八月・番外編(9)
夏が終わってもう12月ですね……orz
着替えが済んだタイミングで、ミキちゃんが男湯の脱衣所に素っ裸のまま飛び込んできた。
「おにーちゃんアイスー!」
「こらこら、お兄ちゃんはアイスじゃないよ」
「きゃははは!」
うーむ、お約束過ぎる。いやそれはいいんだけどさ?
「ミキちゃん、着替えはどうしたの?」
そんな疑問がふっと頭をよぎった次の瞬間、脱衣所に二人目の闖入者が、これまた素っ裸でご来店。
「ああもう。ミキちゃん、ほら忘れ物だ……よ───」
オレを視界に見つけ、語尾の勢いが急下降する山口。
「──山、口、か?」
そして思った言葉がうっかり出てしまったオレ。
「あっ、あわわわわわわ……」
さっきの青野の時と違い、今のオレは着替えも終わり、メガネもバッチリかけていた。
少女らしいスレンダーな肢体に、真っ白な肌が美しい。
これはアレです、邪念とか性欲とかを通り越して、ある種の芸術品を眺めているような気分。
長身の松元のスラリとしたスポーティな美しさとは違う、『純真無垢な乙女』といった風情だ。
──って、何を冷静に観察してるんだオレ。
ここまでコンマ数秒だったオレの思考速度が、次なる最適解を弾き出す。
「おっと、メガネが曇って遠くがよく見えないな。ミキちゃん、あそこにいるの誰?」
「しょーこおねーちゃんだよ」
「そうか、悪いな山口。ミキちゃんの着替え持って来てくれたんだろ?」
「うっ、うん」
「じゃあミキちゃん、祥子お姉ちゃんから着替え貰ってきてね」
「うん! しょーこおねーちゃん、ありがとー!」
「は、はい、じゃあこれ」
「あとはこっちでやっとくよ、ありがとな」
「うっ、うん。じゃあまた──」
森の中で熊に出会った時の対処法のごとく、山口はジリジリと後ずさりしながら脱衣所から出て行った。
「さてと、じゃあお着替えしちゃおうか。一人で出来るかなー?」
「もうこどもじゃないんだからできるもん!」
その直後。
「うわああああぁぁぁー!」
隣の脱衣所から盛大な悲鳴が上がったのだった。
オレ、今回の件に限っては何も悪クナイヨネ?
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脱衣所から出て自販機でアイスを二つ買い、ロビー兼多目的ホール的な部屋で、オレはミキちゃんと二人で『8時だョ!全員集合』を視ていた。
仲本工事さんや志村けん、加トちゃんがみんな若いこと若いこと。
そしていかりや長介さんに髪がある! 高木ブーさん変わらねぇ! などと、一人で違った楽しみ方をしていたら、ミキちゃんが船をこぎ始めた。
子供は9時が限界だよなぁ、なんて今更ながらに感動する。
「ミキちゃん、歯磨きしてから寝ようね」
「うん、わかった…」
おおぅ、寝落ちしてしまう前に急いで済ませよう。
部屋に据え付けの洗面台に連れて行き、そこで歯磨きをさせてからベッドに寝かしつける。
まぁまぁ暑い夜だったが、お腹にタオルケットをかけて上げると、わずか5秒で熟睡モードに入ったらしい。すやすやと規則正しい寝息が始まった。
可愛いものだと頭を撫でても微動だにしない。うんうん、よく遊んでよく食べたし、子供はこれでいいんだよ。ぐっすりお眠り。
久しぶりに父性全開モードになったオレは、風が直接当たらないように気をつけつつ、部屋にあった扇風機のスイッチを入れた。
そう言えば子供の頃、親に「一晩中扇風機に当たっていると死んじゃうぞ」と脅された記憶が。
あれは流石に大袈裟だが、風に当たりすぎて体温が下がり、体調を崩すのだけは当たってたな。
夏にキャンプをした時、風の強いなか一日中Tシャツで過ごしたら、夜になって震えが来たもんな。
そんな事を考えながらボンヤリしていると、コンコンと部屋の扉をノックする音がした。
「開いてるよ、どうぞ」
ガチャッと扉を開けて入ってきたのは青野だった。
「あ、ミキちゃんもう寝ちゃったんだ」
「ああ、ついさっきだけど」
「じゃあちょうどいいか。初川、ちょっと下に降りて来て」
「何かやるのか?」
「いーからいーから」
そう言って笑う青野の目は普段より一層細く、お前これ絶対に何か企んでるだろ、とツッコミを入れたくなる程に怪しさ爆発である。
「分かった分かった、じゃあちょっと準備して行くから先に行っててくれ」
「りょーかーい」
そいや昼に荷物を取りに行った時、やけに時間がかかるなーとは思っていたが、あれスイカ割りの準備だけじゃなかったんじゃ?
ちょっとだけ色んな思考を巡らせたオレは、とあるアイテムをポケットに入れてから部屋を出た。




