八月・番外編(3)
まぁ最初はやはり泳ぎだろう。
この頃は沖合に浮いてるブイに触って戻ってくる、なんてことをよくやってた。
とは言え今日はミキちゃんがいるし、波打ち際でパチャパチャやるぐらいが関の山だろうな。
とか考えていたら、山口が
「ミキちゃんはボクが見ててあげるから、初川はみんなと一緒に遊んできなよ」
と、殊勝なことを言い出した。
「そりゃありがたいが、いいのか?」
「まぁね、ボク泳ぎはあんまり得意じゃ無いし」
「そうだっけ?」
そう言えば、プールの授業ではいつも見学組だった気がするな。単に泳げないから参加してなかったのかは分からんけど。
確か自分もこの頃までは希に喘息が再発したりして、プールの時は見学してたこともあったな。
まぁ男子は女子とは違い、校庭をぐるぐる歩かされていたんだが。
「いいから行っといでよ、まっちゃん達も待ってるよ?」
「うん、それじゃお言葉に甘えさせて貰うけど……。ミキちゃんはここで、このお姉ちゃんと遊んでるの好き?」
「うん、しょーこおねーちゃんやさしいからすきー」
「わー、嬉しいこと言ってくれて! ミキちゃん、おねーちゃんの妹にならない?」
「うんいいよー」
「やったー! 前から妹が欲しかったんだー!」
むぎゅー。
山口とミキちゃんのハグ姿が何だか眩しい。ハッ、これが「尊い」というヤツだろうか?
ちなみに「しょーこ」は山口の下の名前で、漢字だと「祥子」と書く。
や、普段は下の名前で女子を呼ぶ機会なんて殆ど無いので、今になって思い出したんだが。
「じゃあちょっと遊んでくる。戻ったら、何かみんなでやれる遊びでもしようか」
「「うん!」」
おお、すっかり仲良し姉妹だな。
俺はそんな二人を(※父親目線で)ホッコリしながら見つめ、それじゃあと松元達のいる方へ足を運んだ。
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「ミキちゃんどうだって?」
心配してたのか、青野が尋ねてくる。
「ああ、山口が見ててくれることになった」
「なら良かった、グズるかもってちょっと心配してたんだ。じゃ、何しよっか」
「松元は何したい?」
「うひゃっ!?」
振り向いて松元に問いかけると、何にビックリしたのか、松元が妙な声を出して飛び跳ねた。
「なんだよ」
「いいいいや、べべ別にー?」
何だか視線が泳いでるな、いや泳ぐのはこれからなんだが。
見ればやや上気した顔の松元が、俺から慌てて目を逸らしている、何なんだホント。
「何だか分からんが、取りあえずは泳ぐか」
「そ、そうだね」
「じゃあまずは準備運動からだな」
浜辺でラジオ体操第一を軽く済ませ、俺たちは穏やかな海へと足を踏み入れた。
「うひゃー、気持ちいいー」
「海は久しぶりだなー、ねぇ、初川は?」
青野と松元が無邪気に笑っている。
「ああ、実は今年初めて来た」
「そうなの?」
「去年から山でキャンプに行くことになってさ、何でか理由は忘れたけど」
「ふうん?」
いやホント何でだっけ。そこら辺の記憶があんまり無いな。
確か小六の時、子供会主催のキャンプに参加した際に料理班に回され、他の連中とあんまり関わらずにいられたから、だった気がする。
黙々とカレー作るの楽しいです。
好みで肉の大きさを特大にしたりとかしたなぁ。同級生男子には結構な高評価だった。
「よし、じゃあ軽くブイまで行って帰ってくるか」
「ちょ、ムリムリムリ! アタシ途中で沈んじゃうよ!」
「そうか?」
「アンタとまっちゃん二人で行って来なよ」
「と言うことだが、松元は?」
「受けて立つよ!」
お前は道場破りを迎え撃つ格闘家か。
「アタシはこの辺でぷかぷかしてるからさ」
見れば手に浮き輪を持っている。む、青野はエンジョイ勢だったのか。
「分かった、じゃあちょっと遠泳してくる。松元も無理はするなよ?」
「ガッテンだ!」
……なんだかノリがおかしいな。さっきの謎の動揺といい、何かあったのか?
「まぁいいか、じゃお手柔らかにな」
「負けた方がみんなにかき氷一杯ずつおごりね」
────負けられない勝負になった。
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「行くぞ、よーい、ドン!」
二人同時にザブンと飛び込み、あらかじめ目印にしておいたオレンジ色のブイ目指して泳ぎ始めた。
実をいうと、俺は遠泳に関してはまぁまぁだが、スピードはそれほど速くはない。喘息の件もあり、全力で動くと発作が起きる可能性が高まるからだ。
プールならまだしも、海では重大な事故に繋がりかねん。
なのでどちらかというと、LSD(※ロング・スロー・ディスタンス、「長くゆっくり距離を稼ぐ」の意)が体に合っている。生前(?)自転車趣味を始めたのも、他人に迷惑を掛けず、一人でゆっくりマイペースでできるスポーツだったからだ。
とは言え、女子に負けるのはちょっと格好悪い気がするので、頑張ってみるとしよう。
「うりゃっ」
長年泳いでなかったはずが、体はしっかりと泳ぎ方を覚えていた。自転車と同じか。
子供の頃に体で覚えたものって、本人が忘れていても意外となんとかなるもんなんだな。
「負けるかー!」
松元がやや先行していたが、俺はクロールで追撃。だがなかなか追いつけない。
途中、一度横並びになったが、松元は俺を一瞥するとなおも加速し、結果は俺の負けだった。
「どーだ!」
「すげーな、松元ってこんなに泳ぐの上手かったんだ」
「まぁねー」
同じブイに掴まり小休止する俺に、松元は顔をグイっと近づけ、
「まずは一点リード!」
と、謎のセリフを吐いてニヤリと笑った。なんだ可愛いなコイツ。
「その謎勝負はいつ始まって、何点取れば勝ちになるんだ?」
「あっ、えーと……」
またもや視線がスイミング。
「あ、後で説明する!」
あやしい。とは言え、今は無事に元の場所へ戻ることが先決だ。一旦保留、うん、そうしよう。
「じゃあ戻るか。帰りはゆっくりな」
「うん、そうする」
そういうことになった。
あれっ、書き始めてみたら、思いのほか長くなりそうな予感?




