八月・5
ううっ、自分の遅筆が恨めしい。
帰宅すると庭に見慣れないスカイラインが駐まっていた、そして玄関に入ると沢山の靴。
ふむ、男物と女物がそれぞれ大小二足分ずつ、そして庭の新車。と言うことは……。
夏休み恒例、叔父さん一家の来襲である。
とは言え今年はちょっと早くないか? いつもだったらお盆の時期に合わせてやって来ていたはずなんだが。
まぁ来ているものは仕方ない、と言うか叔父さんまた車を買い換えたのか。
「あ、トオル君お帰り」
「トオル兄ぃちゃん久しぶりー!」
玄関を開けて一歩進んだ時、その声と姿に瞬間、息が詰まる。
姉の方はオレと誕生月が1ヶ月違いなため、同い年なのに学年が1個下の美幸。
そして弟が、本人が中学に上がる前に白血病で亡くなった雄太である。
二人とも叔父さんに似てクリッとした愛嬌ある瞳、それがニコニコしながらこちらを見つめていた。
不意に目頭が熱くなる。そうだよ、この頃はまだ存命だったんじゃないか。ヤバイ、泣きそう。
「くっ、二人ともこんなに大きくなって……、オレは嬉しいよ」
実時間でたかだか一年ぶりの再会に大泣きする訳にもいかず、オレはこぼれ落ちそうな涙をごまかすため、わざとらしく腕で目を拭う仕草をする。
そんなオレを見て、雄太が大笑いをした。
「もー、ちょっと大げさだよトオル兄ぃ」
所が美幸の方は反対に、オレを見るなり顔を真っ赤にして押し黙ってしまった。え、何か不躾なことでも言ったかなオレ。
別に胸部を見ながらの発言ではなかったハズだが、無意識に視線がそちらに向いてしまったのだろうか。向いちゃってたらゴメンナサイ。
ピンポンパンポーン♪
………………はい?
意外なタイミングでのSE音に戸惑うオレ。え、今の出所ってひょっとして……。
「お、大きくなったね、その、トオル君も」
「うん? ああそうなんだよ、なんだかやたらと背ばっかり急に伸び始めてさ」
「それと眼鏡、前からしてたっけ?」
「あー、夏前に近視が悪化して、ついに掛けっぱなしになっちゃったんだよね」
「そ、そうなんだ、……ちょっとカッコイイね」
美幸、まさかとは思うがお前も「眼鏡男子推し」なのか……。
あと今更だけど、トオルってのはオレの下の名前です。漢字だと「徹」って書くんです。
いや本当に今更だな。
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「しっかしトオル君、ちょっと見ない間に本当デカくなったなぁ、今いくつあるん?」
「165センチ、だったかな」
春に学校で健康診断を受けた時が164cmだったので、多分これぐらいにはなってるだろう。卒業間際で175cmだったしな、成長痛キツイです。
「でも相変わらずひょろ長いのなー、ちゃんとご飯食べてるか? ほら、今年も沢山持って来たから遠慮なく食え食え」
そう言って皿ごと差し出される鰻の蒲焼き。叔父さんは都内でうなぎ屋をしている板前さんでもあるのだ。羽振りが良いのも納得である。
そう言えば小学生の頃、小骨が喉に刺さって三日ほど気持ち悪い思いをしたことがあったっけな。あれ以来、鰻は余程のことが無い限り食べなくなってしまった、うん贅沢な悩みだね。まぁ今日は食べちゃうけど。
その後、叔父さん夫婦はオレの両親と酒盛りを開始。
叔母さんも母とは妙にウマが合う人で、叔父さん抜きでも電話や手紙など、こまめに連絡を取り合うほど仲が良い。
となると、子供達は自動的にほったらかしとなる。
まぁ今日は特にすることも無いし、風呂に入ったら吉田案件の計画を練り直しつつ就寝するとしよう、そうと決まれば話は早い。
「雄太、一緒に風呂入るか?」
「うん!」
この後、「先に行ってるねー」と言った雄太と、事情を知らず追いかけた姉の美幸が二人一緒に脱衣所に入ってしまい、後からやって来たオレのラッキースケベは無事(?)発動したがそれは割愛させて頂く。
