兄妹
部屋に運ばれた夕食を食べた後、何をするでもなくベットに腰かけていたのだけど、一時間たったか経たないかくらいで部屋のドアがノックされた。
「いま、あけます」
ドアの前にいたのはやはりというかハル王女だった。
城、といっても彼女にとっては家の中でもローブをした彼女が部屋の前で所在なさげに佇んでいた。
「どうぞお入りください」
ここは彼女の家なので、自分で言ってても何様なのかと思うが彼女は気にした風もなく、むしろ僕の許可を待っていたかのように頷いた。
部屋に入ったハル王女にテーブルの椅子を引っ張り出し座ってもらい僕も向かい合うように座った。
真正面と言うこともありフードの下に隠れた顔がかすかに見える。
改めてみると確かに母様の面影があるかもしれない、目のあたりは僕と同じで母様の血が濃く出たのか。
「それでお兄様は私にどう言った御用なのですか?」
じろじろと見ていたのに気づかれたのかもしれない、いや単に話さない僕に焦れただけか意外なことにと言ったら失礼か、彼女の方から話を切り出した。
「用というほどでもないのですが、何分いきなり妹だと言われて驚いてしまいまして、それで貴方がどのような人間なのか、僕がどんな人間なのかお話の中で分かっていければと思いまして」
僕の言葉にハル王女はなぜか、なぜかひどく傷ついたような表情をしたのが僕は悲しかった。
早くも血のつながりの情が移ってしまったのだろうか。
彼女の笑った顔、社交用の笑顔ですら僕はまだ見ていなかった。
逆に僕はずっと薄く笑ったような顔しかしていないからつり合いはとれているともいえるけど。
「ありません」
彼女はたっぷりと考え込んでそう言った。
「それは僕に話すことなど無いということでしょうか」
「それは半分間違っていて半分あっています」
僕はこの城になぞなぞをしに来たわけじゃないんだ、クラ王妃もそうだがもっと分かりやすく話してほしい。
そんな僕の思いが通じたのかハル王女は語り始めた。
「私にはどんな人間かと語る過去がないのです。
フラスコから生まれて今も生きている、語るとしたらこれで終わってしまいます」
随分簡潔に言うがその表情はやっぱり悲しそうで僕は彼女の言ったことを否定したくなった。
「じゃあ、お城ではどのように過ごしていたんですか?
生きている限り零と言うことは無いはずだ」
「……そうですね。
お母様の言うことをずっと聞いてきました、外に出ないように、人に見つからないようにと
それって過去と言っていいのでしょうか、何もしていません。
ただ生きていただけです」
「中身がなくても過去は過去ですよ王女。
貴方にとっては残酷かもしれませんが、その過去が今のあなたを作り上げているのです」
良くも悪くも生きている限り過去は消せないし繋がっている、幸いなことに不可逆で追いかけてこないだけだ。
墓の下に眠っているのがその終着点というわけだ、僕がやっているのは少しそこにストーリーを与えているだけだと言ったら素晴らしい仕事をやってるように聞こえないだろうか。
……ゴミみたいなポエムだと思われそうだ。
「……私のことはお判りいただけたでしょう。
では、お兄様はどのような人間なのですか?」
お互いについて知ると言ったのだから彼女が僕のことを言効くのは当然だ。
でも、何もない彼女と歯か嵐の僕じゃ話すリスクが違いすぎる。
さて、どこまで、どう話そうか。