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呪いを解いて、魔法をかけて  作者: 音鳴竜司
1/1

プロローグ 〜呪いをかけて〜


連載小説は初めてなので至らない箇所もあると思いますが、よろしくお願い致します。

基本、平和な物語になるはずです。



「すまない、呪いが」


私の腕の中で、疲れて息も絶え絶えなお爺はそう呟いた。お爺の周りには、バチバチと音を立てながらも収束していく魔方陣と、あちこちへ飛び散った液体があった。

お爺の魔法実験は多分失敗したのだ。そして、その反動は呪いとして魔法を唱えた者に降りかかる。


「こんなに部屋も汚して...何をしたの」


私は半ば呆れてお爺を見る。お爺は毎度、実験をしては失敗を繰り返す。今回もドン!という大きな音に驚いて、お爺の部屋に駆けつけてみればこれだ。

倒れていたお爺を抱き上げて見たところ、怪我はしてなかったようなので安心した。実験は失敗したようだけど。


確か、お爺は呪いでファンキーな紫髪になったこともあったし、三日三晩猫になってしまったこともある。声がまるで美女になってしまった時はどうしようかと思ったものだったけれど、これでいてお爺は大抵どこからか呪いを解く魔法を見つけてきては元に戻ってるから、この時結局たいして心配はしていなかったのだ。

お爺を部屋の奥にあったソファに座らせて、くすくす笑いながら私は尋ねる。


「今度の呪いはどんなものなの?いったい何が起こるの...?見たところは何も変わってないけど...」


冗談半分で聞いたはずだった。なのに、白い髭と長髪が邪魔してよく見えなかったけど、お爺が一瞬ためらうように悩んだ様な気がした。そんな表情を見せるのはとっても珍しい事だった。

お爺は能天気という言葉がよく似合う人だったから。


「呪いとか、色々どうするか今相談中だ」


「えっ、誰と?」


「こう...出てきたモノと?まぁほら、大丈夫だからちょっと向こうで待ってなさいな」


「えぇ...?出てきたモノって何!?」


お爺はしまったという顔をした。本当に、すぐに顔にでる人だ。何だかアワアワして、虚空も見つめ出した。どうしよう、イタズラがバレそう...って焦る子どもみたいな感じだった。

だから、私に隠し事をしてるけどそんなに緊急事態でも無い事を雰囲気で掴んで安心したんだ。

大丈夫そうだし、ここは、大人しく退出しようかな。

私に知られたくない事もあるよね。


「推測だけど、ちっちゃなスライムとか召喚しちゃった?ねぇ、落ち着いたら、聞かせてね」


そう私が言うと、お爺は分かったよ、とホッとした様子で頷いてくれた。


でも、部屋を出て行こうとドアノブに手をかけた時、バカ、というちいさな悪態を聞いた気がした。お爺の声では無い、若い、低い声。うそ、誰かいるの?


「ねぇ!なんか人の声した!?」


「し、してない!してないぞ」


盛大に怪しい反応をくれたお爺を問い詰めたい気はしたけど、さっきあとで聞かせてと言った手前、それ以上追及するのもしつこいかと自重した。

近所の方に茶目っ気ドジな魔法使いさんって呼ばれてるお爺だ。地獄の蓋は開けてないでしょう。


「...本当に、危ない事はしてない?」


「してませんとも...」


お爺は神妙に答えた。そして、続ける


「お前を、悲しませるようなことはしないよ。ほら、おいき。私はちょっと作戦会議だ」


「ほんとにどういうことなの...」


私はため息をついて呆れながらも、お爺を信じて部屋から出ようとした。

お爺の魔法実験で中断してきた洗い物が、まだ半分ほど残っているのだ。だいぶ気持ちが家事にいきかけたところで、今度はしっかりと、「バカ」と呟いたあの声を耳で捉えた。


「まだるっこしい」


口が悪いなと思ったけれど、とても響く声だとも思った。声の主が知りたい。

振り返ってみると、そこには痩身の青年が立っていた。黒く長い髪を緩く結わえているのが印象的な、大きくしなやかな人。俯いていて、顔は見えない。


「あの...?」


「あのやろ、手際というか、計画性なさ過ぎる」


そう言って、いきなり現れた御人はお爺を視線で刺した。お爺はひぇっと身をすくめる。


「愉快な動きしてんと、こっち来い...」


お爺、この人の声色にも呆れが見えるよ...。

お爺はトコトコと申し訳なさそうに近づいてきた。

私とお爺が横並びで立っていて、正面に彼の青年が立ちはだかる状況になった。

ここから闘いが始まれば、十中八九勝てないと思ったけれど、幸いなことに黒髪の御人からは敵意を感じなかった。彼は私を見てにっこりと言う。


「苦労するね、お嬢さん」


「あっ!いえ、お爺は、その、そこがお爺の良い所とでも言いますか...いえ、この度はご迷惑をおかけしたようで誠にすみません...」


「いや、そういうあれじゃないんだが...まぁそうか、お爺か。そうだよな」


なし崩しに謝ってしまった私をよそに、彼はこちらを見ながらぶつぶつと考えこんでしまった。いけない事を言ってしまったのではないかと緊張してしまう。

しかし、そもそもなんで私に話を振るんだろうか...。何となく察するに、この方はさっきお爺が言った「出てきたモノ」なんだろう。

となれば、契約者はお爺だ。私は部外者と言ってもいいレベルだろう。早く、退出しとけば良かったかな。お邪魔になってしまうかもしれない、私。お爺に聞いてみよう。


「ねぇ、お爺」


「...なんだい?」


お爺は少し間を空けた後、いつものように優しく私の声に応えてくれた。私は、お爺に詳しい説明を聞くつもりだった。

でも、それは出来なかった。


「グレゴリオ・バロン!」


お爺の名が、たまらないような痛みを持って叫ばれた。私は驚いて、お爺に話しかけるのをやめ、その名を呼んだ人を見つめた。彼自身も動揺した風に、自らの手で口を覆ってしまった。ねぇ、何でそんな悲しい声でお爺を呼ぶの?

そして、当のお爺は微動だにせず、彼を見ていた。お爺は何を考えているのだろう...?

そういえばこの時、私は戸惑いの中、黒髪の御人がとても美しく、また芯のある鋭い瞳をしている事に初めて気がついたのだ。でも、それ以上彼の容姿に想いを馳せるどころではなかった。一体、彼はいきなりどうしたというのだろう。

結局、その謎は明かされないまま、彼は瞬時に落ち着きとあの低く響く声を取り戻し、お爺に告げた。


「すまない、取り乱した。俺はきっと見たくないのだろう。もう、手っ取り早く行く」


「そうだね...頼むよ」


お爺は端的に答えた。どうやら、状況を分かってないのは私だけらしい。もう、不安げな顔でお爺を見上げる事しか出来なかった。お爺は笑って言う。


「大丈夫、目が覚めたらまた会えるよ。君に魔法をかけよう。お休みなさいよい夢を、ノア。」


そう言って頭をクシャクシャとなでられた記憶を微かに残して、私は眠ってしまった。お爺の魔法が上手くかかったのだろう。私は結局、何も分からないまま意識を手放した。


だから私はこのあと、こう呟かれた事を知らない。


「ノア、君に呪いをかけよう」


私の名前はノア・バロン。この時は確か21歳だった。

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