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バレンタイン×バタフライ  作者: 新田猫レ
18/71

八月・4

 翌日。


 度会先生からの情報を元に、オレは次の段階へと計画を進めようとしていた。

 ズバリ、宿直室内を撮影するために隠れられるスペースがあるか否かの確認である。

 ちなみに今は、午前の部活が終わった直後の昼休みだ。


 田舎の学校ゆえ、普段から施錠もされていないその部屋の前に、「たまたま通りかかったんだけど、ちょっと興味が湧いちゃいました」といった風で立ち寄ってみる。


 一応周囲を確認した後、フラリと一歩入って室内を見回したが、……あ、これアカン。

 死角になりそうなデッドスペースが一切無いぞ、これは困ったな。


 天井は薄い杉板で、とてもじゃないがニンジャよろしく屋根裏に隠れることは不可能っぽい。

 ヘタをしたら踏み抜いて、そのまま部屋へ真っ逆さまである。

 ぐるりと見回せば窓の一枚も無く、外からガラス越しにコッソリ撮るのも不可能だ。

 どうにも八方塞がりだな。


 視線を下に戻すと、ちゃぶ台と小さなテレビ、扇風機なんかがあるだけだ。

 まぁ仮眠を取るだけの部屋だからな、こんなものだろう。

 逆にこんな狭い空間に、人ひとり潜んでいられると思う方がどうかしている。

 呼吸音やら気配やらで絶対にバレること請け合いだ。


「うーむ、これじゃA案が実施できないじゃん」


 本当はガッツリと雑誌を見ている所をカメラに納めたいのだが……。

 仕方ない、計画の再検討が必要だろう。

 となるとB案か。


 オレは回れ右をすると宿直室から出て、昼ご飯を食べるべく図書室へ向かった。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「初川クン、その後どう?」


 持参した弁当を完食した所で、伊庭先輩が声をかけてくる。


「ちょっと計画の練り直しが必要ですね」

「そうなの?」


 そこでオレは先輩女子達に、宿直室での撮影は不可能であることを説明した。


「そうなんだ、いい案だと思ったけどなー、残念」

「そこでB案なんですが、これちょっと時間がかかるんですよね」

「どんな方法なの?」

「例の雑誌を吉田に預ける所までは同じなんですが、吉田がその本を宿直室に持ち込んで見ていた、という事実がまず要ります」

「んーとつまり?」

「誰かに『第一発見者』になってもらい、良からぬ噂を立てて貰う必要があるんです。出来れば複数人に」

「続けて」

「次にその噂話を、自分の親御さんに『目撃者もいる厳然たる事実』として説明し、それを親同士の連絡網で広めてくれるようにお願いするんです、『あんな変態教師はこの学校からいなくなって欲しいんだけど』って感じで」


 そう、B案とは要するに、

『吉田がヤバい雑誌を宿直室に持ち込み、それを眺めていた所を事もあろうに女生徒に目撃されたのは噂では無く事実であり、それを村中に拡散すること』

なのだ。


 何せSNSなんて小洒落た技術どころか、電話機はまだまだ黒電話がメインのこの時代。

 基本は口頭による伝播が主流、噂話や陰口は井戸端会議なんかでよく広まってた記憶がある。

 早い話、女生徒の母親達に吉田排斥の協力を内密に、そしてひっそりと取り付けるのが目的なのだった。


「なるほど、確かに噂が定着して吉田が学校に居づらくなるには、ちょっと時間が必要かもね」

「そうなんですよね。まぁあともう一つ、B案をたたき台にしたC案もあるっちゃあるんですが」

「そうなの?」


 そこでオレは一息つき、それからゆっくりと続けた。


「実はあまりお勧めできない方法なんですよね、巻き込む大人が増えますし。そうするとこの計画に勘づいてしまう人も増えるかも、という危険性がありまして」

「それはどういう内容なの?」

「いやだから、やりたくないんで今はお話しできません、勘弁して下さい」

「うん、まぁいいか。じゃあ今後私たちはどう動けばいい?」


 そこで伊庭先輩はこちらをじっと見つめたまま、真正面からずずいっと近づいてくる。

 長いまつげがよく似合ってるなー、肌のハリとかツヤがすごいなー、流石中学生だわーとか感心している場合じゃない。

 最初からこっちをジーッと見ている青野が、後ろで目をまん丸にしている様子が見て取れたからだ。


「いやちょっと顔が近いです先輩キスしていいですか」

「!?」


 お、すごい勢いで離れてくれた、気付いて頂けたようで何よりです。

 先輩にしか聞こえない程度の小声だったし、まぁこのぐらいの茶目っ気は許してくれるだろう、くれるよね? くれないとちょっと困る。


 ピンポンパンポーン♪


 ……いや絶対に嫌な顔されると思ってたのに、なんで好感度あがるんだよ。


「……っ、……っ!」


 伊庭先輩の頬の赤味がゆっくりと広がっていく。

 ゆっくりと堪能したかったんだが、今は自重しとこうな?

 それに青野以外の他の女子生徒達も、何事かとこちらを注視し始めたので、オレは勢いよく席を立って声をかけた。


「ええと、まだ何もして頂かなくて大丈夫です。というかこれから動き方を考えますので。……よろしいでしょうか?」

「う、うん、分かった。じゃあ決まったら教えてね」

「はい、ではまた」


 オレは慌てて弁当箱をバッグにしまい、図書室を後にした。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 ……うあー失敗したなー、また無記名チョコレート犯の容疑者が増えてしまった。

 最近はむしろ減って欲しいと思ってたのに、どうしてこうなった。

 ちょっと学校の前にある駄菓子屋でマックスコーヒーでも買ってこよう、うんそうしよう。

 頭と体を冷やして自省しろ、この大間抜けが。


 生徒用の玄関口にある姿見の鏡にふと目をやると。

 そこには伊庭先輩と同じく、ちょっと頬の赤くなった一人の中学生男子が、やっちまった感全開で映し出されていた。

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