いや、中学1年とは言えよくもまぁあそこまで(以下略)。
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親たちが階下の二部屋を丸々使って寝てしまったため、子供達は二階のオレの部屋で寝ることになった。
「トオル兄ぃちゃんの部屋、相変わらずカッコイイなぁ。あ、また増えてる!」
雄太が壁にディスプレイしてあるモデルガンを見て、瞳をキラキラさせている。
「触ってもいいぞ、あ、床には落とさないでくれよ?」
「いいの?」
「おういいぞ、どれ触りたい?」
「全部!」
「そりゃそうか」
金属、プラ製合わせて計5挺のモデルガンを握りしめたり、ちょっと小生意気なポーズで構えてみたりと、雄太は大はしゃぎだ。
そして元の銃の歴史や構造について分かり易く解説してやると満足したようで、パタリと倒れてご就寝となった。子供はスイッチのオンオフがハッキリしていて面白い。
「雄太、もう寝ちゃったの?」
「はは、久しぶりだし楽しかったのかな」
相も変わらず子供達は、二階のオレの部屋で雑魚寝である。
そろそろお嬢さんも落としどころ……もとい、お年頃なんだから、部屋は分けた方がいいんじゃないですかね叔父さん。
そんなオレの心配を他所に、美幸がこっちを見ながら続ける。
「自分ちには男兄弟がいないから、トオル君の家に行けるとなるとすごいはしゃいじゃうんだ」
「そうなんだ。それにしても雄太、大きくなったなぁ。もう少ししたら声変わりするんじゃない?」
「うーん、どうだろ。これでもクラスの中ではまだ小っちゃい方なんだ」
「ひょっとしてまだ生えてないの?」
「?!」
……あ、いけね、失言でした。美幸がビックリしてフリーズしてしまった。
いや、親としての時間が長かったし、やっぱり気になるじゃん男の子の第二次性徴。
とは言え、お年頃の娘さんの前で生々しい話は禁句だったね。
「うわごめん。ちょっと今、海より深く反省してる」
「とっ、トオル君、自分も一応女子なので、女子なので!」
わたわたと焦るオレ達は、その後なんとか話題を(ムリヤリ)変更することに性交した、もとい成功した。つーかいい加減にしろオレの脳内IME予測変換機能コノヤロウ。
そして仕切り直した会話を続けるうちに、何故か美幸が明日、オレの学校に遊びに来たいと言い出した。
「まぁいいけど、何するんだ?」
「トオル君の学校に興味あるだけ。と言うか、お父さんも毎年柔道部にお邪魔してるって聞いてるし、それも見学したいかなって」
そうなのだ。
美幸の父親、つまり叔父さんは当然だがオレの中学のOBでもある。
小学生の頃から柔道をしており、その後「毎年死人が出るほどキツイ」とまで言われていた運動系大学の柔道部に所属。卒業する頃には黒帯を取ったすごい人なのである。
ちなみにその柔道部のせいで、彼の大学は当時実際にある名称をもじって「酷死漢大学」と揶揄されていた。
卒業後、カタギとは縁遠い「そのスジの方達」から用心棒のスカウトが来る、と言えば分かりやすいだろうか。
しかし叔父さんはそのまま都内のうなぎ屋に弟子入りし、現在に至っている。
そして毎年夏になると実家であるここに来ては、校長に請われて柔道部員達に稽古をつけているのである。いやはやパワフルだね。
「ふうん、まぁOBの娘だし、大丈夫なんじゃないかな」
「そう、じゃあ決まりね」
「何が楽しいんだか」
「それにトオル君のクラスメイトにも会ってみたいし……」
「ん?」
「なんでもない、おやすみっ」
……付け加えるならば。
雄太を挟んで部屋の反対側で何やらブツブツ言ってるこの美幸も、中学では柔道部に所属し、その実力は都大会ナンバー2だったりする。
……遅筆なので固定の読者さんがいるかは分からないのですが、もしよろしかったら評価・コメントなど頂けると泣いて喜びます。




