八月・番外編(6)
「は、腹が苦しい……」
ミキちゃんがどうしても一人前を食べてみたいと言い張るので、一応ご希望通りオーダーしてはみたものの、食前に口にしたかき氷でお腹が膨れたのか、ほぼ丸々お残し遊ばされたからである。
当然それを処理するのはオレな訳で。……あのチャラ男氏、気を遣ってくれたのかやたらと盛りが多かったせいもあるけどな。
「おにーちゃん、ごめんね」
ミキちゃんがしゅんとなってしまったので、オレはムリヤリ笑顔を作ってみた。
「大丈夫だよ、ちょっと休めば、またすぐお腹が減るからね」
「そうなの?」
「だけどちょーっと今は動けないかな、動いたら耳と鼻からラーメンが出ちゃうかも」
「きゃははは!」
そうそう、子供は笑顔が一番。ましてや相手は小学校低学年である。
オレはふっと自分の子供が小さかった頃を思い出し、微笑ましい思いでミキちゃんの頭を撫でたのだった。
ピンポンパンポーン♪
「これは」
「ミキちゃんにも一点かぁ」
「うーん、これはしてやられたねー」
───半分以上忘れかけていたが、そう言えばその点数は一体なんなのか。そして何基準で得点になるのか。
おとーさん怒らないからちょっと全員で説明してくれない?
「なぁ、その点数って」
「あーっと、そう言えばお父さんのクルマに荷物を取りに行かなきゃー!」
「あっ、そう言えばそうだった」
「ボクも海に入ることばっかり頭にあって、すっかり忘れてたねー」
おい、ちょっと棒読みが過ぎやしないか。あと山口、お前海には全く入っとらんだろうが。
「ちょっとミキちゃん見ててねー」
「ボク初川の荷物も一緒に運んでおいてあげるよ」
「お、おう」
「じゃ、さっきのパラソルの所で待っててね!」
うーむ、何か描く仕事 もとい隠しごとをしているのだけは分かるんだが、その内容がサッパリ分からんな?
オレは残されたミキちゃんと顔を見合わせた。
「ミキちゃん、あのお姉ちゃんたち、何かナイショにしてることってあるの?」
「わかんなーい!」
「そっかー」
「しっててもおしえなーい!」
おおぅ、流石は幼くても女の子。女子同士の約束であれば、口が硬くなるものなんだね。
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それから30分ほど。
オレはミキちゃんと二人で、砂のお城を作って遊んでいた。
「やっ、お待たせ!」
振り返ると松元がスイカを、山口がタオルとブルーシートを、そして青野が木刀とやや大ぶりのナイフを手にして立っていた。ナイフはキャンプにも使うような簡易な物だが、それにしても……。
「やはりやるのか」
「うん、お父さんが『夏のビーチときたらスイカ割りは欠かせないだろ』って言って、持たせてくれたんだ」
このマスターの準備万端っぷりは、一体なんなんだ。つか子供に刃物とか持たせるなよ、何かあったらどうする気だ。
「青野、ちょっとそのナイフ見せてくれ」
「うん、いいよ」
ナイフをシースから抜き取ると、よく手入れされた本体がでてきた。それを見た瞬間、オレは唸ってしまった。
「おお、これガーバーじゃないか。柄の部分が全て金属製で、料理の後に遠慮せずじゃぶじゃぶ洗えて、衛生面もバッチリなヤツ」
「そうなの?」
「流石はマスター、分かってるね」
シンプルで飽きの来ないデザインといい、また実用一辺倒な製品のチョイスと言い、これはもう男として完敗である。
青野が許してくれるなら、頭を下げて弟子入りしたい所だ。
いや何のだ。
「じゃあ早速だけど、やってみようよスイカ割り!」
松元がウキウキした様子で指示を出し、それに合わせて準備が整ってゆく。
ああ、こういう夏の過ごし方って、何十年ぶりだろうか。
オレはミキちゃんと手を繋いで、ブルーシートに向かって歩いて行った。




