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バレンタイン×バタフライ  作者: 新田猫レ
35/71

九月・1

村の鎮守の神様の

今日は目出度い御祭日

どんどんひゃらら どんひゃらら

どんどんひゃらら どんひゃらら

朝から聞こえる笛太鼓

  (作詞・作曲 南能衛 「村祭」昭和17年)


 いきなりだが今日は村の─────、と言うかもっと小規模の、いうなれば部落単位のちっちゃなお祭りがある。

 この旧村が市内でも一、二を争うほどの、広大な面積の田畑を持つゆえの話である。

 どれぐらいの広さなのかピンと来ない人もいるだろうが、こう言えば伝わるだろうか。

『夏前になると農業従事者と農協がお金を出し合い、ヘリコプターを使っての空中農薬散布が実施される規模の広さ』だと。


 何その集団農場(コルホーズ)

 徳川家康が関東でホトトギスタイマーとにらめっこしていた頃、その資金たる米作りを担っていた、なんて歴史もある。


 それだけ広い村なので、村の総力を挙げたお祭りは他にあるんだが、それとは別に部落会プラス子供会が主催の、どちらかと言えば子供向けの小規模なお祭りは、各部落で実施されるのが常なのだった。

 まぁ中身はと言えば、ぶっちゃけご近所同士が集まっての宴会だが。


 一部の大人達は酒盛りをおっぱじめるが、それ以外の参加者、例えば子連れの親なんかは出店で金魚をすくったり、屋台で焼きそばや綿飴を食べたり、ちょっと派手な花火大会を笑顔で眺めていたりする。


 その程度のこぢんまりしたものなのだが、オレは毎年欠かさず参加していた、と言うかさせられていた。

 理由? ミキちゃんを含むご近所の子供達の、貴重な遊び相手兼おもり役だからだよ。


 ちなみに、いつもの女子達は別部落のためここにはいない。

 と言うか、夜道を通わせてまで、わざわざ違う部落の祭りになど行かせる親はいない。

 ましてやその理由が「カレシ目当て」とか、自分が親なら(くわ)(かま)を後ろ手にして、相手の家へご挨拶に伺うかもしれない。


 ─────話が逸れたな、はぁどっとはらい。


 さて、夕刻から始まったこのお祭り。

 散々チビッコ達の相手をし、そろそろ中盤にさしかかったであろう頃。

 会場となった公園の鉄棒に、腕とあごを乗せ一休みしていたら、不意に後ろから肩を突かれた。


「やっ、久しぶりー」


 ピンポンパンポーン♪


「へっ?」


 若い女性の声(※アンドいつものSE音)に振り向けば、自分と同い年ぐらいのお嬢様風な女子が、そこにニコニコ顔で立っていた。

 はて誰だっけ? オレと同年代の知り合いって、確かこの部落にはいなかったハズなんだが。

 しかも最初から好感度上げてくるとか一体……?


 オレが首をかしげていると、


「あれー? 暗くて分からない? メガネもかけてるし、めー悪くなったー?」

「ああうん、確かに近視が進んで、夏前から掛けっぱなしにはなったけど……」


 そこでその女子はぷーっと頬を膨らませ、


「アチキの顔忘れちゃった? もー、ひどいよトーちゃん!」


 そこでようやく気がついた。オレをその呼び名で呼ぶのは、この世でただ一人しかいなかったからだ。


玲華(れいか)か」

「正解ー! どんどんぱちぱちー! ひゅーひゅー!」


 騒がしくも美人なコイツは初川玲華。同じ姓であることから分かるように、一応親戚である。

 いや親戚ではあるんだが、何故「一応」なのかと言うと……。


 正直めっちゃ遠い。


 何せ300年ほど前に本家であるオレの家から出た、いわゆる「分家筋」の家の子。

 正月と夏休みにミキちゃんの家へ帰省して来ることで知り合い、会うとたまに一緒に遊ぶようになった。

 もっと言えば、ミキちゃんの従姉(いとこ)に当たる。


「顔を合わせるのは久しぶりだなぁ」

「お盆に来るはずだったけど、お父さんの仕事の都合で、予定が()()るパーになってなー」


 いや来る来るパーてお前。

 ああ、それで先月ミキちゃんが、俺たちの旅行に同行したがったのか、納得。


「なら事前に手紙にでも書いときゃ良かろうに」

「実は昨日突然決まって、ついさっき着いたのだよー」

「親父さんも大変そうだなぁ」

「なー」


 確か玲華のお父さんは役所関係だったな。

 ミキちゃんの母親は小学校の先生だし、父親も確か市役所勤務のはず。分家は何故か公務員ファミリーなのである。


「いやーそれにしてもトーちゃん、なんだかグッと大人っぽくなったねー」

「そうか?」

「『男子三日会わざれば、割腹(かっぷく)してみせよ』ってヤツかー?」


 殺 す な 。


「それを言うなら刮目(かつもく)な。そっちは通常運転ぽくて安心したわ」

「なによーその通常運転ってー。ちょっとは容姿をホメるんだー」


 そういえばコイツ、再来年にはここより都心に近い高校に進学し、そこの軽音部に入ったギター女子なのだ。

 そういった下地もあってか、割と普段から垢抜けた格好をしていた記憶がある。


 ちなみにその軽音部、後に芸能界デビューして一世を風靡した、某バンドのギタリストがいたんだが、そのギタリストの後輩だったという面白い経歴の持ち主である。

 玲華はエレキ、オレはアコギという違いはあれど、同じギターをたしなむ者として、当時は文通もしていた仲だ。

 ただし「親戚」というフィルターがかかっていたためか、恋愛感情を抱いたことが全くなかったという、考えてみれば不思議な関係ではあった。

 言うなればギター友達? 音楽仲間? よく分からんな。そしてさっきのSE音も謎だな。あれれ?


「あーはいはい、夏に白のワンピースとかめちゃめちゃオレの好みだし、正直ちょー可愛いぞ。一瞬とは言え見惚れてしまったじゃないか。愛してるぞ大好きだ」

「ぐへっ!?」

「どした? カメムシを咀嚼(そしゃく)した後、味を堪能しつつゆっくり飲み込んだような声を出して」

「ぬおお、そこは苦虫だろー、色々と想像しちゃったじゃんかー! つか不意打ちやめろー!」


 ああそうそう、こういうノリの女子だったわ。まるで実家のような安心感。


「まぁいいや、耳の口直しになんか食べるか? 屋台のかき氷ぐらいならおごってやるよ」

「ブルーハワイで!」

「即答かよ。まぁいいか、オレも好きだし」

「また! また言った!」

「なんなんだろうねぇこの子は」


 この二人、ちょっと騒がしかったかもしれない。

 娯楽の少ない田舎ゆえか、気づけば周囲からの好奇の視線を一身に集めたオレたちは、そそくさと屋台へ向けて足を運んだのだった。

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