王女と死体盗掘人
「それって犯罪……ですよね?」
恐る恐るというようにハル王女は聞いた。
僕はきっぱりと答える。
「その通りです」
「なぜ?」
「それは死者を侮辱し、残された遺族や友人たちを悲しませる行為だからです、法という観点からという話ならそれが犯罪だと定められているからでしょうか」
「そうではなく!なぜそのようなことをなさっているので……す……か」
ハル王女が声を荒げていった、といっても自分の大声にあまり慣れていないのだろう尻すぼみして小さくなってしまったが。
僕は馬鹿じゃない。もちろん分かっていた、ハル王女が本当に聞きたいことくらい、でも、言いたくは無かった彼女のことを聞いといて卑怯だと思うのに自分から彼女を呼んだのに今話したら僕は許されたくなって、認めて欲しくなってしまいそうで。
でも彼女の勇気を無駄にするわけにはいかない。
「強いて言えば、魔法が使えないからでしょうか」
魔法社会に入れずつまはじきにされて流れた結果がこの仕事というわけだ。
ウイリアム家がもっと地位を持っていれば困ったりはしなかったのかもしれないけれど、魔力もない、地位もないとないものねだりしたところでどうもならない。
とはいえ、誇りある我が家を、ウイリアムの血筋を僕の代で没落させるわけにもいかない。
魔法が使えた母様はともかくぼくとおなじだったお爺様もその義務を果たしてきたわけだし。
「家のためにもお金は必要ですから、それに我が家は大きい」
言葉通りの意味だけでないことは彼女にも伝わっただろう。
「辛くはないのですか?」
「辛くなかったことのが少ないですが、僕の生きがいみたいなものですからね。
辞めるわけにはいきません、それに……」
僕の血しか僕を肯定してくれないから。
「それに? なんでしょうか」
君に、ウイリアムの血に、どうしようもなく認めて欲しいんだ
「ハルという妹が生まれてきてくれたから僕は十分報われてるよ」
。
「……お兄……様」
「もしかしたら僕の家が大きいのは君を迎えるためなのかもしれないね?」
今。
王女、妹、エルフの子、そのすべてが彼女をウイリアム家へとつなげる要素になっている。
「だからこそ僕は君に謝らないといけない」
それは紛れもなく僕のせいだから、血も家も関係なく僕が悪い、僕の罪。
「君の家の歴史を僕という犯罪者でけがしてごめんなさい」
僕の言葉を聞いてハル王女は何かを言いたそうに顔をあげ、そして何も言わず顔を下げる、それを3往復してやっと口を開いた。
「申し訳ありません、私こういうときなんて言ったらいいのかわからないんです」
彼女の言葉もまた謝罪だった。
「人並みの経験をしたことがないから本当はお兄様がどれだけ辛かったのかなんて想像も出来ません。
謝られたこともない、許せばいいのか怒ればいいのかも分からないんです」
彼女は下げていた顔をゆっくりとあげて僕と視線を交わす。
「お兄様の言っていた通り。
過去が私を作り上げている、空っぽの私を今ここにつなげているのですね」
「ああ、そうだよ」
「つまり、私はお兄様の謝罪を受け取れるような人間ではないのです。
……申し訳ありません」
僕が一番わかっていたはずだったのに……。
今あんなことを彼女に言ったって彼女を困らせると分かっていたのに。
それでも僕は君に許してほしいと思ってしまった。
「ごめんね」
「なぜお兄様が謝るのですか?」
「……いや、何でもありません」
そういうのが僕を悲しませるんだよハル。
とは言えない、それじゃ無痛症の相手に石を投げるようなものだ。
相手が感じないからといって非道な行為なことは間違いない、さっきの僕みたいに。
もしハル王女が許すと言っていたら僕はどう思ったんだろう。
きっと罪悪感に苛まれていたんじゃないだろうか、何も知らないハル王女に僕のことを肯定してもらったって意味は無いのも分かっているのに。
ほら、もう自己嫌悪してる、なれたもんだけど。
嫌いになることばっかだから。
口だけだなぁ、僕って。
ハル王女に言っといて自分でできてないんだもん。
あの後、いくら許可があるとはいえ女性、しかも王女を僕の部屋にずっといさせるわけにもいかないのでしばらくして送り返した。
メイドを呼ぼうかと思ったがハル王女は避けられている立花尾で僕が付き添った、本末転倒とも言えなくない。
おたがいにおやすみの挨拶をして別れた。
一瞬、その「おやすみ」は墓堀りの僕への釘指しなのではないかと思ったがまあないだろう。
どちらにせよ、今日はもう何もするつもりはない。
旅の疲れからかすぐに瞼は落ちた。
レクラム国のいざこざが終わったらヤンデレ書くんだ