八月・番外編(1)
番外編です。
……海である。
紛うことなき海である。
これでもかってぐらい晴れ渡った青空に、これまたこれでもかってぐらいのもっくもくの入道雲。
加えてギンギラギンな灼熱の太陽。おい、さり気なさが全然足りてないぞ。
地球温暖化あるある詐欺なんて全く無かった時代、子供の頃によく見た、思い出の中にしか存在しなくなってしまった、そんなマンガみたいな景色がそこにあった。
夏休みに入って早々、青野の家の問題を片付けたオレと、その時のメンバー全員がここにいた。
つまり青野、松元、そして山口の三人である。それと何故かミキちゃんも一緒なのであった。
話は三日前にさかのぼる。
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公民館内の図書室で青野が突然立ち上がり、拳をグッと固めてこう言った。
「このままじゃいけない」
「いきなりなんだ」
夏休みの宿題は冷房完備のここでやろう、と申し合わせて集まったこの日。
何故か青野が燃えていた、いや精神的に暑くなりそうだからカンベンしてくれ。
「いきなりじゃないよ、ねぇ?」
「そうだね、いつにしよっか」
青野の投げたセリフを受け、松元が手を止めて言葉を返す。
「今週末とかいいんじゃない?」
「あーそうだね、その日は習い事も無いし」
そして更に松元の言葉に山口が同意の意を示す。
「何の話??」
可視化されそうなハテナファンネルを(※精神的に)手で払いながら、オレは尋ねる。
「ホラ、青ちゃんの一件で、いつか遊びに連れて行けって言ったじゃん」
「ああ」
すっかり忘れていた。と言うか、伊吹先輩の件で吸った揉んだしてたせいで、脳内から完璧に抜け落ちていた。
いやなんだ今の誤変換。
と言うか、気付けばもう盆休みなんだよなぁ。そりゃ習い事も何もお休みになる訳だ。
「てことで、ウチの親がいつでもクルマ出すって」
「話が走り幅跳びしたぞ?」
「だーかーらー!」
青野がドンッと机を叩く。お前な、周囲のお客さんに迷惑だろ、と言おうとしたが、この時期のこんな時間に、こんな場所で黙々と勉強なんかしているのはオレ達ぐらいなものだった。
「今度の土日、みんなで近くの海に行かない?」
「「おおー」」
パチパチと松元、山口から拍手が上がる。
「で、どう?」
「どう、とは?」
「アンタも一緒に行くのかって聞いてるんだけど」
海か。
そう言えば生前(?)は子供が小さい時分に何度か連れて行ったが、中学に上がる頃には海水浴はおろか、家族旅行にもあまり行かなかったんだよな。
当時は自転車のツーリングクラブに一緒に参加していて、どちらかと言えば山でキャンプがメインだったし。
熱い砂の上をキャッキャしながら飛び跳ねていた子供の記憶が蘇り、……自然オレの目頭も熱くなった。
「え、アンタなんで泣いてるの」
「あれ、そんなに楽しみだった?」
「ははーん、さては女子に誘われたのが泣くほど嬉しかったんだね」
いやそうじゃないんだよ。
色々あった家族だったけど、例え今からやり直したって、同じ子供が生まれてきてくれるとは限らないんだよなとふと思ったら、なんかこう、ね。
そうか、そうだな、オレはもう二度と我が子とは会えないんだった。
ああ、いま初めてここに来たことを悲しく思った。思ってしまった。
(あー、余計な世話を焼いてしもうたかの)
(オオトモさまですか、いえいえ滅相も無い。あのままじゃどっちみち死んでしまって、二度と会うことは出来なかっただろうから、結局は同じですよ)
(うーむ、最初はえらく”どらい”な性格じゃのうと思っていたが)
(まぁこれでも一応父親でしたからね、でも悔いは無いです、ありがとうございます)
(あまり自分一人で考え込まぬ方が良いぞと、一応忠告だけはしておく)
(はい、そうですね。またこうなっちゃったらお付き合い下さい)
(うむうむ、よかろう。ではな)
そうだな、何もかもが”今さら”だ。
それに国民的大人気の青い猫型ロボットにも、このパラドックスの説明があっただろ。
『東京から大阪へ行く手段は幾つもあるのと同様に、結婚相手が違っても、結果として同じ子孫が生まれてくるでしょ』ってヤツ。
……いや、遺伝子からして違うので、全く同じ子孫というか我が子は出来ないハズだが。
まぁその辺りは今は置いといて。
オレはちょっと恥ずかしくなり、目元をグッと拭いてこう返した。
「そうだな、久しぶりだし楽しみだ」
顔を上げると、何故か女子みんなでハイタッチしあっていた。
あれ、これってあらかじめ仕組まれてた?
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てな訳で、オレと青野、松元、山口、そして何故かミキちゃんの五人は、これまたお盆休みで店を閉めていた青野の父親が運転するクルマで、小一時間ほどの所にある海水浴場にやってきたのであった。
ちなみにこの小旅行の話を聞いたミキちゃん、
「おにーちゃんがいくならいっしょにいきたい!」
とだだをこね、親たちに泣いてすがり、最後に暴れたのである。
そこでドライブイン『風嶺夜』のマスターである青野父に相談。
顔の広さでは村内随一の利を活かし、ミキちゃんの件を快く承諾の上ミキちゃんの両親に連絡。
親御さん達もマスターなら安心ということで、同行の許可が出たのだった。よかったね。
と、ここでマスターから一つ爆弾発言があった。
「あ、知り合いのやってるコテージ借りてるから、今夜は泊まりだよ」
………………。
…………
……は?
オレ達の夏休みはまだ始まったばかりだ。
うへぇ、三ヶ月も空いてしまいましたか。
もう少しペース上げないといけませんね。




