僕の仕事
今度こそ続けます。
正午の鐘がなった。
クラフト家が有するこの鐘はこの町の数少ない観光スポットだ。二百年前から存在し一日たりとも休まず突かれてきた。
歴史的観点から見てもかなり価値のあるもので、その手の研究者が訪れることも多い。
しかし、この鐘が有名たるその理由は何といっても二百年も続くその大魔法だろう。
クラフト家の時計台には鐘つきはいない。
作り出されてからずっと魔法によって動かされている。
二百年も続くほどの魔法は珍しく、
クラフト家の鐘、ロバート家の魔道人形、ライン王家の選別の帽子は特に有名で三大魔術遺産と呼ばれ、魔術研究家や旅行者が日夜訪れる。
当然、人が集まるということはそこに店を構えるものが現れる。
時計台に通じる道には多くの露店が出ており、祭日のような喧噪を繰り広げていた。
僕はそこでパラソルテーブルと椅子を用意したホットドッグ屋でケチャップを頬につけた6歳ほどの娘を連れた男を見つけた。
娘がこの場にいることに内心驚いて、つい非難めいた視線を投げてしまった。
向こうもちょうどこちらに気づいたようで、軽く手を振ってきた。
…気づいてないようで助かった。
「お待たせしました。」
時間通りに来たが相手のが早く居たので一応の謝罪をして席に着く。
「久しいなバーク。なに、こちらが早く来たんだ、気にしなくていい。」
「お元気そうで何よりですロバートさん。そう言っていただけるとありがたいです。」
テーブルに置いてある紙に注文を書く、すると紙が浮いて勝手に屋台の方へ飛んで行った。
店主がかけたのだろうか、やはり魔法とは便利だな。
「しかし、娘さんを連れてくるとは思いませんでした。」
「出るとこを見つかってしまってな、行くと言ってきかないんだ。」
そう言って娘を撫でつけるロバートさんの顔は嬉しそうで、気の抜けた顔をしてる。
どうやら僕の言いたいことはうまく伝わらなかったみたいだ。
「その…よろしいんですか?」
視線を娘の方に向けて聴けば今度は伝わったようだ。
「ああ、構わん。まだ仕事のことを理解できるほどじゃない。」
「…それならよろしいのですが。」
僕らのような人間の仕事に第三者を、それがたとえ娘であっても、連れて来るなどありえないと叫んでしまいそうな心を落ち着ける。
自分とは違って彼は普段は露見しても大丈夫な仕事をしているんだと言い聞かせる。
そのことに少し嫉妬してしまうのはしょうがないだろう。
そもそも僕はここすら来たくなかったのだ。
「それで?どれくらい集まったんだ?」
ロバート…さんの方から話を再開した。
「はい、若い男が2つ、女は1つ、年老いたのが2つでどっちも女です。」
「ほう、多いな。状態は?」
「全部綺麗な状態ですよ、確認しますか?」
「…やめろ、食事中に」
想像したのかロバートさんは口に運んでいたホットドックを包みに置いた。
「お医者様でも気分が悪くなるんですね。」
思ったことをただ口にしただけだったが、ロバートさんは嫌味を言われたように顔をしかめ、
「あのなぁ、死体が日常で飯のタネのお前と違って俺はまっとうな医者をしているんだ。
死体の相手することのが少ないんだよ。わかったか?墓堀りバーク。」
僕に侮蔑の表情を向けた。娘さんは何のことか分からずに首をかしげている。
僕は人差し指の緑の魔石が嵌められた指輪をなぞって確認したあと、気を悪くさせてすみませんと謝罪した。
僕はバーク、本名はウイリアム・バークだ。仕事は何でも扱うが主な依頼は死体盗掘。
そのせいでロバートさんや裏の人間からは墓堀りバークと呼ばれている。
もちろん蔑称。
他人様の墓を暴いて装飾品や死んで日が浅い死体そのものを売るのが仕事内容で
買うのは目の前のロバートさんのような医者や魔術研究者だったりと様々な人がいる、今ロバートさんと話しているのだって彼が入用だというから用意したのだ。
僕からすればそんなに欲しけりゃ自分でスコップをもって墓地に行けばいいと思うのだが注文すれば出てくることに慣れてしまったのだろう。
…特にロバートさんのような人間は。
「それでいくら必要なんだ?」
死体に値段をつけるという冒涜にすっかり麻痺してしまったくせして自分は僕と違うと思っているのにお笑いだ、いや、医者という仕事上しょうがないのかな?
他人の不幸で金を儲けている人間なのはなんら変わらないくせに。
だけど、僕は微笑みで胸の内を隠して値段を告げた。