八月・番外編(2)
「と、泊まり、なんですか?」
「うんそうだよ。あれ? あきらから聞いてなかった?」
「土日とは聞きましたが、どちらか一日のことだと思ってました」
「ビックリさせたかったのかねぇ?」
そう言って、あきらの父親であるマスターがニヤリと笑った。
いや、そう言えば前日に、海だから着替えは多く持って来た方がいいよとかナントカ言われ、一応全て二着ずつ用意はしたが。
「まーここまで来ちゃったんだ。楽しんでいくといいさ」
「はぁ」
「どうせ明日には帰るんだ、夏の思い出、作っときなよ」
「はぁ」
こうして、なんだか妙に落ち着かない一泊旅行(※親公認)が始まった。
ま、確かに来ちゃったんだから仕方ない、それなりに遊ばせてもらうとしようか。
もっとも、ミキちゃんのお世話係になるのだけは、今から手に取るように分かるんだが。
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「って! いきなりなに本なんか読んでるのよ!?」
松元が目の前に来て両手を腰に当てながら、呆れた様子で開口一番そう言った。
俺はと言えばビーチパラソルの下、レンタルのシートに座りながら、SFジュブナイルの傑作『なぞの転校生』を読んでいた。
いやー、過去に戻って読みたかった本が、実際そこにあったんだもの。そりゃ何を差し置いても読むでしょ、読んじゃうでしょ。
「いや別に、海で潮風に当たりながらの読書って、いっぺんやってみたかっただけだが?」
「と言うかねー、そういうのは夜になってから部屋で読みなさいよ」
何故かプンスカしているようなので、俺は仕方なくパラソルの下から出た。
いやホラ女子って着替えに時間かかる生き物だし、ついでにミキちゃんもお願いしちゃってたから、結構かかるんじゃないかと思ってさ。
防水バッグに入れてあったのを思い出して、ついね。
「あ、やっと出てきた」
「うう、なんでこんな……」
「おにーちゃんおっそーい!」
青野と山口、それにミキちゃんからそれぞれ何やら言われつつ、俺は真夏の炎天下、焼けた砂浜に降り立ったのである。
これビーサン履いてなかったら、確実に飛び跳ねてるな。
「で、どう? どうかな?」
青野がツンツンと俺の腕を突っつき回しながら、謎の言葉を吐く。
「ホワッツ?」
「いやほら、普通は水着の女子を見たらホメるのがジョーシキでしょ!」
「そうなのか、可愛いな青野。よく似合ってるぞ、サイコーだ」
「ふへっ!?」
「なんだそのゾウに踏まれた筆箱みたいな声は」
いや筆箱から声は出ないが。
俺はちょっとからかってやろうと思っただけなので、この後はてっきり「んもー!」とか言いながら肘鉄を食らわしてくるものかと覚悟したんだが。
「えっと、その……、あ、ありがとう」
「えっ」
「その、そんな素直に褒めてくれるとは、お、思わなかったからさ」
あ、いかんいかん。またいつもの既婚者あるあるスキルが、オートで発動してしまった。
「賞賛は素直に受け取っておくが吉だぞ」
「うっ、うん。アリガト」
実際、青野は可愛らしい格好をしていた。
中学生とは言え所詮は子供。いつものスクール水着だと勝手に思っていたんだが、濃い目のグリーンが目に鮮やかな、ワンピースタイプなのである。
そこへプラス、テレた顔とも相まって、ちょっと写真に撮った後にA3のポスターにラミネート加工をし、飾っておきたくなる可愛らしさと言うかいじらしさだった。
いや俺キモイな?
「そこの二人ー、誰か忘れてないー?」
松元か。こっちはこっちでワンピースタイプだが、ブラックでビシッとキメたコーディネートが、長身でスレンダーなボディにとてもマッチしていた。
「松元はカッコイイ系か」
「ふっふーん、どーだ参ったか!」
「ああ完敗だ、目が離せなくなるぐらい、よく似合ってる」
「わー、わー」
おべんちゃらだと笑わば笑え。いや実際170センチに近い松元は、普段から部活で鍛え上げられたカモシカのような脚もあってか、モデルみたいなスタイルなのだった。
駄肉の無い引き締まったボディラインは、この時期の女子特有の美しさがあるよな。
「それと山口は」
「うひゃいっ!?」
「なんだその謎リアクション」
「よ、よくよく考えたら、私服の水着で異性の前に出ることって、は、初めてだし」
「光栄だな、ありがとう」
「そ、そういうことをサラッと言わない方がいいと、ボクは思うんだけど」
山口は貴重なピアノ係ということで、特に部活には所属しておらず、屋内で過ごすことが多いせいか、透き通るような白い肌が他の二人とは違っていた。
かと言って不健康に太っているとかそういうことは無くむしろ逆で、お前普段ちゃんとご飯食べてるか? と心配になるような細さなのだった。
それを白と水色の水玉模様のタンキニ……だったっけ? のセパレートタイプで、他の二人とは一見して違う、どこか「THE・夏のお嬢さん」とでも言いたくなる雰囲気を醸し出している。
「いや、十二分に可愛いと思うぞ?」
「あああ、ありがと」
「水着のチョイスが『分かってるなー』ってカンジだ」
「うう」
「自分で選んだのなら誇って良いと思う、すごくよく似合ってる」
「ぷしゅー……」
あ、倒れた。他の二人が慌てて体を支え、さっきまで俺が座っていたパラソルまで運んで行った。
「おにーちゃん!」
「はいカワイイ!」
「えへへー」
みんなこれぐらい単純なら話も早いのに。そう思ったが口に出すのは憚られた。
やはり頑張って選んできたその行為というか好意を、無碍にはできないからね。
うん、完全に父親目線だな、コレ。
ちなみにマスターはと言うと、ビーチパラソルその他諸々の準備をしてくれた後は、海の家に入ってビールをグイグイ飲っていた。
ちくしょう、俺もそっちに行きたい。焼きそばと一緒にジョッキでグイッとあおりたい。
さて、これから何をして遊ぼうか。




