八月・番外編(5)
海に到着した時間が昼直前だったこともあり、ちょうど昼ご飯の時間になった。
一旦引き返して全員分のメニューを聞き取ってメモを書き、チャラそうなバイト氏にそれを渡した。するとこのチャラ男、オレを下から上まで見てからこう言った。
「よぉあんちゃん、あそこにいるの全員おめーの妹なのか?」
やっぱりか。つかお前、チャラいのは性格だろうけどその体型と茶髪はないわ。
日焼けで色のあせたカカシみてーな印象だぞ?
「いや、とある格闘家の娘さん達です」
「あちゃー、可愛い子が沢山いるから紹介してもらおうかと思ったのによー」
「怒り狂った父親に向かって、同じ事が言える度胸があるならどうぞどうぞ」
「うへ、おっかねぇ。潔く諦めるとするよ」
ふと、気になったので話を続けてみた。
「ちなみにどの子が一番可愛く見えます?」
「あの小さい方から二番目の子だな」
こ の ロ リ コ ン め !
「流石に小学生はマズイでしょ」
スマン青野、こういう設定じゃないと悪い虫が付きそうだから、今だけ身分を偽らせてくれ。
「いや、なんつーか妹にしたいと言うか、庇護欲をそそられるっつーか」
おや、割と勉強は出来そうだぞこのチャラ男。
「気持ちは分かりますけど、止めた方がいいですよ」
「そーするわー」
じゃ、と軽く挨拶をして、オレはみんなの待つテーブルに戻ってきた。
「初川、あの店員さんと何を話してたの?」
松元が目敏く声をかけてくる。
「一人紹介しろと言われた」
「「えっ」」
「でもキッチリ断った」
「「ホッ」」
キミタチ、息ピッタリだな。
「誰が目当てとか言ってた?」
いや、なんで食いつくんだよ山口。ひょっとしてああいったタイプのチャラ男と、ひと夏のアヴァンチュールでもしてみたいのか。
「いや、ただのロリコンだった」
「え」
「青野が好みらしいぞ」
「どーゆー意味よアンタ」
待て待て、色々と言いたいことはあるだろうが、そこはガマンしててくれ。
だって中学生だってバレたら、声かけに来ちゃうかも知れないだろ。頼むからその握ったり開いたりしている手を引っ込めろ。いやマジでスンマセン。
「あのな? オレはこの旅行、みんなを危険な目に遭わせず、ちゃんとご両親の元へ返すという役割があるんだよ。そこは分かってくれるよな?」
「う、うん、まぁ」
「ああいう手合いは、最初に決めたターゲットが無理だと分かったら、さっさと次に目移りする生き物なんだよ。捕食者からの興味を最小限に減らす、これは生物としての正しい行動だとオレは考える」
「まぁ、言われてみれば」
「それに自信を持て青野。お前は客観的に見て可愛いってことが、他者から証明されたという意味でもある」
「ふえっ!?」
特殊性癖の持ち主からすれば、という条件付きだが。
すると松元と山口、二人が顔を見合わせた。
「あー、これは」
「青ちゃんに一点追加だねー」
ん? 何ソレ? そう言えば松元も、さっき点数が云々とか言ってなかったか?
「なぁ、一体その点数って……」
「ハイお待ちどう、少年!」
そこへ先ほどのチャラ男が、人数分のかき氷を持ってやって来た。
「先に水分補給しとけよー? 海に来るとはしゃぎまわって、結構倒れる人が多いんだ」
「あ、そうですね、熱中症も怖いですし」
「んあ? ネッチューショー?」
あ、いけね。この時代はまだ熱中症という病名は一般的じゃ無かったっけ。
いや、単語としては確か明治時代からあったと思ったが、あれは屋内作業の炭鉱労働者等に多く、日の当たる場所では「日射病」と呼ぶのが普通なんだった。
「ああいや、日射病ですよね、何言ってるんだろオレ」
「ボクのセンセイはーってか、ははは」
『熱中時代』がオンエアされていた時代であった。
「あはは、そうですね、勘違いしてました」
「まーこんだけ可愛い子達に囲まれてたら、そら熱中症? にもなるってもんだ。じゃっ、頼まれてた焼きそばとラーメン、もう少ししたら出来上がっから」
そう言うと手のひらをヒラヒラさせ、チャラ男氏は去って行った。
いや、名残惜しそうに青野をチラチラ見ていたのは分かったが、さっき予防線を張ったこともあってか、素直に諦めてくれたようだ。
「なんか、悪い人じゃなさそうだね」
「んー、それには同意する」
これで特殊性癖でなければ。あと全体の配色が間違っていなければ、な。
「さてと、じゃあ食べるか。いただきます」
いっただきまーす! と全員で唱和し、食べ始めて数分後。
……お約束ではあるが、全員でコメカミを抑えて頭痛にもだえるハメになった。
うむ、早くラーメンが来て欲しい。




