エルフと非魔法使い
考えることでもない、僕はウイリアム・バークでウイリアム家の当主なのだ。
母の血を引くというこの妹にウイリアム家の歴史と誇りを受け継いだのではない。
それは僕のものでそれを伝えるのも僕の意思だ。
断じて王妃のものではない。
「これはあなたにはぜひ知っていただきたい。
まず僕は魔法が使えません」
ハル王女は僕の言葉に眉を上げた。
「子供の頃はそれで少し苦労しましたが、でもこの魔法を使えないことも僕の誇りなのです」
「誇りですか?」
「ええ、僕が魔法を使えないのは僕がウイリアム家の人間であることの証明でもあるのですから」
何度だってそう言おう。
この体は類なる奇跡でできている。
「そしてハル王女、それはあなたもです。
あなたのそれは我がウイリアム家の血を色濃く受け継いでいる」
僕はそっとハル王女のフードに手をかける。
彼女は怯えたように体をこわばらせた、でも逃げないしやめろとも言わない。
これはそういう風に『教育』されてきたのか、それとも僕に気を許してくれているのか。
いや後者はないか。
申し訳ない気持ちと兄として許せないという怒りを感じながらフードを上にあげる。
「あっ」
「恥ずかしがらないで」
下を向こうとする彼女に、
「恥ずかしがらないで」
もう一度告げる。
少しづつ顔をあげてやっと僕と彼女の目があった。
「ねえハル、君は何もないというけど僕の妹でウイリアムの血を引いてるというのじゃダメかな?」
「……お、お兄様?」
「失礼、ハル王女」
「い、いえ大丈夫ですが……」
持ったままだったフードを被りなおさせる。
「ハル王女、あなたはどうあれ僕の妹です。
そしてウイリアム家の血を引いている、そのことに誇りを持ってください」
「でも、私は正式に生まれたわけではありません、フラスコから」
僕は王女の言葉を遮って言った。
「それでも僕はあなたを妹とそしてウイリアム家の正式な血族と認めましょう」
だからエルフの先祖返りとして生まれたことを悲しまないでほしい、それは僕たちの誇りなんだ。
いつか君にもそう思ってほしい。
蔑まれたって石を投げられたって血が僕たちを肯定してくれる。
それに……。
僕は母からもらった緑の指輪を撫でる。
悪いことばかりじゃない。
「といっても家はそうでも僕の仕事はあまり褒められたことじゃないですがね」
「まぁ、何をなさってるんですか?」
「墓堀りです」
「墓堀り?」
ハル王女は墓堀なんていう下賤な仕事はご存じないようだ。
いやそもそも仕事じゃないか犯罪だ。
「ええ死体盗掘人です」
ハル王女の息をのんだ音が聞こえた。
なんだ墓堀りという俗称を知らなかっただけでこっちの正式な呼び名は知っていたのか。
いつも短くてすいません