりもりオロナミンCだぞー」

「そこはハツラツだと思うんだが」

「そーだったー」

「きゃははは!」


 なんだこれ。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「ふーん、トーちゃんモテモテなんだねぇ」


 お祭りからの帰路。

 オレとミキちゃん、そして玲華の三人は、家が隣同士ということもあって一緒に夜道を歩いていた。

 その道すがら、ミキちゃん主導で出てきた話題と言えば、先日の旅行の件である。よほど楽しかったのだろう、満面の笑みで玲華にあれやこれやと話していた。

 ……いやその、ミキちゃん? 先日の旅行の件は誰にも言わない約束じゃなかったっけ?


 何せ保護者である「風嶺夜(フレイヤ)」のマスターが一時帰宅。

 残ったオレ達は───時間差あり且つ男女別───という事実はあれど飲酒行為に及び、果ては年頃の男女が同じベッドで寝ていたという、不純異性交遊を疑われても仕方の無いやらかしをしたのだ。

 情報封鎖は一分の隙も作ってはならない……のだが、まぁ幼女相手じゃそれも完璧では無い。

 オレはミキちゃんの話す内容に時々訂正を入れつつ、イヤな汗をかいていた。


「みんなでお泊まり楽しかったんだねー」

「うん!」

「そっかそっかー」


 ホッ、ようやくこの話は終わったか。


「そんなに楽しかったんなら、アチキも一緒に行きたかったなー」

「ほわーい?」

「え、だってトーちゃんの手料理がふるまわれた訳でしょー?」

「そりゃ緊急事態だったからな。つってもカレーだし、大したこと無いぞ?」

「料理が出来て子煩悩で、おまけにアチキとは抜群に相性がいいとかなー」


 話し疲れたのだろう、今はオレの背中で寝息を立て始めたミキちゃんを見て、玲華はオレと視線を合わせず、前だけ見てそんなことを言った。


「そうか?」

「なのでトーちゃん、アチキの婿になれー」

「長男なので無理です」

「そっかー」


 アスキーアートのショボーン風な顔をしている玲華を見て、オレはふと気になったことを尋ねた。


「なぁ、そっちの中学、あんまり楽しくないのか?」

「……なぜそんなことを聞くー?」

「いや、なんとなくだけど」

「んー」


 これは打ち明けるかどうか考え込んでるな。

 と言うか、さっきポロッとこぼしただろ、『相性抜群』って。

 だからそっちの学校には、玲華と気の合う親しい友人がいないのかと思っちゃったんだよ。


「ま、無理に話さなくてもいいが」

「んー、なんでこうトーちゃんはなー、余計なトコロに気がついちゃうかなー」

「お節介だったかな?」

「んー」


 そこで玲華はぴょんと小走りをし、数歩進んだ先で足を止めてこっちを振り向いた。


「明日もっかい会えないかなー? 時間は何時でもいいからさー」

「明日か」


 明日は午前中に部活があるんだよな、だからえーと。


「午後からなら大丈夫だな。悪いけど昼飯の後でいいか?」

「んーん、全然いいよー」

「分かった、じゃあ食い終わったらミキちゃん家に顔出すわ」

「お頼み申すー」


 いつものようにおどけた話し方だが、どうにも歯切れが悪いな。


「……ありがとね」


 スポットライトみたいな街灯の下。

 いつも賑やかで風鈴草(カンパニュラ)みたいな普段のイメージとはかけ離れ。


 小首をかしげつつオレを見るその姿が、まるで一輪の白いガーベラのように映った。


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