人生終了のお知らせ
あーあったあった、そんな思い出が確かにあったわ。というかすっかり記憶から抜け落ちてたわ。
あれからしばらく謎の送り主に思いを巡らせてみたけど、元来ミステリー小説よりSFジュブナイルが好きだった自分には、金田一先生のような名推理はついぞ出てきやしなかった。
うん、「少し不思議」で終わっちゃってた、SFだけに。
所が山口女史曰く、「なんでそれでわからないのかなぁ」なのである。
「じゃあヒントね」
彼女は人差し指を立てて口を開く。
「うちらの中学校って、放課後まで駐輪場には立ち入り禁止だったじゃない?」
うん、そうだった。
バレンタインの頃には受験もあって、もう学校にも来ていなかったけど。いわゆる「不良」の先輩たちが、自転車によくイタズラをしていたからだ。
空気を抜かれるならまだマシな方で、中には虫ゴム自体を取られたり、ハンドルの向きが曲げられていたり、果ては本体がそっくり逆さまにされていたりしたのである。
バカの考えることはよく分からん。
「……え?」
「ん?」
「いやその、それがヒント?」
「そうだけど」
「えーと……」
「ウソでしょ、やだー、なんでこれで分からないかなぁ」
いや、分からんもんは分からんし。
「もうちょっと何か」
「ダメ、後は自分で考えなよ」
「少なくとも女子ではあるんだよね?」
ウホッだったら泣く自信ある。
「流石にそれは……っふふふふっ。……はぁ、当たり前だけど女性だよ」
ひとしきり笑われた後、何故だか哀れみの視線で見られた。解せぬ。
と、ふと腕時計を見て慌てて立ち上がる。
「昼休憩が終わっちゃうんだよ、名残惜しいけど」
「そうなんだ、なかなか会う機会も無いけど、じゃあ次に会えた時それでも推理できてなかったら」
「その時はキッチリ教えて欲しいね、それじゃ」
「うん」
遠慮していた彼女だったが、無理やりお会計を二人分済ませて店を出る。まぁ情報料代わりだ。
そういやアドレス交換もしなかったけど、どうせまたあの店に行けば会えるだろう。昭和生まれは肝心なときに便利ガジェットの存在を忘れるのだ。
というか、この年になっても男性から女性に「アドレスを教えて欲しい」というのは、なんとなく憚られる行為に該当するのだ。若い子にゃ理解しがたい感覚だろうけど。
店に隣接している駐車場に向かうため一旦道路に出た瞬間、目に飛び込んできたその光景。
それはセンターラインを割った対向車を避けるため、自分の方へハンドルを大きく切り、突進してきた大型トラックだった。
次からいよいよ本編です、長々とすいません。