八月・番外編(7)
「はーっはっはっはあ! 回れ回れぇ! コマのようになぁ!」
「うええぇぇぇ…」
スイカ割りをするに当たって、ローカルルールのようなものが適用されていた。曰く、木刀を地面に立てたそこへ額を当て、グルグルまわるという例のアレである。
やったことの無い人は試してみると良い。
こ う か は ば つ ぐ ん だ 。
「これキッツイ……。ねぇ、本番は目隠しナシでやっちゃダメ? もう十分フラついてるんだけど」
最初に意気揚々と木刀を手にした松元だったが、既に涙目になりながら恨み言を言う。
「ダメだな。つか最初にみんなで決めたルールだろ、ルールはちゃんと守らねば」
「ぐふぅ」
「まぁまぁ、ひょっとして目隠しをすればちょっとは?」
あっ、山口それはマズい。車酔いの酷い状態の時に、すぐさま目隠しなんかしたら。
「うわああぁぁぁー!?」
「おっと」
一気に悪化しちゃうんだよなぁ。
松元が盛大に倒れ込みそうになるのを、山口と二人して慌てて抱き留める。と言うか、身長差がかなりある松元を山口は支えきれず……、結果オレが一人で受け止めることになった。
どてん。
二人して転がった。しかし痛くも何ともない。砂の上だったのが幸いしたな。
「ああっ、ゴメン初川? だよね?」
「はいオレです。それより大丈夫か? どっかぶつけたりしてないか?」
「う、うん、平気みたい」
「なら良かった。だからちょっと大急ぎで離れてくれ」
「えっ?」
いや理解して欲しい、お前いまオレの上に覆い被さってる状態なんだが。
「きゃー初川クンのエッチー!」
「きゃー♡」
おいそこで傍観しつつはやし立てる青野と山口、ミキちゃんがマネするからやめろ下さい。
「よし、これで二点」
そして松元もなんなんだ、それ今カウントしなきゃならんヤツか?
まぁいいや、とっととスイカ割りを始めてしまおう。
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「とりゃっ!」
ぱこん! と、やや間抜けな音を立てて、青野の振り回した木刀がスイカにヒットした。よしよし、変に力を入れすぎて、スイカが粉砕されなくて良かった。
事前に決めたルールに則り、スイカは「当てるだけ」で割れた物とした。
生前(?)、オレが勢い余ってクリティカルヒットを繰り出してしまった時は、割れすぎたスイカがあらぬ方向へ転がった……だけでは飽き足らず、砂も混じってしまって食べるのに苦労したことがあったからだ。
あの悲劇を繰り返してはいけない。
ナイフを使ってスイカを切り分け、全員に分配する。四等分した内の三つを女性陣に。残り四分の一を更に半分にしたものを、オレとミキちゃんとで手に取った。
「あれっ、初川、自分の分それだけ?」
目敏く見つけた青野が疑問を投げかける。
「あー、オレがキュウリダメなのはみんな知ってるだろ?」
「「うん」」
ミキちゃんまでもが頷いた。やはりあの野菜が食べられないというのは、相当に変わっていると捉えられる物らしい。
「つーかキュウリに限らず、もともと青臭すぎる野菜は苦手なんだよなぁ。ガキの頃はレタスどころかキャベツもダメだったし」
「へぇー」
山口が興味津々といった感じでこっちを見る。
「で、キュウリってウリ科じゃん?」
「そうなの?」
「あ、それは知ってる」
松元と青野が続けた。
「あっ、ひょっとして?」
「そ、スイカもウリ科なんだよ。だから食べられはするけど、わざわざ好き好んで食べる気にはならないと言うか。だから気にせず食べてくれ」
「なんかゴメンね? 気が付かなくて」
青野がしゅんとなってしまった。
「あーいや、こればかりは仕方ない事だし気にすんなって。と言うかさっきの昼飯のお陰で、まだ腹に入るスペースもそんなに無いんだ」
腹をパァンと叩いておどけて見せると、みんな初めて笑顔になった。
「じゃ」
「うん」
「いっただっきまーす!」
折角用意してくれたマスターや青野に申し訳ない気持ちで一杯だが、オレはお付き合い程度にスイカを囓るに留めた。
ガキの頃はそれほど気にせず食べていられたハズなんだが、一度意識するとダメなんだよなぁ。
まぁ味覚なんて年齢に応じて変わるものだし、気にするだけ損だ。
それにこの頃は食えなかったトマトが、酒を飲むようになってから急に食べられるようになった経験もあったしな。
経緯としては大学生の頃、友人と飲み明かした翌日の話。
行きつけの喫茶店にヒドい二日酔い状態で入っていったら、店のマスター(通称「お母さん」)が、氷とレモン汁をたっぷり入れたトマトジュースを出してくれたことがあったんだが、これが効果覿面だった。
頭痛はスッと引くし、水分と塩分は両方摂れるし、何よりムカついた胃がスッキリしたのには驚いた。
以降、トマトは生のまま丸かぶり出来るようになったのには、自分が一番驚いた。個人的には「食生活のターニングポイント」と言っても良い大事件だ。
そう言えば息子はオレに似ず、好き嫌いの無い子に育ってくれたなぁ。賑やかに談笑しながらスイカを頬張るみんなを見て、オレの頬は自然と緩んでいた。
そしてそんなオレを不思議そうな顔で、青野がチラチラと見てくる。さっきからSE音が鳴りっぱなしだが、オレは聞こえないフリをした。




